形式知とは?現場で活かすための条件と、定着しない理由
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形式知=判断を再現し、組織に残すための考え方
形式知とは、単に知識を文章化したものではありません。現場で繰り返し行われてきた「判断」を、誰でも再現できる形にした知識です。形式知が現場で活かされない原因は、「作り方」や「量」の問題ではなく、判断の背景や前提条件が共有されていないことにあります。
本コラムでは、形式知の基本的な考え方を整理したうえで、中小製造業の現場で形式知を“使える知識”として定着させるための条件を解説します。
1.形式知とは何か ―― 暗黙知との違いから整理する
「形式知」という言葉は、DXやナレッジマネジメントの文脈で頻繁に使われますが、意味が曖昧なまま使われているケースも少なくありません。ここでは形式知の基本を見てみます。
形式知と暗黙知の違い
形式知とは、言語や数値、図表などの形で表現され、他者と共有できる知識を指します。業務マニュアル、作業手順書、品質基準、業務フロー図などは、いずれも形式知の代表例です。
これに対し、暗黙知とは、個人の経験や感覚に基づく知識であり、言語化が難しいものを指します。熟練者が「この音はおかしい」「今日は条件が違う」と感じ取る判断は、暗黙知に支えられています。
| 概要 | 例 | |
| 形式知 | 他者と共有できる形で明示した知識 | ・判断基準 ・手順 ・考え方 ・注意点 |
| 暗黙知 | 個人の中に蓄積された知識 | ・経験や勘 ・長年の現場感覚 ・言葉にしづらい判断力 |
重要なのは、形式知は「暗黙知の代替」ではなく、暗黙知を再現可能な形に変換したものだという点です。
製造業で形式知が求められる背景
中小製造業では、
⚠️ベテラン依存
⚠️属人化
⚠️判断のブラックボックス化
といった課題が顕在化しています。
人が変わっても、状況が変わっても、一定水準の判断ができる状態を作るために、形式知が求められているのです。
2.なぜ形式知は「作っても使われない」のか
多くの企業では、すでに形式知といっていいものが存在しています。それでも現場で使われないのは、形式知そのものではなく、構造に問題があるためです。
結論だけが書かれた形式知の限界
「この条件ではAの対応を行う」
「この工程は必ずこの手順で進める」
このように結論だけが示された形式知は、一見すると分かりやすく、マニュアルとしても整っているように見えます。
しかし、現場で実際に使われるかという視点で見ると、この形式知には大きな欠落があります。
それが、なぜその判断に至ったのかという思考のプロセスです。
現場では日々、
・条件が少し違う
・制約が増える
・優先順位が変わる
といった「想定外」が発生します。そのとき、結論しか書かれていない形式知は、次の判断ができません。
❓条件が一部違っても当てはめてよいのか
❓優先順位が変わった場合はどう考えるべきか
❓この判断は絶対条件なのか、目安なのか
結果として現場では、
「今回は例外だから適用しなくていいだろう」
「忙しいから省略しても問題ないはずだ」
といった自己解釈が生まれます。
これは現場の理解力不足ではありません。判断の理由が共有されていない形式知は、応用も修正もできないという、構造上の問題です。
形式知が現場で機能するためには、
「何をするか」だけでなく、
「なぜそう判断するのか」「何を守るための判断なのか」
まで含めて記載されている必要があります。
判断主体が曖昧な形式知が現場を止める
もう一つ、形式知が使われなくなる大きな要因が、判断主体が明示されていないことです。
形式知の中で判断が求められる場面は多くあります。
| ・条件に当てはまるかどうかを判断する ・例外として扱うかどうかを判断する ・次の工程へ進めてよいかを判断する |
しかし、その判断を
❓現場担当者が行ってよいのか
❓管理者の確認が必要なのか
❓システムの判定に委ねるのか
が明確でない場合、現場は慎重にならざるを得ません。
結果として起こるのが、
| ・「念のため確認します」という行動 ・判断の先送り ・上長待ちによる業務停滞 |
です。
