【中小企業白書2025から読み解く】製造業の生き残り戦略:価格転嫁と原価管理の実践

著者:ものづくりコラム運営 【中小企業白書2025から読み解く】製造業の生き残り戦略:価格転嫁と原価管理の実践
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2025年版中小企業白書では、円安・物価高の継続や人手不足といった構造的課題に直面する中小企業の現状と、これらの課題を乗り越えるための経営戦略が詳細に分析されています。本コラムでは、特に製造業における価格転嫁と原価管理に焦点を当て、データに基づく現状分析と具体的な打開策を解説します。

1.中小企業白書とは?

中小企業白書は、中小企業庁(経済産業省)が毎年発行する日本の中小企業・小規模事業者の動向や課題、支援策をまとめた公式報告書です。1963年の初刊以来、日本経済の根幹を支える中小企業の実態を把握し、政策立案の基礎資料とするとともに、中小企業経営者自身の経営判断にも活用されています。
2025年版(令和7年版)は「激変する環境下における中小企業の『経営力』」をテーマに、円安・物価高や人手不足などの構造的課題に直面する中小企業が、いかにして「経営力」を高め、持続的な成長を実現するかを詳細に分析しています。特筆すべきは、単なる現状分析にとどまらず、業績を向上させている企業の共通点や実践例を「経営力」という観点から体系化していることです。
この白書には、全国約2万4千社を対象とした大規模調査の結果が収録されており、業種別・規模別の詳細なデータと共に、現場の声が反映されています。中小製造業にとっては、同業他社の動向や業界全体のトレンドを客観的に把握できる貴重な情報源であり、自社の経営戦略を見直す上での重要な指針となります。

2.中小企業白書2025が明らかにした製造業の厳しい現状

中小企業白書2025年版は、過去30年にわたる低金利環境から「金利のある世界」への転換期における中小製造業の厳しい経営環境を浮き彫りにしています。原材料費の高騰、人件費の上昇、そして深刻な人手不足という三重苦に加え、大企業との賃金格差が拡大するなど、従来の経営手法では対応しきれない状況に直面しています。以下では、白書のデータを基に現状を詳細に分析します。

三重苦に直面する中小製造業:円安・物価高・人手不足

中小企業白書2025年版によると、中小製造業は円安・物価高の継続や「金利のある世界」の到来による生産・投資コスト増に加え、構造的な人手不足という三重苦に直面しています。特に現業職を中心に、コロナ禍以降の人手不足感が強まっており、添付資料によれば中規模企業の85.7%、小規模事業者の88.0%が「現業職」の不足を実感しています。
この人手不足は単なる一時的な現象ではなく、少子高齢化という日本社会の構造的な問題に起因しています。さらに、2024年の春季労使交渉では約30年ぶりの賃上げ率を達成したものの、大企業との差は拡大し、労働分配率は8割近くに達するなど、中小製造業の経営を圧迫する要因となっています。

引用:2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(中小企業庁 調査室)

データで見る中小製造業の収益構造

白書が示す通り、中小製造業では大企業と比べて付加価値額に占める人件費の割合が大きく、営業利益の割合が小さい構造となっています。この差は拡大傾向にあり、コスト上昇に直面する中、中小製造業の営業利益は今後さらに圧迫される可能性があります。
具体的には、中小企業の付加価値構成において人件費が占める割合は大企業より大幅に高く、その分、営業利益率は低くなっています。このような収益構造では、原材料費や人件費の上昇をそのまま吸収することは困難であり、適切な価格転嫁と原価管理の仕組みづくりが急務となっています。さらに、設備投資やデジタル化への投資も大企業に比べて低水準にとどまっており、生産性向上の面でも大きな課題を抱えています。

中小企業白書2025 第1部第4章「第4章 労働生産性・設備投資・デジタル化・DX」

中小企業白書2025 第1部第4章「第4章 労働生産性・設備投資・デジタル化・DX」

 

3.価格転嫁の実態と成功のカギ

中小企業白書2025年版では、原材料費や人件費の上昇を販売価格に適切に転嫁できているかどうかが、中小製造業の存続を左右する重要な要素であると指摘しています。しかし、実際には多くの企業が価格転嫁に苦戦しており、業績悪化を招いています。ここでは、価格転嫁の現状と成功している企業の特徴を分析します。

