ものづくり白書とは?製造業DXに関する要点|2024年版の構成やポイント
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2024年版ものづくり白書では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が製造業の競争力強化に不可欠であると指摘されています。本コラムでは、「ものづくり白書」の概要から、DXに関する重要な要点、そして製造業がDXを推進する上でやるべき取り組みまで、包括的に解説します。ものづくり白書が示すDXの方向性を理解し、製造業の変革に活かすためのヒントとして本コラムをご活用ください。
1.ものづくり白書の概要
ものづくり白書は、日本の製造業の現状と課題を分析し、今後の方向性を示す重要な報告書です。2024年版では、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)に焦点を当て、製造業の競争力強化に向けた取り組みを詳細に解説しています。
ものづくり白書とは
ものづくり白書は、「ものづくり基盤技術振興基本法」第8条に基づき、国会に報告される年次報告書です。この白書には、ものづくりに関する基礎的なデータや、その年の課題、政府の取り組みなどが詳細に掲載されています。経済産業省、厚生労働省、文部科学省が共同で作成しており、2024年版で24回目の発行となります。
ものづくり白書は、日本の製造業の現状を把握し、将来の方向性を示す上で極めて重要な役割を果たしています。製造業に携わる企業や関係者だけでなく、政策立案者や研究者にとっても貴重な情報源となっています。
2024年版ものづくり白書の構成
2024年版ものづくり白書は、以下のような構成になっています。
【第1部】ものづくり基盤技術の現状と課題 第1章:業況 第2章:就業動向と人材確保・育成 第3章:価値創造に資する企業行動 第4章:教育・研究開発 第5章:製造業の「稼ぐ力」の向上 【第2部】令和5年度においてものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策 |
第1部では、業績や人材、企業行動、教育・研究開発といった基盤技術の現状分析と課題が詳しく説明されています。特に「稼ぐ力」を向上させるための方策に焦点が当てられており、製造業の競争力強化に向けた具体的な提言が盛り込まれています。
第2部では、2023年度に講じた具体的な施策が整理されています。ここでは、実際の政策展開がどのように進んでいるかが詳細に説明されており、政府の取り組みの進捗状況を把握することができます。
参考:経済産業省|お知らせ~「令和5年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2024年版ものづくり白書)を取りまとめました~
2024年版ものづくり白書を見る
2024年版ものづくり白書の特色
2024年版ものづくり白書の特徴として、製造業の競争力強化として「稼ぐ力」といった様々なテーマにおける課題を整理し、CXによるグローバルな事業活動に適した経営・組織の仕組み化や、DXによる製造機能の全体最適化、事業機会の拡大といった取組を推進する上での課題や、実際に対処する製造事業者の事例が掲載されています。
主なポイントとして、以下の特色があります。
- ①統計データやアンケートを基にした詳細な分析
- ものづくり白書では、製造業の業況、就業、研究開発の動向について、最新の統計データやアンケート調査結果を用いて詳細な分析が行われています。これにより、製造業の現状を客観的かつ多角的に捉えることができます。
- ②競争力強化に向けたCXとDXの課題への注目
- 2024年版では、特に競争力強化に向けたCX(企業変革)やDXの課題に焦点を当てています。デジタル技術の活用が製造業の競争力向上に不可欠であるという認識のもと、CXとDXの推進に向けた課題と解決策が詳しく論じられています。
- ③具体的な事例を通じた課題解決アプローチの提示
- ものづくり白書では、具体的な事例を通じて課題解決に向けた取り組みを紹介しています。これにより、読者は理論的な知識だけでなく、実践的なアプローチについても学ぶことができます。
- ④グローバル視点からの分析
- 日本の製造業の国際競争力を高めるため、グローバルな視点からの分析も行われています。世界の製造業の動向や先進的な取り組みについても触れられており、日本企業が取るべき方向性が示されています。
- ⑤政策提言の充実
- ものづくり白書では、現状分析に基づいた具体的な政策提言も行われています。これらの提言は、今後の製造業政策の方向性を示すものとして重要な意味を持っています。
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ものづくり白書は、日本の製造業の現状と課題を包括的に分析し、今後の方向性を示す貴重な資料です。2024年版では特にDXに焦点を当てており、DXの重要性を再認識する上で個別工程のカイゼンにとどまっているといった現状を課題認識するなど、製造業のデジタル化推進に向けた重要な指針となっています。製造業に関わるすべての人々にとって、このような客観的で詳細な分析は極めて有用であり、自社の戦略立案や業界動向の把握に活用することができるでしょう。
2.【2024年版】ものづくり白書の製造業DXに関する要点