これは責任回避ではなく、判断権限が整理されていない状態で仕事を進めることのリスクを、現場が本能的に避けているだけです。判断主体が曖昧な形式知は、現場にとって「判断を助ける知識」ではなく、判断をためらわせる存在になります。
形式知が本来果たすべき役割は、判断を奪うことではありません。
誰が、どこまで判断してよいかを明確にすることです。
この視点が欠けた形式知は、どれだけ丁寧に書かれていても、現場では次第に使われなくなっていきます。
3.現場で機能する形式知を構成する5つの要素
形式知を現場で活かすために必要なのは、新しいルールやマニュアルを増やすことではありません。すでに社内に存在している形式知が、なぜ機能していないのかを見極め、必要な要素を補い直すことです。
本章で紹介する5つの要素は、「理想的な形式知の条件」を並べたものではありません。
既存の手順書や判断基準を点検し、改善につなげるための視点です。
ここで扱う5つの要素とは、
| ・何を基準に判断するのか ・なぜその判断が必要なのか ・どのような前提条件を想定しているのか ・想定外が起きたとき、どう考えるのか ・判断の結果を、次にどう活かすのか |
といった、判断を再現するために欠かせない情報です。
たとえば、現在使われている手順書や判断基準を前にして、次の問いに答えられるでしょうか?
| ✅この形式知には、判断基準だけでなく「判断理由」まで書かれているか ✅どのような状況を前提とした判断なのかが分かるか ✅想定外が起きた場合の考え方が示されているか ✅誰が、どこまで判断してよいかが明確になっているか ✅判断した結果は、次に活かされる形で残っているか |
これらの問いに即答できない項目がある場合、その形式知は現場で十分に機能していない可能性が高いと言えます。
重要なのは、すべての要素を完璧に満たすことではありません。「どの要素が欠けているのか」を把握することです。欠けている要素が分かれば、形式知を闇雲に増やす必要はありません。不足している部分を「補う」「つなぐ」「整理する」ことで、形式知は現場で使われる知識へと変わっていきます。この視点をもとに、次節から5つの要素を一つずつ見ていきます。
判断基準|何をもって判断するのか
まず必要なのは、何を見て判断するのかが明確になっていることです。
・数値なのか
・状態なのか
・条件の組み合わせなのか
判断基準が曖昧な形式知は、人によって解釈が分かれ、結果がばらつきます。
特に製造業では、品質・原価・納期といった複数要素を同時に考慮する場面が多く、判断基準の明示は欠かせません。
判断理由|なぜその基準なのか
判断基準だけでは、形式知は完成しません。なぜその基準が採用されているのかが重要です。
✅過去にどんなトラブルがあったのか
✅どんなリスクを回避するためなのか
✅どこを優先した判断なのか
この理由が共有されていないと、現場では「状況が違えば変えていいのではないか」という判断が生まれます。
判断理由は、形式知を単なるルールから、理解できる知識へ変える要素です。
前提条件|どんな状況を想定しているのか
形式知は、すべての状況に当てはまるわけではありません。そのため、どんな前提条件を想定しているのかを明示する必要があります。
・通常稼働時なのか
・繁忙期なのか
・新人対応なのか
前提が共有されていない形式知は、現場で無理に当てはめられ、逆にトラブルの原因になります。
例外時の考え方|想定外にどう向き合うか
現場業務に、完全な標準状態は存在しません。だからこそ、形式知には「例外が起きたときの考え方」が必要です。
✅どこまで現場判断で対応してよいのか
✅どの段階で共有・相談すべきか
この指針があるだけで、現場は安心して形式知を使うことができます。
判断結果の蓄積|形式知を成長させる
形式知は一度作って終わりではありません。判断結果を蓄積し、更新していくことで価値が高まります。
✅どんな判断をしたのか
✅結果はどうだったのか
これらが蓄積されることで、形式知は「過去の知識」ではなく「組織の判断資産」へと変わっていきます。
4.形式知は「背景」が共有されたとき、現場で使われ始める
形式知が活かされるかどうかは、書かれている内容そのものよりも、その判断に至った「背景」が共有されているかに大きく左右されます。
ここでいう「背景」は、感覚的な理由や抽象的な意図ではありません。
