製造業に未来がないと言われる理由|未来を創るためにできることは?
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近年、「製造業に未来がない」という声を耳にすることがあります。これまで日本の経済成長を支えてきた製造業ですが、なぜこのようなネガティブな意見が出てくるのでしょうか?
ものづくりの歴史を築き上げてきた日本では、多くの企業や人々の努力によって、高度な技術と品質が受け継がれています。一方、グローバル化が進み、国際競争が激化するなかで、変化に追いつけず苦戦を強いられる企業があることも事実です。しかし、この状況を乗り越えるための道は存在します。今回のコラムでは、「製造業に未来がない」と言われる理由を解き明かしながら、未来を創るために取り組める施策についてご紹介します。
1.なぜ製造業に未来がないと言われるのか
製造業に未来がないと言われる理由は、主に下記のような点が挙げられます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れをとっているため
製造業におけるDXとは、AIやIoTなどの最新技術を活用し、デジタル化を促進することで業務効率化や新たな価値創出を目指す取り組みです。具体的には、工場内の生産プロセスを自動化したり、機器同士をネットワークでつなげて稼働状況をリアルタイムで把握するなどの取り組みが挙げられます。
しかしながら、日本の製造業はDX化が広がりつつある世界の中で、IT人材の不足や属人化している業務の多さ、コスト面のハードルなどにより、デジタル化への取り組みスピードが遅れがちと言われています。このまま取り組まないままでいると、2025年までに製造業は年間12億円の損失につながるという試算もあり、これを「2025年の崖」と呼ぶ声もあります。デジタル化が進まないまま世界の潮流に取り残されると、国際的な競争力が低下し、日本の製造業がさらに苦境に立たされる懸念があります。
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国際競争が激化しているため
グローバル化が加速する中、低価格・短納期で製造を行う新興国の企業が台頭するなど、国際競争は激化しています。日本の製造業は、高品質・高機能といった従来の強みだけでは、この激しい競争を勝ち抜くことが難しくなってきています。
特に、「2025年の崖」の問題が解決されず、DX化が遅れたまま国際競争に立ち遅れた場合、日本の製造業は衰退の一途をたどるとも言われています。これは「2030年問題」として、先行き不安を増大させる要因となっています。
技術継承がしづらい状況にあるため
少子高齢化による人手不足が深刻化する中、熟練技術者の高齢化も進み、製造業では技術継承が困難な状況に直面しています。長年培ってきた熟練の技や経験を、どのようにして次世代へ継承していくかが大きな課題となっています。
また、長時間労働や厳しい職場環境などが敬遠され、若年層の入職が少ないことも、技術継承を難航させている要因の一つと言えるでしょう。
2020年頃に製造業の業績が悪化したため
2020年に世界的に感染拡大した新型コロナウイルスの影響は、製造業にも大きな打撃を与えました。サプライチェーンの断絶による原材料や部品の調達難、需要減退などにより、多くの企業が生産停止や業績悪化に苦しみました。
特に、海外経済の減速による輸出の落ち込みは、製造業全体の業績を大きく下押ししました。2020年以降、日本のGDPはマイナス成長となり、製造業の未来に対する不安を増大させました。
製造業に就ける労働人口が深刻化しているため
2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大により企業活動が停滞し、採用計画が見直されるなど人材不足がさらに進行しました。国の調査でも、2020年以降は製造業の人材数はほぼ横ばいで推移しているものの、若年層の労働人口が減少し、高齢者層の比率が高まる傾向にあります。若い人が新たにものづくりの現場に入る機会が限定的になり、ベテランとの人員バランスに偏りが生じやすくなっているのです。高齢化が進む現場では将来的に定年退職などで一気に熟練者が抜けることも懸念されており、こうした状況も「製造業の未来がない」と言われる要因となっています。
2.製造業の生き残りが重要な理由
