【ものづくりDX CAMP|DAY.4】フェーズ3:業務改革の鍵を握る「デジタライゼーション」
業務の一部をデジタル化しても、現場の課題はなかなか解消されない。真に成果の出るDXへと進むためには、業務プロセス全体をつなぎ直し、最適化する「デジタライゼーション」のステップが不可欠です。
DX推進のフェーズ3「デジタライゼーション」では、これまでデジタル化したデータを活用し、業務プロセス全体の効率化と最適化を目指します。
本記事では、デジタライゼーションの意味と位置づけを整理し、具体的な取り組み例や注意点を解説します。
1.デジタライゼーションとは何か?
「デジタライゼーション」とは?
デジタライゼーションとは、特定の業務プロセスをデジタル技術で最適化・自動化し、全体の効率と品質を向上させる取り組みを指します。たとえば、生産管理システムを導入して受注から出荷までを一元管理したり、IoTセンサーで機械の稼働状況を監視したりすることが該当します。
ここで「DX」について振り返ると
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業のビジネスモデルや組織、働き方をデジタル技術によって変革し、新たな価値を創出する取り組みです。中小製造業がDXを段階的に進めていく際には、以下の4フェーズに分けて考えることが一般的です。
・フェーズ1:DXの準備(ビジョン策定と課題の明確化)
・フェーズ2:デジタイゼーション(アナログ情報のデジタル化)
・フェーズ3:デジタライゼーション(業務プロセスの最適化)
・フェーズ4:DX(事業・ビジネスモデルの変革)
本稿で扱うフェーズ3「デジタライゼーション」は、フェーズ2「デジタイゼーション」で収集したデジタルデータを活用し、業務の在り方自体を見直していくフェーズです。
▶関連コラム:【ものづくりDX CAMP】DXのウォーミングアップ!DX推進の4つのフェーズを知ろう
DX推進におけるフェーズ3「デジタライゼーション」の役割
デジタライゼーションは、各業務のデジタル化を超え、業務全体の流れや仕組みを根本から見直し、デジタル技術を活用して効率化や自動化を推進するフェーズです。
単なるシステム導入にとどまらず、組織の働き方や人の役割にも変化をもたらすことができ、業務全体の変革につながる、DXの要所とも言えます。
例えば、受注から生産、検査、出荷までを一元管理するシステムの導入で情報連携がスムーズになり、作業の重複やミスを減らせます。
また、IoTセンサーによる設備監視やリアルタイムの生産進捗管理で、問題発生時に迅速な対応が可能となります。
このフェーズは、単にデータを集めるだけでなく、それを活用して業務を変革し、現場の働き方や経営判断に大きな影響を与える重要なステップです。
デジタルツールの活用により、情報共有やコミュニケーションが円滑になり、現場と管理層の距離が縮まります。その結果、現場の課題や改善案が経営に迅速に伝わり、判断の質が向上します。
また、業務の効率化は従業員の負担軽減につながり、新たな価値創造やスキル向上に取り組む時間を生み出します。これらは中小製造業の持続的成長に欠かせない組織力の強化を意味します。
さらに、経営層にとっても現場の状況をリアルタイムで把握できる「見える化」を進め、リスク管理や戦略策定の精度を高める役割を果たします。
このように、中小製造業のDX推進においてデジタライゼーションは、改革の肝となる非常に重要な段階です。
デジタイゼーションとデジタライゼーションの違い
フェーズ2にあたるデジタイゼーションは、紙の図面や日報、記録などのアナログ情報をデジタルデータに変換し、データの蓄積・整理を行う段階です。
これはDX推進の土台づくりとして非常に重要で、以降の業務改善や効率化に欠かせない準備作業といえます。
一方、フェーズ3のデジタライゼーションは、デジタイゼーションで整えたデータを活用し、業務プロセスそのものを見直して再設計する段階です。
ここでは無駄な作業を削減し、情報共有をスムーズにすることで、業務の効率化や自動化を実現します。
つまり、デジタイゼーションが「デジタル化の準備」であるのに対し、デジタライゼーションは「デジタルを活用した業務改革」と言えます。
両者は連続的かつ補完的な関係にあり、どちらもDXを成功させるうえで欠かせないステップです。