・どのような状況や前提条件を想定しているのか
・何が制約となり、どの選択肢が取れなかったのか
・何を優先し、何を犠牲にした判断なのか
・過去にどのような経験や問題があったのか
といった、判断が生まれた条件や考え方が分かる状態を指します。
これらが共有されていない形式知は、現場では「守るべきルール」「融通が利かない決まり事」として受け取られがちです。
一方で、判断の背景が見える形式知は、状況が変わっても考え方をなぞることができ、現場にとって「使いこなすための判断材料」となります。形式知が、「縛りになるか、支えになるか。」その分かれ目にあるのが、「背景」が共有されているかどうかなのです。
背景が分からない形式知は「縛り」になる
判断基準や手順だけが書かれた形式知は、一見すると分かりやすく見えます。
しかし、
❓なぜその判断が必要なのか
❓どのような状況を想定しているのか
❓何を優先した結果なのか
といった背景が見えない場合、現場にとってそれは「考える余地のない決まり事」になります。
その結果、
・少し状況が違うだけで使えなくなる
・判断を誤ることを恐れて確認が増える
・形式知が“免責のための盾”として使われる
といった状態に陥りやすくなります。
形式知が守られているのに、現場は動きにくくなっている。
この矛盾は、背景の欠如から生まれます。
背景が共有されると、判断は「再現可能」になる
一方で、判断の背景が共有されている形式知は、現場に考える余白を与えます。
たとえば、
📝「この基準は、○○を優先するために設けられている」
📝「この手順は、過去に△△のトラブルが起きたことを受けて決まった」
こうした一文があるだけで、現場は「今の状況ではどう判断すべきか」を考えられるようになります。これは、ルールを破っているわけでも、勝手な判断をしているわけでもありません。判断の意図を理解したうえで、再現している状態です。
背景共有は、属人化を防ぐための土台になる
属人化は、「情報が個人に閉じている状態」だけを指すものではありません。
実際には、
❓なぜそう判断しているのか
❓どこを見て状況を判断しているのか
といった思考のプロセスが共有されていないことが、属人化を生みます。
背景が共有された形式知は、判断の「答え」だけでなく「考え方」そのものを引き継ぐ役割を果たします。
これにより、
✅人が変わっても判断の質が大きくぶれない
✅経験の浅い担当者でも状況を読み取れる
✅判断のズレがあっても、すり合わせがしやすい
といった効果が生まれます。
背景は「説明するもの」ではなく「見える化するもの」
ただし、背景をすべて文章で説明しようとすると、形式知は一気に重たくなります。
重要なのは、背景を長文で説明することではなく、共通で参照できる形にすることです。
❓どの情報を見て判断しているのか
❓どの状態を「正常」「異常」と捉えているのか
こうした背景が自然と共有される環境があれば、形式知は説明書ではなく、判断を支える前提条件として機能し始めます。この「前提をそろえる仕組み」が、次の章で扱うテーマにつながっていきます。
5.共通の判断基準を持つことで、組織の動きは揃い始める
形式知が現場で機能し始めると、次に重要になるのは「その判断が組織全体でどう共有されるか」です。個々が正しく判断していても、見ている情報や基準がバラバラであれば、組織としての動きは揃いません。
共通言語がない組織では、判断がすれ違う
🏭「進捗は順調です」
🏭「問題はありません」
こうした言葉が交わされていても、人によって見ているものが違えば、意味はまったく異なります。
| ✅何をもって「順調」と言っているのか ✅どの時点を基準にしているのか ✅どの程度の遅れや負荷を問題と捉えるのか |
これらが共有されていない状態では、判断そのものが噛み合いません。
結果として、
| ⚠️認識のズレが後から顕在化する ⚠️トラブルが「突然起きた」ように見える ⚠️責任の所在が曖昧になる |
といった問題が起こります。
💡判断基準が揃うと、会話の質が変わる
共通の判断基準があると、会話は「感覚」から「状況」へと変わります。
| ✅今どの状態なのか ✅どこにリスクがあるのか ✅どの選択肢が現実的か |
これらを、同じ情報を見ながら話せるようになるためです。この状態では、個人の経験や立場の違いがあっても、判断の出発点が揃います。