このように、製造業は様々な課題に直面していますが、日本経済にとって、そして世界にとって、製造業の生き残りは非常に重要です。
海外でも自国のものづくりに着目する動きが改めて注目されており、従来の製造ノウハウを生かしながら新たな価値を生み出す試みが多方面で始まっています。さて、日本で製造業が生き残ることがなぜこれほど重要なのか、具体的な理由を確認してみましょう。
日本の産業構造を支えているから
経済産業省では、製造業こそが日本の産業構造を支える基盤であると明言しています。製造業は世界に向けて高品質な製品や部品を輸出することで、経済収支の黒字に大きく貢献してきました。経済収支とは、日本が海外と行う貿易やサービスなどの取引を通じて生じる収支を表す指標です。輸出額が輸入額を上回れば黒字となり、それが日本全体の経済成長にもつながっていきます。実際に、多くの製造業が築き上げてきた技術力は、日本のブランドとして海外から信頼を得てきた重要な要素と言えるでしょう。
さまざまな産業への波及効果があるから
製造業は、その生産活動を通じて、多くの素材産業、部品産業、サービス産業などと密接に連携しており、他の産業へ大きな波及効果をもたらします。新しい製品や技術が生まれることで、関連産業の活性化や雇用創出にもつながっていきます。
また、製造業は、常に技術革新に挑戦し続けることで、新たな技術や価値を生み出し続けています。これらの技術革新は、他の産業にも波及し、社会全体の発展に貢献しています。今後はAIやIoTをはじめとする先端技術との連携がますます深まり、新しい価値を生み出す場としても期待されています。
雇用・所得の源泉となるから
地方を中心に、製造業は雇用や所得の拠り所となっています。多くの地域企業は部品の製造や組立てなどにより地域経済を支えており、そこで働く人々の所得が地域の経済活動を回す重要な原動力となるのです。実際に、製造業が盛んである地域ほど平均所得が高い傾向にあるとも指摘されています。こうした構造から、製造業が稼ぐ力を維持し、地元の雇用を生み出すことで、地域の所得水準を引き上げる役割を担っています。逆に、製造業が停滞すると地域経済全体も停滞しかねず、社会全体への影響が大きくなると考えられます。
3.製造業のDXによって期待できること
多くの課題を抱える製造業ですが、未来を創造していくために、DX化は重要な鍵となります。DX化によって期待できることを具体的に見ていきましょう。
人材不足の解消
製造現場では、これまで人が担っていた検品や測定、部品の移動など様々な作業をAIや機械に任せられるようになっています。DX化が進むと、自動化された機械やロボットが作業を代替し、人は人にしかできない業務に注力できる環境を整えられることが期待されます。労働力不足が取りざたされる中でも、機械による作業が増えることで、作業効率が向上し人的リソースを有効活用できます。これにより人材不足を補いながら、生産性の高い職場を実現できる可能性が高まります。
技術の継承
DX化が進むと、熟練者の経験やノウハウをデータとして蓄積し、組織全体で共有することができます。製造工程の手順や作業の最適化ポイント、職人の「勘」に基づく調整方法などは、文章や動画などの形式で再現しにくいイメージがあるかもしれません。しかしデジタル技術を用いれば、計測数値や映像で動きを記録し、具体的な数値や映像をもとに他の従業員が学びやすい仕組みを作れます。これにより、現場の主観的な感覚の部分も、客観的データに変換して社内で共有できるようになるのです。その結果、技術者が退職してもノウハウが失われにくくなり、次世代の人材育成がスムーズに進むことが期待されています。
グローバル競争力の向上
DX化が進んだ現場では、生産スピードや品質が安定しやすくなります。これまで人的作業で起こりがちだったミス(ヒューマンエラー)を防止し、不良品を大幅に削減することが可能となるため、製品クオリティが向上しやすいのです。品質が安定することで顧客満足度も高まり、結果的に企業の評判を高めることにつながります。またミスの修正にかかる手間やコストが削減できるのも大きなメリットです。こうした効率化や品質向上によって、海外企業との競争において優位に立ちやすくなり、企業の利益拡大やブランド力向上にも結びつきます。
4.「製造業 未来がない」時代だからこそ踏み出したい次の一歩