中小製造業の価格転嫁状況:改善の兆しと残る課題

2024年の調査では、賃上げを実施する中小企業の割合は増加していますが、業績改善がないまま賃上げを実施している企業が多く見られます。白書によれば、2024年4~5月時点で43.9%の企業が「業績の改善が見られないが賃上げを実施」と回答しており、コスト増を価格に転嫁できていない実態が浮き彫りになっています。
この背景には、取引先との力関係や価格競争の激化、そして自社製品の価値を適切に説明できていないといった複合的な要因があります。特に中小製造業では、大企業と比較して価格転嫁力が低く、一人当たり名目付加価値額上昇率の押し下げにつながっています。2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴う輸入物価上昇の影響により、中小製造業の価格転嫁力は一時的に落ち込みましたが、2023年度には回復の兆しを見せています。しかし、依然として価格転嫁率は5割に満たない状況であり、改善の余地は大きいと言えます。

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価格転嫁に成功している製造業の共通点

分析によると、自社の製品・商品・サービスの差別化や、市場環境を意識した経営を実施している事業者ほど価格転嫁が進んでいます。
また、価格転嫁に成功している中小製造業は、まず徹底した原価計算を行い交渉の土台を築いています。生産コストや品質に見合った適切な価格設定のため、詳細な原価計算を実施し、資材高騰の影響を数値で明確に示せる準備ができています。これにより発注企業との交渉時に説得力のある提案が可能となっています。また、これらの企業は受け身の姿勢ではなく、自社の付加価値を明確にした上で発注企業と積極的に交渉を行っています。現状では価格転嫁率は全体で5割近くまで改善しているものの依然として道半ばであり、特に中小製造業は大企業と比較して価格転嫁力が弱い傾向にあります。
2022年のウクライナ情勢などによる輸入物価高騰で一時的に落ち込んだ価格転嫁力も、2023年度には回復傾向を示しており、この回復を実現した企業は市場環境の変化に柔軟に対応し、タイミングを見計らった価格改定を実施できています。さらに、単に価格を上げるだけでなく、一人当たりの付加価値額を高める取り組みも同時に行うことで、価格上昇に見合う価値を提供し、取引先の理解を得やすくしています。今後も非製造業同様、中小製造業においても価格転嫁の進展が期待されますが、その実現には適切な準備と交渉、そして発注側の誠実な対応が不可欠です。

この差は単なる偶然ではなく、市場における自社の位置づけを明確にし、独自の価値提案ができている企業ほど、価格交渉力が高まるという因果関係があります。また、適切な価格設定ができている企業は、マークアップ率(利益率)も高い傾向にあり、これが設備投資や賃上げの好循環を生み出しています。具体的には、差別化戦略に基づく適切な価格設定を行い、その結果として得られた利益を設備投資や人材育成に回すことで、さらなる差別化を実現するという好循環が生まれています。

4.原価管理の高度化による競争力強化

価格転嫁を成功させるためには、自社の原価構造を正確に把握し、適切な価格設定の根拠を持つことが不可欠です。中小企業白書2025年版では、原価管理の高度化が競争力強化につながるとしています。ここでは、原価管理の現状と高度化に向けた取り組みについて解説します。

中小製造業の原価構造を見直す重要性

白書では、原材料・商品仕入価格DIが継続的に上昇しており、2024年も高水準で推移しています。人件費、原材料、エネルギー費と、主要コスト項目全てが上昇する中、従来型のコストカット戦略には限界があります。
このような状況下では、単純なコスト削減だけでなく、原価構造を根本から見直し、付加価値の高い製品・サービスへのシフトが求められます。白書でも指摘されているように、「コストカット戦略は限界。積極的な投資と付加価値向上を重視した経営への転換に向けて積極的に取り組むことが必要」という認識が広がっています。
特に重要なのは、自社の原価構造を詳細に把握し、どの工程・どの製品がどれだけの利益を生み出しているのかを正確に理解することです。これにより、利益率の高い製品・サービスに経営資源を集中させることができます。また、原価の可視化は、取引先との価格交渉においても強力な武器となります。

参考:中小企業白書2025 第1部 第5章 価格転嫁

※詳細については、中小企業庁「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果」をご確認ください。

設備投資とデジタル化による原価管理の高度化

現状、中小企業の設備投資額は大企業の半分以下(大企業24.5兆円に対し中規模企業12.8兆円、小規模企業4.2兆円)であり、ソフトウェア投資比率も大企業の12.9%に対し中小企業は7.3%と低い水準です。しかし白書では、物価・金利・人件費の上昇と構造的な人手不足に直面する今こそ、設備投資を積極的に実施していくことが必要だと指摘しています。

