IoTとは?意味や注目される理由、製造業の導入事例とよくある課題

著者:篠田 光貴(しのだ みつたか) IoTとは?意味や注目される理由、製造業の導入事例とよくある課題

モノ同士をインターネットで接続するIoTは、今やわたしたちの生活やビジネスの中に当たり前のように普及しているテクノロジーです。IoTを活用して、製造業の分野でも役立てようとする動きも進んでいます。例えば、作業の見える化や自動化といったものです。IoTの導入時にはどのような効果が期待できて、どのようなことに気をつけるべきなのでしょうか。本記事では、IoTの基本的な知識や導入時のメリットとリスクについて、企業事例を交えながら解説していきます。

1.IoTとは?

はじめに、IoTに関して押さえておくべき基本的な知識について解説します。

IoTの意味

IoT(アイオーティー)は「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳されています。あらゆるモノをインターネットに接続する技術を意味し、IoTによって、モノの状態を遠隔地で調べたり、操作したりすることが可能です。モノに該当するものは、自動車や電化製品、工場の製造機器などがあげられます。
似たような技術として「M2M」があります。M2Mは「Machine-to-Machine」の略で、人が介在することなく、モノ同士が相互に情報をやりとりすることです。M2Mではあくまでモノ同士の情報のやりとりを指しており、インターネット経由ではない点でIoTと異なります。

IoTの身近な具体例

身近で使われているIoTといえば、スマート家電やスマートスピーカー、スマートロック、ウェアラブルデバイスなどです。このように、IoTを活用した製品や機器の呼称には、「スマート」をつけることが多くなっています。モノへIoTやAIなどの技術を搭載することで、高度な情報処理能力や管理・制御能力を持たせる「スマート化」について具体的な例を見てみましょう。

●スマート家電
スマート家電はIoTの技術を用いた家電を指し、「IoT家電」と呼ばれることもあります。具体的には、食材の減り具合を検知して知らせる機能を持った冷蔵庫や、外の明るさを検知して自動で開閉するカーテン、外出先から遠隔操作の可能なエアコンなどです。

 

●スマートスピーカー
スマートスピーカーは、音声認識や音声操作ができるAI(人工知能)搭載のスピーカーを指します。音楽を再生するだけだった従来のスピーカーと異なり、「落ち着いた曲を聴きたい」や「ヒットソングを聴きたい」といった要望に応えて、自動で選曲する機能などを持っています。さらに、位置情報を取得して天気予報を自動で読み上げる機能や、連携した家電製品を音声でコントロールできる機能、調べ物やショッピングなどの機能もあります。

 

●スマートロック
スマートロックは、スマートフォンなどのモバイルデバイスを用いて鍵を自動開閉できる仕組みです。すでに設置されている鍵に取り付けることでスマート化できます。スマートロックによって鍵の開閉をあらゆる場所から操作できるため、鍵を持ち歩く必要がありません。その他にも下記のような機能を備えています。
・オートロック機能で閉め忘れを防止する
・開閉履歴と開閉に用いたデバイスを管理できる
・スマートフォンアプリを使って合鍵を簡単に作成できる

 

●ウェアラブルデバイス
ウェアラブルデバイスは手首や指、顔に装着して使用するデバイスです。手首であれば腕時計型のスマートウォッチ、指であれば指輪型のスマートリング、顔であればメガネ型のスマートグラスなどがあります。ウェアラブルデバイスの機能や用途はさまざまです。たとえば、スマートフォンで受信したメッセージや、SNSの投稿をスマートウォッチなどのデバイスでチェックできる連携機能があります。ほかにも脈拍や心拍、睡眠時間などを取得して健康維持に役立てたり、ARやVRの機能を持ち仮想空間の情報を表示したりといった機能も開発されています。

 

IoTの仕組み

モノに組み込まれたセンサーからデータを取得するのがIoTの仕組みです。取得したデータはネットワークを通じてサーバーやクラウド上に蓄積されます。蓄積されたデータはアプリケーション上で可視化され、制御や分析などを行うことが可能です。

2.製造業においてIoTが注目される背景や影響

次に、製造業においてIoTが注目されている背景と、その影響で浸透し始めたスマートファクトリーについて解説します。

インダストリー4.0の取り組み

製造業でIoTが注目された背景として、インダストリー4.0の取り組みが挙げられます。インダストリー4.0とは、2011年にドイツ政府が提唱した国家プロジェクトで、製造業のIT化促進を目的として考案されました。インダストリー4.0は工場の仕組み化や生産活動の自動化・最適化によるコスト削減、生産性向上などを目指すものです。さらにIoTに加えてビッグデータやAI(人工知能)などを活用した取り組みを指します。これにより、スマートファクトリーを中心としたエコシステムの構築が浸透し始めました。スマートファクトリーについては次項で解説します。