デジタル化の現状と課題
2024年版ものづくり白書によると、日本の製造業におけるデジタル化は着実に進展しているものの、多くの企業では個別工程のカイゼンにとどまっているのが現状です。2024年版では、デジタル化が企業の「稼ぐ力」の向上につながっていないことを主な課題として指摘しています。
参考: 経済産業省|2024年版「ものづくり白書」~第5章 第2節 DXによる製造機能の全体最適と事業機会の拡大~
具体的な課題として下記のポイントに注目されています。
・部分最適化に留まるデジタル化
・データの有効活用の不足
・デジタル人材の不足
・経営層のデジタルリテラシー不足
これらの課題を克服し、デジタル化を企業の競争力向上につなげることが求められています。
DXの重要性
また、ものづくり白書では、DXの重要性が強調されています。特に「労働力不足への対応」や「環境負荷低減」といった製造業が抱える課題と関連付けた記載が見られ、解決策としてDX推進の重要性がポイントとして紹介されています。
- ①労働力不足への対応
- 少子高齢化が進む日本において、労働力不足は深刻な問題です。デジタル技術を活用した生産性向上が、この課題に対応するための不可欠な手段として位置づけられています。
- ②環境負荷低減
- 環境問題への対応も製造業にとって重要な課題です。2024年版では、デジタル技術を活用したGX(グリーントランスフォーメーション)の推進の必要性も指摘されています。
CXとDXの融合
2024年版ものづくり白書では、「CX×DX」の取り組みも推奨されています。CX(Corporate Transformation:企業変革)とDXを融合させることで、より効果的な企業改革が可能になると考えられています。
具体的には、
・CXによる組織経営の仕組み化
・DXによる製造機能の全体最適化
・ビジネスモデルの変革
といった取り組みが推奨されており、これらの取り組みによって、企業全体の変革と、デジタル技術の効果的な活用を同時に進めることができます。
グローバル共通基盤の整備
グローバル規模でのビジネス展開を成功させるためには、共通基盤の整備が必要不可欠です。ものづくり白書では、この共通基盤として、ヒト、モノ、カネ、データに関する統一的な管理システムの構築が求められていると指摘しています。具体的には、人材管理、在庫・物流管理、財務管理、そして情報管理を包括的に統合したシステムの必要性を強調しています。これらの要素を一元的に管理できるシステムを構築することで、企業はグローバル市場での競争力を大幅に向上させることができます。このような統合的なアプローチは、国際的なビジネス環境において、効率的な経営判断と迅速な対応を可能にし、結果として企業の持続的な成長と発展につながると考えられています。
産業データ連携の加速
2024年版ものづくり白書では、産業データ連携の必要性が強く強調されています。特に注目すべきは、環境負荷低減に向けたデータ連携の重要性であり、具体例としてCO2排出量データの産業規模での共有が挙げられています。このようなデータ連携を推進するためには、いくつかの重要な取り組みが必要とされています。まず、データ連携によるメリットを企業に明確に示すことが重要です。次に、データ共有を円滑に行うためのプラットフォームを整備することが求められます。さらに、データの利活用に関する適切な規制を整備することで、安全かつ効果的なデータ活用が可能となります。これらの取り組みを通じて、企業の積極的な参加を促し、産業全体でのデータ活用を加速させることができると白書は指摘しています。このような包括的なアプローチにより、日本の製造業全体の競争力向上と環境負荷低減の両立が期待されています。
デジタル人材の育成
DX推進において適切なデジタルスキルを持つ人材の存在が不可欠であり、デジタル人材の育成が急務であると指摘されています。この課題に対応するため、ものづくり白書は二つの主要な方向性を示しています。
- ・既存の従業員のスキルアップ
- まず、既存の従業員のスキルアップが重要です。これには、全従業員を対象としたデジタルリテラシー教育の実施が含まれます。基本的なデジタルツールの使用方法から、データ分析の基礎まで、幅広い知識を習得させることが求められます。さらに、より専門的なデジタルスキル研修の提供も必要です。例えば、AIやIoTなどの先端技術に関する深い理解を持つ人材を社内で育成することが重要となります。
- ・新たなデジタル人材の採用・育成
- 次に、新たなデジタル人材の採用・育成も急務です。デジタル戦略を立案・実行できる専門人材を積極的に採用し、組織に新たな視点と能力をもたらすことが求められます。また、産学連携によるデジタル人材育成プログラムの実施も推奨されています。大学や研究機関と協力し、最新のデジタル技術と実務の両方を学べる環境を整備することで、即戦力となる人材を育成することができます。
これらの取り組みを通じて、製造業全体のデジタル化を支える強固な人材基盤を構築することが求められています。2024年版ものづくり白書は、日本の製造業がDXを推進する上での課題と方向性を明確に示しており、個別の改善に留まらず、企業全体、さらには産業全体でのデジタル化を推進することの重要性を強調しています。この白書は、今後の日本の製造業の競争力強化に向けた重要な指針となり、デジタル時代における製造業の発展の道筋を示すものとなっています。
3.ものづくり白書を踏まえて製造業DXでやるべきことは?
