ベテラン社員の「技能」をどう未来につなぐか ― 中小製造業における技能承継・技術承継 ―
著者:佐々木 靜(ささき しずか)
2012年 テクノア入社
2019年 中小企業診断士登録
2022年 ITコーディネータ登録
入社以来、生産管理ソフトTECHSシリーズのインストラクターとして導入支援、フィット&ギャップコンサルを担当。
現在はプラットフォーム事業部にて、企業間をつなぐITソリューションを企画、提案する業務を担当しております。
多くの企業様を訪問しIT導入をご支援した経験と、経営の専門家としての知識を生かし、働くことを軸に「縁のあった企業や人々を幸せにする」活動を行ってまいります。
中小製造業にとって、長年現場を支えてきたベテラン社員は、まさに会社の宝です。多くのものづくりを経験し、品質の勘所やトラブル対応のポイントを身体で覚えてきた存在は、簡単に代えがきくものではありません。定年延長や再雇用制度の整備により、以前より長く働いてくれるベテラン社員は増えました。
一方で、団塊の世代が引退期を迎え、技能やノウハウを十分に引き継げないまま現場を離れてしまった、という声も多く耳にします。さらに10年後には、団塊の世代の子どもたちである第二次ベビーブーム世代も定年を迎えます。
「まだ先の話」と思っている間に、引き継ぐ相手がいなくなる可能性もあります。
だからこそ、日頃から技能承継・技術承継を意識した取り組みが重要だと考えています。
1.技能と技術の違い
技能承継を考える上で、まず整理しておきたいのが「技能」と「技術」の違いです。
技能とは、個人の知識・経験・態度によって築き上げられた能力です。
主観的で暗黙知が多く、「言葉にできない勘やコツ」として個人に宿っています。
高度になればなるほど、共有化が難しいのも特徴です。
技術は、文章や図などで記録として残すことができるものです。
技術書や標準作業書、マニュアルなどが代表的で、客観的かつ形式知として再現性を持ちます。
技能はその人の退職とともに失われる可能性がありますが、技術は企業の中に残り続けます。
2.技能を技術化して承継する
問題は、技能を技能のままでは承継できないという点です。
「技は見て盗め」「背中を見て覚えろ」という方法は、今の人手不足の環境では現実的ではありません。
承継できるのは技術です。
技能は一度技術として見える化・言語化し、誰でも使える形にすることで、はじめて次世代に引き継ぐことができます。
技能を技術化することは、ベテランの価値を下げることではありません。
むしろ、その人の経験を会社の財産として残すための取り組みです。
3.コア技術を見極める
とはいえ、すべての技能を技術化しようとすると、現場の負担は大きくなります。
時間も人手も限られる中小製造業では、現実的とは言えません。
重要なのは、「自社だからこそできていること」は何かを見極めることです。
競争力の源泉となっているコア技術を特定し、優先順位をつけて技術化していくことが、無理のない技能承継につながります。
4.技術をわかりやすく保存する
せっかく技術化しても、紙でファイリングしたままでは活用されません。
「どこにあるかわからない」「探すのに時間がかかる」状態では、承継にはつながらないからです。
例えば、TECHSシリーズでは、過去の製造実績や製品に紐づけて、関連資料や仕損情報を保存できます。
過去に受注した製品を再度製造する際、誰かに聞かなくても、自分で必要な技術をすぐ参照できる仕組みです。
AI類似図面検索を使えば、形状の似た図面から過去の事例を探し、関連資料を確認することもできます。
完全なリピート品でなくても、過去の知見を活かしたものづくりが可能になります。
技能承継・技術承継において、システム活用は非常に有効な手段だと考えています。
まとめ
技能承継・技術承継は、個人の努力に任せたり、日常業務の中で自然とできたりするものではありません。
会社の仕組みとして、計画的に取り組むことが重要です。
技能を技術に変え、コア技術を見極め、誰でも使える形で残していく。
「まだ大丈夫」と思える今こそが、実は一番の始めどきなのかもしれません。