スマートファクトリーの浸透

スマートファクトリーとは、IoTやAIの導入により、生産活動の自動化や最適化などを実現した工場のことです。ドイツ政府がインダストリー4.0を提唱したことにより、取り組みが始まりました。日本の製造業においても、人手不足の深刻化や競争力低迷など、業界が抱えるさまざまな課題や問題が深刻化していることを受けて、スマートファクトリーが注目されています。AIやIoT機器、センサー、ビックデータなどを活用し、コスト削減や生産性向上の継続的実現を目指す取り組みとして覚えておきたいキーワードです。
スマートファクトリーの目的や、工場のスマート化がもたらすメリットや課題については関連コラムにて詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

関連コラム:スマートファクトリーとは?定義やメリット、注目される背景を解説!

3.製造業におけるIoT導入の効果・メリット

続いて、製造業がIoTを導入することで得られる3つの効果・メリットについて解説します。

データの見える化

1つ目はデータの見える化です。製造業がIoTを導入することにより、データの収集や分析の自動化、見える化を行いやすくなります。
製造業における「見える化」とは、生産の現場や体制に関するさまざまなデータを「見えるようにすること」を指します。見える化するデータとは、たとえば生産計画に対する進捗状況や、工場の照明、空調のエネルギー使用量などです。

生産管理の自動化

2つ目は生産管理の自動化です。生産管理システムやIoTの導入で、データ収集や蓄積、関連システムとの連携などの自動化も可能になり、効率化が図れます。さらに、IoTの導入によって、これまでは手作業で行っていた、人的ミスの起こりやすい工程を自動化するなど可能性が広がります。また、効率化によって生じた余剰の時間は、より高い価値を生み出す作業に充てられるでしょう。

機器やシステムの異常や故障の検知

3つ目は機器やシステムの異常、故障の検知です。IoTの導入でリアルタイムに機器やシステムの稼働状態を把握することで、計測していたデータの収集・蓄積も効率的に行えます。蓄積したデータに対して、AIによる解析で異常や故障を検知しやすくなります。

4.製造業におけるIoT導入でよくある課題・リスク

ここからは、製造業がIoTを導入する際によくある課題や想定されるリスクについて解説します。

導入コストが高くなる可能性がある

1つ目は導入コストの問題です。新たにIoTを導入するためには、次のようなさまざまな費用が発生します。
・通信機器やセンサーを準備する費用
・無線通信方式のネットワーク通信料
・システム開発やサービスの利用料など
また、IoTに対応できる機器や設備の用意も必要です。もし従来の機器や設備がIoTに対応していないと、新しい設備に取り換える必要が出てくる場合もあるでしょう。結果として導入コストが莫大になる恐れもあるため、導入の目的や未来像を固めた上で、導入検討時には入念な見積もりを行うようにしてください。
これらのコストを解決する手段として、各社の費用を比較検討したり、補助金や支援金などの制度を活用したりすることも挙げられます。システムやサービスの利用料金は必ずしも高額になるとは限らないため、自治体の補助・支援によって賄えるケースも多々あります。

IoTに精通した人材の確保が難しい

製造業に従事しつつIoTにも対応できる人材の確保は、業界の課題の一つでもあります。スキルを持った人材がまだ業界レベルで育っていないことに加え、IoTの歴史自体が浅く、もともとIT化が遅れている製造業では前例がほとんどありません。この課題解決のためには、次のような手段の検討が必要です。
・IoTに精通していなくても扱えるシステムの導入
・社内でのIoT人材の育成
・部分的なIoT導入で社内の理解を図る
・IoTの外注化

自社だけでネットワークシステム構築ができない

3つ目は、ネットワークシステムの構築が難しいという点です。IoT導入の際に必要となるネットワークにはセキュリティの強さが求められます。ネットワークのセキュリティが弱いと、悪意のあるアクセスによって企業の重要な情報が外部に漏えいしてしまうリスクがあるのです。そのため、常に最新の対策が必要になるものの、セキュリティシステムの構築に対応できる部門が中小製造業には多くありません。これには、専任担当者の育成やネットワークの管理を外注するといった手段が考えられます。その際、どこまで外部にサポートしてもらうのか、どこまで運用してもらうのかという交渉が必要となるため、事前に社内で線引きを決めておく必要があるといえるでしょう。