次に、2024年版ものづくり白書の分析を踏まえ、日本の製造業がDXを推進する上で取り組むべき具体的な施策について考察します。ものづくり白書の指摘する課題を克服し、製造業の競争力を高めるためには、以下のような取り組みが重要となります。
製造プロセス全体の最適化
ものづくり白書が指摘するように、多くの企業では個別工程の改善にとどまっているのが現状です。しかし、真の競争力強化のためには、製造プロセス全体を俯瞰した最適化が不可欠です。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます
- ・工場全体のデジタルツイン構築
- 実際の工場をデジタル空間上に再現し、シミュレーションを通じて全体最適化を図る
- ・エンドツーエンドの生産管理システム導入
- 原材料の調達から製品の出荷まで、一気通貫でデジタル管理できるシステムを構築する
- ・AIを活用した生産計画最適化
- 需要予測、在庫管理、生産スケジューリングなどにAIを活用し、全体効率を向上させる
これらの取り組みにより、部分最適化ではなく全体最適化を実現し、生産性と品質の大幅な向上が期待できます。
データ連携の強化
前述にあるように、産業データ連携の重要性が強調されていましたが、組織内外でデータを活用し、サプライチェーン全体のデジタル連携を図ることも求められています。
具体的な施策として4つの取り組みをご紹介します。
- ・クラウドベースのデータプラットフォーム構築
- 社内外のデータを一元管理し、リアルタイムでの情報共有を可能にする
- ・IoTセンサーの積極的導入
- 生産設備や製品にIoTセンサーを取り付け、リアルタイムデータ収集を実現する
- ・ブロックチェーン技術の活用
- 取引先とのデータ共有において、セキュリティと透明性を確保する
- ・オープンAPIの整備
- 外部システムとの連携を容易にし、エコシステムの構築を促進する
これらの取り組みにより、サプライチェーン全体の可視化と最適化が可能となり、競争力の強化につながります。
新たな事業機会の創出
デジタル技術を活用して新たな収益源を確保することも、DX推進の重要な側面です。アフターサービスやプラットフォームビジネスなど、従来の製造業の枠を超えた事業展開が求められています。
例えば、デジタルプラットフォームの構築やオープンイノベーションの推進などの取り組みを通じて、従来の製造業の枠を超えた新たな価値創造が可能となり、収益源の多様化と企業の持続的成長が期待できます。
[具体的なアプローチ例]
アプローチ例 | 内容 |
製品のサービス化(Product as a Service) | 製品単体ではなく、関連するサービスも含めた包括的な価値提供を行う |
デジタルプラットフォームの構築 | 自社製品を核としたエコシステムを構築し、新たな顧客価値を創造する |
データ分析サービスの提供 | 製品使用データを分析し、顧客に対して付加価値の高い情報サービスを提供する |
オープンイノベーションの推進 | スタートアップ企業や異業種との協業を通じて、新たなビジネスモデルや技術革新を生み出す |
CXの推進
ものづくり白書が指摘するように、DXを効果的に推進するためには、CX(企業変革)との融合が不可欠です。経営全体をデジタル技術で最適化し、グローバルでの競争力を高める体制を整備することが重要です。
具体的な施策として、まず、デジタルを前提とした組織再編が挙げられます。従来の縦割り組織から脱却し、データとデジタル技術を中心とした横断的な組織への再編を行うことで、より柔軟で効率的な業務遂行が可能となります。次に、アジャイル型経営の導入が推奨されています。これにより、迅速な意思決定と柔軟な戦略変更が可能になり、変化の激しいビジネス環境に適応できる体制が整います。
さらに、デジタル人材の登用と育成も重要です。CDO(Chief Digital Officer)の設置や、全社的なデジタルスキル向上プログラムの実施を通じて、組織全体のデジタル能力を高めることができます。最後に、KPIのデジタル化も不可欠です。リアルタイムデータに基づく経営指標を設定することで、迅速かつ的確な経営判断が可能になります。
これらの取り組みにより、組織全体のデジタル化が進み、環境変化に柔軟に対応できる強靭な企業体質が構築されます。これらの施策は、ものづくり白書が示す方向性に沿ったものであり、日本の製造業がDXを推進する上で重要な指針となります。ただし、各企業の状況や業界特性に応じて、これらの施策を適切にカスタマイズし、自社に最適なDX戦略を構築することが重要です。このようなアプローチにより、日本の製造業は、デジタル時代における競争力を確実に強化していくことができるでしょう。
4.製造業DX推進の4つの柱:ものづくり白書が示す未来戦略
2024年版ものづくり白書は、日本の製造業がDXを推進する上での課題と方向性を明確に示しています。ものづくり白書の分析を踏まえ、以下の点に注力してDX推進の検討が必要とも言えます。
・製造プロセス全体の最適化:個別工程の改善にとどまらず、工場全体のデジタル化を進め、効率を最適化する。
・データ連携の強化:組織内外でデータを活用し、サプライチェーン全体のデジタル連携を図る。
・新たな事業機会の創出:アフターサービスやプラットフォームビジネスなど、デジタル技術を活用して新たな収益源を確保する。
・CXの推進:経営全体をデジタル技術で最適化し、グローバルでの競争力を高める体制を整備する。
これらの取り組みを通じて、日本の製造業は単なる「モノづくり」から、データとデジタル技術を活用した「コトづくり」へと進化し、グローバル競争の中で新たな価値を創造していくことが可能となります。
ものづくり白書が示す方向性は、日本の製造業の未来を左右する重要な指針です。各企業がこの白書の内容を深く理解し、自社の状況に合わせたDX戦略を策定・実行することで、日本の製造業全体の競争力向上につながることが期待されます。
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