デカップリングポイントとは?生産方式による違いや決め方

著者:ものづくりコラム運営 デカップリングポイントとは?生産方式による違いや決め方        
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デカップリングポイントとは、需要に合わせて「引っ張られる(プル型)」部分と、予測などに基づいて「押し出される(プッシュ型)」部分を分ける境界点のことを指します。製造業においては、需要を的確に予測しながら適切な在庫を保有し、スピーディーにお客様へ製品を届けることが大切です。しかし、生産方式にはさまざまな形態があり、どこで在庫を持つか、どの時点で受注品へ切り替えるかなどを最適なタイミングで判断するのは簡単ではありません。そこで注目されるのが「デカップリングポイント」です。本記事では、生産方式ごとの違いや決め方を解説しながら、最適なデカップリングポイントの考え方をご紹介いたします。

1.デカップリングポイントの基礎知識

デカップリングポイントは、受注に合わせて製品をつくる「受注生産」なのか、需要を予測してまとめてつくる「見込み生産」なのかを分けるタイミングを指します。まずは基本的な考え方として、デカップリングポイントがどのような役割を果たすのかを理解しましょう。本章では、定義や重要性、さらにストックポイントとの違いに着目して解説します。

デカップリングポイントとは

デカップリングポイントとは、受注生産と見込み生産の境界となる地点のことです。具体的には、どこまで製品をあらかじめ生産し(見込み生産)、どこから先を受注後に生産するか(受注生産)を区切るタイミングを指します。
受注生産とは、顧客からの注文を受けてから生産を開始する方式です。この方式では、顧客の要望に柔軟に対応できる反面、納期が長くなる傾向があります。一方、見込み生産は、需要を予測して事前に生産を行う方式です。見込み生産では、迅速な納品が可能ですが、需要予測が外れると過剰在庫のリスクが生じます。
デカップリングポイントは、これら2つの生産方式のバランスを取るための重要な概念なのです。

デカップリングポイントの重要性

デカップリングポイントを適切に設定することで、過剰在庫を持つリスクを抑えやすくなります。過剰在庫は、保管コストや品目ごとの廃棄リスクなどに直結し、経営に大きな影響を与えかねません。また、多品種少量生産の環境下であれば、デカップリングポイントが曖昧だと、一部の製品で在庫を抱えすぎ、他方で急ぎの生産が間に合わないといった問題が起こる可能性があります。
そこで、ある程度見通しが立つ部分まで見込み生産を行い、そこから先の工程を受注に合わせるといった形でメリハリをつけることで、在庫の持ちすぎを防ぎつつ短納期にも対応可能になります。適切に設定されたデカップリングポイントは、上手に在庫を抑えながら、需要の変動にもスピーディーに対応するための重要なカギとなるのです。
【在庫を抑えられるデカップリングポイントを設定することで得られるメリットの例】
 ・在庫コストの削減
 ・柔軟な生産体制の構築
 ・顧客ニーズへの迅速な対応
 ・資金繰りの改善
適切なデカップリングポイントの設定は、企業の競争力向上に直結する重要な戦略となります。

ストックポイントとの違い

ストックポイントとは、簡単にいえば「在庫を保持する場所」です。サプライチェーン上では、原材料や仕掛品、最終製品など、さまざまな段階で在庫が置かれるポイントが存在します。一方で、デカップリングポイントは「受注生産と見込み生産を切り替える境目」のことを指し、在庫を置く場所そのものに必ずしも限定されません。実際には、デカップリングポイントを設定した工程付近にストックポイントを設置しておくことが多いですが、両者は概念的に異なるものです。
ストックポイントは、現場のスペースや保管コスト、在庫を抱える期間などの観点から設置を決定します。それに対してデカップリングポイントは、生産モデルそのものをどのように組み立てるかという全体の戦略の一環で決定します。したがって、ただ在庫を置けば良いというわけではなく、生産方式に合ったデカップリングポイントとストックポイントの連携が肝心です。

デカップリングポイント ストックポイント
定義の違い 受注生産と見込み生産の境界 在庫を保管する場所や工程
目的の違い 生産方式の切り替えを判断 在庫を適切に配置し、供給を安定させる
影響範囲の違い 生産全体の戦略に影響 物流や在庫管理の戦術に影響
設定の柔軟性 市場環境や製品特性に応じて変更可能 物理的な制約や物流網に依存

デカップリングポイントとストックポイントは、どちらも効率的な生産・在庫管理に欠かせない概念ですが、その役割と影響範囲が異なります。両者を適切に活用することで、より効果的な生産管理が可能となります。
 