形式知は、単なるルールではなく、共通言語を支える基準として機能し始めます。
判断基準を「保管」するだけでは足りない
判断基準が文書として存在していても、日々の業務で参照されなければ意味がありません。
重要なのは、
📌日常的に目にする情報と結びついているか
📌判断のたびに自然と参照されるか
という点です。判断基準が業務の流れの中に組み込まれているほど、形式知は意識せずとも使われるようになります。
判断基準を揃えるための「器」としての管理ツール
こうした共通の判断基準を支える手段の一つとして、業務データを集約・共有する管理ツールがあります。これは、業務を管理するためだけのものではありません。
どの情報を見るのか
・どの状態を基準に判断するのか
・進捗や負荷をどう捉えるのか
といった判断の前提条件を、組織全体で揃えやすくする役割を持ちます。特に、日々更新される業務データをもとに状況を把握できる環境では、「何を見て判断しているのか」が自然と共有されます。
結果として、データそのものが社内の共通言語となり、形式知が現場に定着しやすくなります。
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手段よりも先に、判断の揃え方を考える
ただし、どのツールを使うかが本質ではありません。
重要なのは、
✅どんな判断を揃えたいのか
✅どんな情報があれば判断できるのか
を先に考えることです。
判断の考え方が整理されていれば、それを支える手段は後から選べます。形式知を「使われる知識」にするためには、ルールを書くことでも、ツールを導入することでもなく、判断の前提を揃えることが何より重要なのです。
6.形式知とは、判断を共有するための知識である
形式知とは、知識を文章にすることでも、ルールを増やすことでもありません。判断を共有し、再現し、組織に残すための知識です。
しかし実際の現場では、形式知があっても判断が揃わない、むしろ動きづらくなっている、というケースも少なくありません。その違いを分けているのは、形式知が「結論の集まり」になっているのか、それとも判断の前提や考え方まで共有できているかです。この最終章では、これまでの内容を整理しながら、形式知を「使われる知識」に変えるために何を揃え、何を残すべきかを改めて整理します。
形式知の本質は「判断の前提を揃えること」
形式知は、現場の行動を縛るためのものではありません。
✅何を見て判断するのか
✅どの状態を基準に考えるのか
こうした判断の前提を揃えることが、本来の役割です。
前提が揃っていれば、判断が完全に一致しなくても、すれ違いは起きにくくなります。
形式知とは、正解を押し付けるものではなく、判断をすり合わせるための土台なのです。
判断が人に依存する組織は、なぜ変わらないのか
判断が特定の人に依存する現場では、経験や勘はあっても、その背景や考え方が残っていないことが多くあります。
判断結果だけが共有されても、
❓なぜそう判断したのか
❓他にどんな選択肢があったのか
が分からなければ、次の判断には活かせません。
形式知が機能しない原因は、知識不足ではなく、判断の履歴が残っていないことにあります。
判断を「資産」に変えるために必要なこと
判断を組織に残すために必要なのは、特別な仕組みではありません。
| ✅判断に使った情報が分かる ✅どの状態を見て判断したかが分かる ✅判断の結果が後からたどれる |
この状態が整えば、判断は個人の経験から切り離され、組織の知識として使い回せるようになります。例えば、生産管理システムなどを活用し、日々の業務情報や進捗を共通で参照できる環境は、こうした判断の共有を支える受け皿となります。
重要なのは、判断が残り、参照される状態が作れているかです。
まとめ|形式知とは、判断を共有するための知識である
形式知とは、知識を増やすことではありません。判断を共有し、再現し、次につなげることです。
背景が見え、
基準が揃い、
判断が残る。
この状態を作ることで、形式知は初めて現場で機能します。形式知をどう作るかではなく、判断がどう伝わっているかを見直すこと。
それが、現場改善やDXを進めるうえでの確かな出発点になります。