特に中小製造業では、まずは正確で活用しやすいデータ基盤を作るデジタイゼーションが、フェーズ3での改革をスムーズに進めるための礎となります。
2.中小製造業における“つながらない現場”の課題
情報はあるのに、連携できない…
多くの中小製造業様では、様々な業務でデジタルツールが導入されています。しかし、「うまく活用できていない気がする…」といった悩みを抱える企業も多いはずです。こういった悩みや課題の原因となるのが「データの連携」や「データの共有」にあります。データを蓄積しても上手く活用できなければ、業務の効率化や品質向上にはつながりません。。
部署ごとにバラバラのExcelで管理された情報は、手作業で集約・転記されることが多く、そこにミスやタイムロスが発生します。また、営業・製造・購買といった各部門間での情報共有が紙や口頭で行われており、迅速な判断が難しい状況も見られます。
このように、情報の「見える化」は実現できても、「動く仕組み」が整っていないことが、現場での大きな課題となっています。
3.つながるデジタル化がもたらす業務プロセス変革
個別最適から、全体最適へ
デジタライゼーションでは、業務プロセスの各段階を「つなげて」考えることが鍵です。個別の業務がデジタル化されていても、それぞれが孤立していては効果が限定的です。
まずは、部署ごとに管理されていたExcelなどを見直し、システムを通じて情報を自動的に連携できる仕組みを構築します。その結果、現場での判断スピードが向上し、リードタイムの短縮や不良率の低下、在庫の圧縮といった効果が期待できます。
さらに、顧客対応力の強化、納期遵守率の改善など、経営指標の向上にも直結します。
また、ここで躓かないためにも、「ものづくりDX CAMP」DAY2で触れた「現状把握」の段階で、部門全体での業務フローの整理(どの業務がどこで詰まっているか)や部門間の連携方法の確認が大切です。プロジェクトを進める前の現状を把握し、以下に改善していくのか、会社全体で考える必要があります。
4.3段階で進める、現実的なデジタライゼーションの道のり
中小企業にとって、いきなり全社最適を目指すのは現実的ではありません。段階を踏んで、確実に進めることが重要です。
小さく始めて、着実に広げるためにも、以下のステップを意識してみてください。
■ステップ1|小規模導入から開始
例:製造実績の見える化、在庫管理の一部自動化など
■ステップ2|部門間の情報連携へ展開
例:営業・製造・調達のシステム連携、計画共有の仕組み整備
■ステップ3|全社統合へと移行
例:受注~出荷までを一元管理する生産管理システムの導入
生産管理システムなどの基幹システムを社内の共通言語とし、部署関係なく同じシステムでほしいデータが共有できる仕組みを整備
5.成功のためのポイントと、よくある失敗例
成功と失敗は紙一重。共通点を知って備える
デジタライゼーションの取り組みは、現場の状況や組織の姿勢によって成否が大きく分かれます。成功した企業と、つまずいた企業には、それぞれ明確な共通点があります。ここでは、効果的に成果を上げるためのポイントと、陥りがちな失敗パターンを整理します。
【成功のポイント】
・現場の業務を理解したうえでのシステム検討
・現場担当者を巻き込んだプロジェクト設計
・研修・試験運用期間の確保
・効果測定を継続し、改善につなげるPDCAの仕組みづくり
【失敗のパターン】
・一度に大規模導入して現場が混乱
・現場の意見を聞かずに進める
・操作説明や研修が不十分で、ツールが定着しない
・成果指標を設けず、導入効果が見えない
6.今こそ“現場視点”でDXを前進させる
デジタライゼーションは、現場に効くDX
デジタライゼーションは、現場の業務負担を軽減し、判断の質とスピードを高めるための実践的な手段です。ツールの導入そのものを目的にせず、「業務がどう変わるか」を軸に設計することが、成果につながります。
今できる範囲から、小さく始めて確実に定着させる。中小製造業のDXは、現場を起点にした一歩一歩の積み重ねが鍵です。
そして、業務全体をつなげて最適化する――その先にあるのは、組織やビジネスモデルの変革です。
次のフェーズ「DX(デジタルトランスフォーメーション)」では、どんな視点と準備が必要なのか?次回コラムでは、真の意味での「変革」に踏み出すためのヒントをお届けします。
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