2.【生産方式別】デカップリングポイント

生産方式によって、デカップリングポイントの位置や特徴が異なります。ここでは、主要な生産方式ごとにデカップリングポイントの特徴を解説します。

ETO(受注設計生産)のデカップリングポイント

ETO(Engineer to Order)では、受注があってから製品の設計を始めるため、デカップリングポイントはほぼありません。受注設計生産の工程全体が顧客の仕様に合わせて一から始まるため、基本的に見込み生産は成立しにくいのです。案件ごとにオリジナル設計が必要になる特殊性ゆえに、在庫を前もって持つよりも、一品ごとに構想から始めることが中心となります。
≪特徴≫
 ・完全なカスタマイズ製品に適用
 ・設計から製造まで全てが受注生産
 ・長いリードタイムが必要

MTO(受注生産)のデカップリングポイント

MTO(Make to Order)は、受注した後に製造を開始する生産方式です。予め共通部品や汎用品などをある程度は用意しておく場合もありますが、原則として受注後に最終的な組み立てや加工を行います。デカップリングポイントは、材料の手配やごく基本的な下準備をする段階と、加工や組立を行う段階の間に設定されることが多いでしょう。こうすることで、受注が入ったタイミングからスムーズに生産に入れるように工夫されます。
≪特徴≫
 ・原材料は在庫として保有
 ・製造工程は全て受注後に開始
 ・ETOよりもリードタイムが短い

BTO(受注加工組立)のデカップリングポイント

BTO(Build to Order)は、受注を受けてから組立や加工を行うという点でMTOにかなり近い形態です。ただし、BTOは部品をある程度そろえておくことが前提の場合が多く、最終的な加工の工程のみを受注に合わせるといったイメージです。そのため、デカップリングポイントは最終加工工程の直前になることが一般的です。BTOを採用している工場では、部品の在庫管理が非常に重要であり、必要なときに必要な数量だけスムーズに取り出せる状態を維持することが求められます。
≪特徴≫
 ・標準部品は在庫として保有
 ・組立や最終加工は受注後に実施
 ・カスタマイズと迅速な納品のバランスが取れる

ATO(受注組立)のデカップリングポイント

ATO(Assemble to Order)は、あらかじめ一部の品目を組立済みにしておき、受注が入ってから最終仕上げや最終的な組み立てを行う方式です。デカップリングポイントは、基本ユニットが完成したタイミングに設定されることが多いです。具体的には、製品のコア部分の組み立てまでを見込み生産として進め、最終調整・仕上げを受注後に行う形を指します。こうしたスタイルは、短納期でもある程度柔軟に対応するために利用されます。
≪特徴≫
 ・部品やモジュールを在庫として保有
 ・最終組立のみ受注後に実施
 ・比較的短いリードタイムで一定のカスタマイズが可能

MTS(見込み生産)のデカップリングポイント

MTS(Make to Stock)は、需要をある程度予測しながら製品を在庫として生産しておく方式です。在庫を持ったうえで注文に対応するため、納期は短くなりやすい反面、需要予測が外れると在庫リスクが高まります。デカップリングポイントはほぼ完成品段階の手前(あるいは完成品そのもの)に設定されるため、「受注が入る前から最終的な形に近い製品をそろえる」ことが特徴です。
≪特徴≫
 ・需要予測に基づいて生産
 ・即時納品が可能
 ・在庫リスクが高い

STS(在庫販売)のデカップリングポイント

STS(Stock to Sales)は、すでに完成した製品を在庫として持ち、販売のタイミングで出荷する方式です。限りなく自動販売に近い形で、デカップリングポイントは最終完成品の在庫を持つ地点に設定されます。ユーザー側からすれば、欲しいときにすぐに購入できる一方で、生産側は在庫を大量に抱えるリスクがあるため、需要予測と在庫管理が欠かせません。
≪特徴≫
 ・完成品を大量に在庫
 ・即時販売が可能
 ・最も在庫リスクが高い
 
これらの生産方式を理解し、自社の製品特性や市場環境に合わせて適切な方式を選択することが、効率的な生産管理の第一歩となります。
 

3.デカップリングポイントの決め方

デカップリングポイントをどこに設定するかは、生産工程や商品特性、さらには需要動向など多くの要因に左右されます。非常に合理的に検討したうえで決める場合もあれば、長年の経験や社内の慣習をもとに自然と決まっているケースもあるでしょう。本章では、代表的な決め方として「生産工程や商品特性に基づく方法」と「成り行きで決める方法」を挙げて解説します。