5.製造業におけるIoT導入の事例

実際に製造業ではIoTをどのように活用しているのでしょうか。ここからは、2つの企業事例を紹介します。

稼働率の見える化によって社員の意識が変化し生産高も1.7倍に

●IoT導入の目的や背景
枚岡合金工具株式会社様では、機械の稼働率を日常的に意識しているのが管理者だけで、機械が停止している時間を社員が把握できないという課題を抱えていました。同社では工場の「見える化」に取り組むことにしたものの、センサ検出だけではデータ抽出が十分ではなく、正確な稼働状況の把握が困難でした。そこで、監視方法のカスタマイズ性が高い、ネットワークカメラで撮影した画像をAIが認識して稼働状況を判断するIoTプラットフォームである「A-Eyeカメラ」を導入しました。

 

●IoT活用の取り組みと効果
A-Eyeカメラの機能である「あんどん機能」を用いて、共有モニターだけでなく、スマートフォンやタブレット端末でリアルタイムに状況を把握。停止時間や稼働率などの「見える化」に成功し、生産設備の稼働状況がリアルタイムで把握できるように。結果、機械を直接操作する社員だけでなく、営業部門の社員にも見せる化することで、「機械稼働率が上がる受注」を意識した営業活動が行えるようになりました。
また、「機械稼働率を上げていこう」という意識が社員全員に芽生えた結果、外注していた工程の内製化が進み、月別の生産高も金額ベースで1.7倍になったのです。機械稼働率の目標を立て、達成するための計画を立案、結果を分析し、改善につなげるPDCAサイクルを作り上げることができました。

※事例の詳細はこちら:稼働率の「見える化」による社員の意識変化→生産高は 1.7倍

 

稼働状況の共有で生産管理と現場の連携を強化

●IoT導入の目的や背景
コクネ製作株式会社様では、生産管理部門から出された指示通りに作業がはかどらないという課題がありました。解決のためには、生産設備の正確な稼働状況を把握する必要があると考え、IoTによる稼働実績収集の導入を検討していました。しかし、製造現場にはさまざまなメーカーの機器が10台ほど混在しており、センサなどですべての機器から稼働情報を収集するシステムを構築するには莫大な費用がかかることが判明。そこで、AI画像認識によって稼働情報を収集する「A-Eyeカメラ」の導入に踏み切りました。

 

●IoT活用の取り組みと効果
A-Eyeカメラの「リアルタイムあんどん表示」で、社員全員が社内のどこからでも現場の状況を把握できるようになりました。万一トラブルが発生しても、「呼び出しボタン」で手元のスマートフォンやタブレットからすぐに応援を呼べるようになったのです。その結果、設備の停止時間を短縮し、生産設備の稼働率を向上させることができました。
また、分析表で「機械が停止する時間の偏り、稼働率の変動」といった現場の傾向を「見える化」したことで、管理部門でも機械停止の予測、実際の作業状況に合わせた指示が可能になりました。さらに、人の力が足りないところを把握し、人手を集中させることで今まで以上に人の力を活かせるようになったのです。
社内全体で、生産管理と現場との連携を実現。社員一人ひとりが製造現場全体で稼働率を意識し、それぞれが目標稼働率を超えるための施策を考えるようになりました。結果、目標に対して上回る機械稼働率を実現し、生産性が大幅に向上しました。

※事例の詳細はこちら:稼働状況の共有で生産管理と現場の連携を強化

6.製造業もIoT導入によって業務改善が可能に 導入時は工夫を

モノ同士をインターネットに接続する技術であるIoT。すでに多くの業界で普及し始めていますが、今後は製造業においても業務の「見える化」や、生産管理を自動化するといったメリットが期待できます。本記事では、実際に業務の生産性や効率化を実現した企業の事例を交えて解説しました。
自社内の全業務をすべて一度にIoT化しようとすると、膨大なコストと時間がかかります。IoTを有効活用できる人材が少ない場合、業務改善につなげることが困難です。IoT化の推進を成功させるポイントは、誰でも扱えるシステムやサービスを部分的かつ段階的に導入し浸透を図ることであるといえます。まずは自社で導入しやすいソリューションから検討し、導入を進めていくとよいでしょう。

 

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篠田 光貴(しのだ みつたか) ブランディング戦略室

ITコーディネータ
2007年3月入社。
入社以来、東海地区を中心に生産管理システム「TECHSシリーズ」の営業に従事。
IT利活用での効率化はもとより、お客様の企業変革を行う仕組みのご提案をいたします。