ここまで、大きく5つの要因から「製造業に未来がない」と言われる理由、そして製造業を取り巻く状況と、それでもなお存続が重要な理由について解説しました。たしかに、新興国の台頭や国内の人手不足など、課題が山積している現実は否めません。しかし、DXの導入が象徴するように、日本の製造業には多くの打開策が用意されています。最後に、こうした課題を乗り越え未来を創っていくために、製造業が踏み出したい次の一歩をまとめます。
まずDX化に取り組む際は、社内全体でビジョン・目標を共有することが重要です。「どのような変化をもたらしたいのか」「DXによってどう企業の競争力を高めたいのか」といったゴールを明文化し、具体的なプロジェクトとして落とし込むことで、関係者が取り組むモチベーションにつながります。全社的な理解を得るためには、経営陣だけでなく現場の従業員が実際にどうDXの恩恵を感じられるかを示すことが大切です。
次に、「IT担当に任せっぱなし」「現場任せ」で終わらせず、全社一丸となって継続的な改善を行う体制を構築しましょう。製造の現場では、これまで培われてきた職人技術や現場感覚が大きな強みです。デジタル導入と現場の知見を組み合わせることで、高品質の製品づくりや新しいビジネスモデルの創出が実現しやすくなります。AIやロボットが普及しても、わたしたち人間が担う役割は依然として重要です。人材をどう活用していくか、どう育てていくかを常に検討する必要があります。
さらに、世界の動向にアンテナを高く張り、他国の先進事例から積極的に学ぶ姿勢も欠かせません。新興国が低価格で製品を大量生産するなかで、日本が果たせる役割を見極めることが大事です。「高品質」「高信頼性」「特殊用途への対応力」など、日本の強みは多岐にわたっています。これらをより顕在化させ、世界規模で新たな市場を切り拓いていく視点を持つことが、製造業がこれからの時代に未来を切り開くカギとなります。
日本では、労働人口の減少や少子高齢化による内需の伸び悩みが予想されています。しかし、視点を海外にまで広げれば、潜在的な需要はまだまだ存在します。越境ECや海外拠点の連携など、デジタル技術が進む中で地理的な壁を感じることも減ってきました。国内外の市場で必要とされる製品・サービスを創出し、日本の価値観や技術を世界に届けることこそ、これからの製造業が目指す姿だと言えるでしょう。
そして何より、社会的な課題や環境課題が深刻化する時代において、持続可能性に配慮した製品づくりは重要なテーマです。省エネルギーや環境保全に取り組む企業姿勢は国内外を問わず評価されるようになっています。日本の製造業がその強みを発揮すれば、新技術によって環境に優しい製品やプロセスを進化させることも可能です。結果として海外マーケットでの評価を高め、国内の雇用や技術継承の好循環を生むでしょう。
まとめ
「製造業に未来がない」と言われる背景には、DXの遅れや国際競争、少子高齢化による技術継承の難しさ、新型コロナウイルスによる打撃、そして労働人口の深刻化など、さまざまな要因が重なっています。しかし、製造業は日本の経済と産業構造を長年支えてきた重要なセクターです。地方では雇用や所得の源泉として大きな役割を果たし、サービス産業など他業種との相乗効果も期待されています。加えて、海外においても改めて「自国のものづくり」に注目する動きが広がっていることを考えれば、決して「未来がない」わけではありません。
むしろ、DXを一つのきっかけとして、これまで属人的に行われてきた業務をシステム化し、熟練者のノウハウを共有可能なデータへと変換することで、人材不足や技術継承の課題を解決できます。生産コストを抑えながら品質を向上すれば海外市場でも競争力を維持しやすくなるでしょう。実際、AIやIoTなどのテクノロジーが活用される事例は増えており、それらの成功事例をしっかりと学び、自社へ導入する取り組みが今後ますます加速することが予想されます。
「製造業 未来がない」と言われる時代だからこそ、日本のものづくりの持つ粘り強さと技術力、そして現場の知恵を結集し、新しい環境に適応していくことが重要です。DXを推進し、持続可能な社会に貢献する商品開発に力を注ぎ、若い世代に魅力ある職場を提供することで、製造業はこれからも未来を創り続ける存在として輝き続ける可能性があります。今こそ、日本の製造業が固有の強みを活用しながら、時代に合わせた柔軟な発想と行動力をもって前進していくときではないでしょうか。そうすれば、「未来がない」どころか、むしろ明るい展望を示すことができるでしょう。