生産工程や商品特性によって決める

デカップリングポイントを設定するうえで、大きなヒントになるのがリードタイムや製品共通性、保管期限などの要素です。以下ではそれぞれの代表的な例について簡単に紹介します。

■リードタイムを基準にする例
製品を完成させるまでに時間がかかる工程がある場合、そこを境に受注と見込みを切り替えるのが効果的です。たとえば、表面処理や特殊加工などリードタイムが長い工程がある製品では、その工程を受注前にある程度進めておき、最終的な組立や出荷のみを受注後に行うことで、お客様からの注文に素早く対応できるメリットがあります。
■製品の共通性を基準にする例
製品間で部品やモジュールの共通性が高い場合、その共通部分までを見込み生産でまとめて行い、最後のカスタマイズ部分を受注後に実施するのが効率的です。パソコン等のカスタマイズ商品の組立でも、同じ基板やケースを使いつつ、CPUやメモリだけを変える形が分かりやすいイメージといえます。共通部品をまとめ買い・まとめ生産しておくことで、歩留まりを向上させられる利点があります。
■保管期限を意識した例
食品や医薬品などのように保管期限が厳しい製品では、先に完成品を大量につくってしまうと廃棄リスクが増すため、ある程度手前の段階で在庫を保有するほうが望ましい場合があります。たとえば、賞味期限が長くない食品であれば、おおまかな加工までを見込み生産で行い、最終的なパッケージ工程を受注後にやるなどして、鮮度を保ちつつ在庫リスクをコントロールします。

成り行きで決める

デカップリングポイントを数値解析や厳密なシミュレーションでなく、現場の慣習や営業との打ち合わせで自然に決める場合もあります。たとえば、社内で長年培われた勘や、現地で働く従業員の判断力など、経験に基づいて「ここで在庫を持つのがいい」「ここまでは見込みで進めよう」といったルールが定着しているケースです。
ただし、成り行きだけで決めていると、生産環境が変化した際に柔軟に対応できなくなる恐れがあります。外部環境の変化や需要動向の変化に合わせて、定期的にデカップリングポイントを見直すことが重要です。
 

4.デカップリングポイントを活用するポイント

デカップリングポイントを適切に設定できたとしても、実際の生産現場ではさまざまな需要変動が起こり得ます。そうした変動に対応するためのポイントの一つとして、「仕掛品の在庫」を持つ方法があります。
仕掛品を在庫で持っておくと、需要予測が外れた場合でも柔軟に対応できます。仕掛品はまだ完成品に組み立てる前の状態なので、別の製品に流用できる可能性が高いのです。
【仕掛在庫を持つメリットの一例】
 ・需要見込みが外れた場合に対処できる
 ・生産のリードタイムを短縮できる
 ・生産の平準化が可能
 ・カスタマイズの柔軟性を確保
 ・在庫リスクの分散
結果として無駄な在庫になりにくく、多品種少量生産にも対応しやすくなります。最終的な組立や加工の前段階がデカップリングポイントとなる場合は、この仕掛品在庫の活用が大きな効果をもたらすでしょう。
 

5.デカップリングポイントで在庫リスクを抑えつつ生産管理を強化しよう

本記事では、デカップリングポイントの意味や重要性、生産方式に応じた設定方法、さらには活用ポイントなどを解説してきました。デカップリングポイントは、受注生産と見込み生産の境目を明確にすることで、過剰な在庫リスクや長期的な納期遅延などを一挙に抑制する大切な仕組みです。
特に、多様化する顧客ニーズに応えるためには、適切な在庫管理と生産管理が欠かせません。滞留在庫を未然に防ぐには、在庫を「どこで」「どの段階まで」持つのかをしっかりと設計する必要があります。そこで重要になるのが、生産管理システムや在庫管理システムの導入です。
生産管理システムを導入すると、製造工程の進捗状況や在庫情報をリアルタイムで可視化することができ、需要予測にも役立ちます。デカップリングポイントの設定や見直しを行う際にも、シミュレーションを実施して最適なポイントを検討しやすくなるでしょう。さらに、システムと連携することで、現場の作業負荷を抑えつつミスを減らす効果も見込めます。
このように、デカップリングポイントを適切に活用し、生産管理システムを取り入れることで、生産全体の効率を高めるだけでなく、先々の需要変動にも柔軟に対応できる体制を整備できます。顧客への納期対応力を強化しつつ、余分な在庫を最小限に抑え、コスト改善にも貢献するのです。ぜひ自社の生産方式や製品特性に合ったデカップリングポイントを見極め、最適なシステム活用で確かな競争力につなげていきましょう。

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