引用:中小企業白書2025 第1部 第4章 第4章 労働生産性・設備投資・デジタル化・DX

設備投資とデジタル化は、単なるコスト削減ではなく、原価管理の高度化と労働生産性向上の両面で効果を発揮します。特に生産管理システムの導入は、工程ごとの原価を正確に把握し、リアルタイムでの原価管理を可能にします。また、生産データの蓄積・分析により、ボトルネックの特定や改善策の立案も容易になります。
白書によれば、デジタル化の取組段階は2023年から2024年にかけて大きく進展し、「段階1:紙や口頭による業務中心」の企業の割合は30.8%から12.5%に減少しています。しかし、まだ多くの中小製造業がデジタル化の初期段階にとどまっており、原価管理システムの導入や活用については発展途上といえます。

5.「経営力」向上による価格転嫁と原価管理の好循環

中小企業白書2025年版では、厳しい経営環境を乗り越えるためには「経営力」の向上が不可欠だと強調しています。「経営力」とは何か、そしてそれがどのように価格転嫁と原価管理に影響するのかを理解することは、中小製造業の経営者にとって極めて重要です。

中小企業白書が示す「経営力」の3つの要素

白書では「経営力」を①個人特性面(異業種・広域ネットワークでの交流と学び直し)、②戦略策定面(経営計画策定・実行、差別化)、③組織人材面(経営理念・業績・経営情報の共有)の3つに分類しています。これらの経営力向上が価格転嫁力や原価管理能力を高める基盤となります。
具体的には、異業種や広域のネットワークで他の経営者と交流し、学び直しに取り組む経営者の成長意欲の高さは業績向上に寄与します。また、経営計画を策定・実行し、差別化や市場環境を意識した適切な価格設定を行う戦略的経営は業績向上や賃上げ・投資を促進します。さらに、経営理念や業績・経営情報を共有するオープンな経営は業績向上に寄与し、賃上げや社内コミュニケーション円滑化、働き方・職場環境改善など、従業員を大切にする人材経営は従業員の確保・維持に貢献します。
これらの「経営力」の要素は互いに関連しており、総合的に向上させることで、価格転嫁と原価管理の好循環を生み出すことができます。例えば、経営情報の共有によって従業員の原価意識が高まり、それが自然と業務効率化や原価低減につながるといった効果が期待できます。

経営計画策定と透明性向上の効果

中小企業白書2025の分析によると、経営計画を策定している企業は売上高増加率が7.7%と、策定していない企業(5.7%)を上回ります。さらに5年超の長期計画を持つ企業では付加価値額増加率が15.1%と高い成果を示しています。また、従業員への経営情報共有に取り組む企業では付加価値額増加率が10.5%と、取り組まない企業(6.3%)を大きく上回っています。また、「従業員への経営理念・ビジョンの共有」により従業員のモチベーションが高まり、売上高の増加につながっている可能性があることにも触れている。

引用:中小企業白書2025 第2部 第1章 中小企業の経営力

これらのデータが示すように、長期的な視点での経営計画策定と経営の透明性向上は、単なる理想論ではなく、実際の業績向上に直結する取り組みです。経営計画の策定は、自社の強みや弱み、市場の機会や脅威を客観的に分析することで、戦略的な価格設定や原価管理の方向性を明確にします。また、経営情報の共有は、従業員の当事者意識を高め、全社一丸となった原価低減活動や価値創造活動を促進します。
特に注目すべきは、業務の属人化・ブラックボックス化防止に取り組んでいる企業の付加価値額増加率が11.4%と高い水準にあることです。これは、業務の標準化や可視化が効率化だけでなく、付加価値創出にも寄与することを示しています。製造業における原価管理も同様に、「誰でも理解できる」形で可視化することが重要なのです。

6.生産管理システム導入による価格転嫁と原価管理の実現

中小企業白書2025年版では、デジタル化と設備投資の重要性が強調されています。特に製造業においては、生産管理システムの導入が価格転嫁と原価管理の両面で大きな効果をもたらします。ここでは、生産管理システムがどのように中小製造業の課題解決に貢献するかを解説します。

原価の可視化がもたらす価格交渉力の向上

適切な生産管理システムを導入することで、工程ごとの原価を正確に把握し、価格設定の根拠を明確にすることができます。中小企業白書でも指摘されている通り、差別化や市場環境を意識した適切な価格設定ができる企業ほど、マークアップ率や経常利益率が高い傾向にあります。ここでの「適切な」とは、自社の業態や運用に合ったシステムの選定ができているかということがポイントです。
生産管理システムの導入により、これまで「勘」や「経験」に頼っていた原価計算を、データに基づいた正確なものに変えることができます。例えば、各製品ごとの材料費、加工費、間接費などを詳細に把握し、どの製品がどれだけの利益を生み出しているかを明確にすることで、不採算製品の改善や高付加価値製品へのシフトを戦略的に進めることが可能になります。
また、取引先との価格交渉においても、明確な根拠を示すことができるため、「なぜこの価格が必要なのか」を説得力をもって説明できるようになります。白書データが示すように、差別化と市場環境を意識した価格設定は、実際に高い価格転嫁率につながっています。生産管理システムはこの「意識」を「実践」に変える強力なツールなのです。

デジタル化による業務効率化と人手不足対策

中小企業のデジタル化は進展しているものの、まだ12.5%の企業が「段階1:紙や口頭による業務中心で、デジタル化されていない」状態です。生産管理システムの導入は人手不足対策と業務効率化の両面で効果を発揮し、結果的に労働生産性の向上につながります。

引用:中小企業白書2025 第1部 第4章 労働生産性・設備投資・デジタル化・DX

生産管理システムを導入することで、これまで人手に頼っていた生産計画の立案、材料発注、進捗管理、原価計算などの業務を自動化・効率化することができます。これにより、限られた人材を付加価値の高い業務に集中させることが可能になります。また、データの一元管理により、部門間の連携もスムーズになり、全体最適化が図れるようになります。
白書が指摘するように、「物価・金利・人件費の上昇と構造的な人手不足に直面する今こそ、一人当たりの業務効率化と付加価値向上を加速させるため、設備投資を積極的に実施していくことが必要」です。生産管理システムはまさにこの課題に応える投資と言えるでしょう。

7.中小製造業経営者のための実践アクションプラン

中小企業白書2025年版の分析結果を踏まえ、中小製造業の経営者が明日から取り組むべきアクションプランを提案します。これらの取り組みは、価格転嫁と原価管理の改善を通じて、厳しい経営環境下での生き残りと成長を実現するための具体的なステップです。

自社の価格転嫁状況と原価管理レベルの診断

まずは自社の価格転嫁率と原価把握の精度を客観的に評価することから始めましょう。白書データでは、業績改善なく賃上げを実施している企業が多いことが示されていますが、これは原価と適正利益を正確に把握できていない可能性を示唆しています。
具体的な診断方法としては、次のような項目を確認することをおすすめします。

【チェックポイント】
check1:過去1年間の原材料・商品仕入価格の上昇率と、それに対する販売価格の改定率を比較する
check2:製品・サービスごとの粗利率を計算し、採算性を評価する
check3:原価計算の方法と頻度を見直し、リアルタイムに近い原価把握ができているかを確認する
check4:価格交渉の際に用いる根拠データが十分かどうかを点検する

この診断結果を基に、改善が必要な領域を特定し、優先順位をつけて取り組むことが重要です。特に、価格転嫁率が低い製品・サービスについては、その原因(競合状況、取引先との力関係、自社の付加価値訴求力など)を分析し、戦略的な対応を検討しましょう。

経営計画の策定と「経営力」向上への取り組み

白書が示すとおり、経営計画を策定し長期的視野を持つことが付加価値向上につながります。特に、差別化戦略と経営情報の透明化を進め、従業員と共に経営課題に取り組む体制づくりが重要です。

【策定のポイント】
・5年程度の中長期計画と単年度計画を連動させる
・自社の強み・弱みを客観的に分析し、差別化戦略を明確にする
・数値目標だけでなく、その達成に必要な行動計画まで落とし込む
・計画の進捗を定期的に確認し、必要に応じて修正する仕組みを作る

また、「経営力」向上のための具体的な取り組みとして、以下のポイントも抑える必要があります。

・経営理念・ビジョンを明文化し、全従業員と共有する
・業績や財務情報を適切な形で従業員に開示し、全員参加型の経営を促進する
・異業種交流会や経営セミナーに積極的に参加し、自己研鑽に努める
・業務の標準化・マニュアル化を進め、属人化・ブラックボックス化を防止する

これらの取り組みは、短期的には負担に感じられるかもしれませんが、白書データが示すように、長期的には付加価値向上という形で確実にリターンがあります。特に、経営計画策定と情報共有に取り組む企業は、そうでない企業に比べて大幅に高い成長率を実現しているという事実は、重要な示唆といえるでしょう。

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