安全在庫とは?特徴やメリット、計算方法から在庫管理のポイント

著者:礒崎 美華(いそざき みか) 安全在庫とは?特徴やメリット、計算方法から在庫管理のポイント

皆さん、こんにちは
株式会社テクノア IT経営プロジェクト 礒崎です。
近年、部品の供給が追い付かないことによる生産能力の低下や、製品を納期までに完成させるために、急遽、通常価格ではない高値の部品を購入して対応している場合もあると、訪問先のお客様からお困りごととしてよく話を聞きます。製造業において、適切な在庫管理は業務上切り離せないものとなっています。今回は在庫管理を行う上で「安全在庫の必要性」について解説します。

1.安全在庫の特徴やメリット

在庫管理は、在庫数を適切に保つことが大切です。もちろん、平常通りのペースで在庫が入出庫されるのであれば問題なく、「安全在庫の必要性」は感じないかもしれません。しかし、何らかの原因やトラブルで在庫品の需要が急増した場合、入荷までのリードタイムが長引き欠品を招いてしまいます。そのような事態に陥らないためにも、安全在庫の特徴や持つメリットについて詳しく見てみましょう。

安全在庫とは

安全在庫とは、発注から納品における欠品の発生を防ぐうえで、最低限保持しておく在庫数になります。天候や季節や流行りによって発生する需要変動、トラブルなどによる不確実な商品の欠品が発生しないよう、安全在庫を確保しておくことが重要です。このご時世、流行りやトラブルがいつ起こるか分からないため、欠品を確実に防止するのは難しい所でもあります。しかし、安全在庫を保持することで販売機会の損失といった、欠品によるリスクを避けることもできるため、重要な課題とも言えます。ただ、欠品ばかりに気を取られていると多くの在庫を抱えてしまい、今度は過剰在庫になりえるため注意が必要です。欠品の許容範囲も確認しながら、在庫削減も合わせて行うことがポイントとなります。

適正在庫との違い

安全在庫と適正在庫は同じ様な用語に捉えがちですが、「安全在庫」は、欠品を防ぐ目的で設定され、在庫数の下限を決めて管理します。「適正在庫」は、企業が最大限の利益を出すことを目的として、在庫数の下限だけでなく、過剰在庫とならないよう上限を決めて管理する在庫数のことを指します。このように、目的が異なるため、大きな違いがありますが、どちらも在庫管理を行う上では重要な考え方です。

安全在庫を把握するメリット

次に、安全在庫を管理することで生まれるメリットを3つ確認してみましょう。

「業務上のムダを削減」
安全在庫や適正在庫は、余剰在庫を減らし、倉庫の維持費用や作業員の人件費の削減が見込めます。適切な在庫を管理することで、製品の製造や保管に関わるコストの無駄を確実に抑えられます。

 

「販売機会の損失を防げる」
お客様から注文を受け、製品を製造し、納品日を守ることは、お客様の信頼度に大きな影響をもたらします。そのため、多くの企業は在庫を保持し、お客様の希望納期に間に合うよう計画を立てて製造を進めます。もし、急なトラブルがあったとしても、安全在庫を管理することで欠品を防げば、販売の機会を失うことなくお客様の信頼も維持できるのです。

 

「キャッシュフローの改善を期待できる」
在庫として保持する期間が長期化すると、お金の流れが滞ってしまう恐れがあります。安全在庫の設定で、余剰在庫や欠品を防止し、効率よく在庫を回すことでキャッシュフローが改善でき、より多くの利益が得られることを期待できます。

では、安全在庫はどのように管理していくのか、安全在庫の算出方法などを確認してみましょう。

2.安全在庫の計算方法

ここでは、安全在庫の算出方法を計算式で求めていきます。
需要が正規分布であることを前提とすると、次の計算式で算出します。

安全在庫数=安全係数×出庫数の標準偏差×√リードタイム+発注間隔

では、安全在庫を算出する流れについて解説していきます。

STEP1:安全係数を算出する

安全係数とは、欠品を許容できる割合(欠品許容率)を係数に置き換えたものになります。たとえば、100個供給する必要があるのに、98個しか供給できなかった場合、欠品許容率は2%となります。つまり、100個のうち2個欠品が起こる可能性があるということです。
安全係数は、欠品許容率から下記の計算式で求めることができます。なお、Excelを使用し下記式を当てはめることで簡単に安全係数を算出できます。

安全係数=NORMSINV(1-欠品リスク許容率)

欠品許容率 安全係数
1% 2.33
2% 2.06
5% 1.65
10% 1.29
15% 1.04
20% 0.85
30% 0.53

上記表のように、欠品許容率が小さいと欠品が起こる可能性も防げますが、安全係数が大きいため多くの在庫を保持することになります。そのため、欠品許容率については、会社の方針や過去データを基に取り決めを行いましょう。

STEP2:標準偏差を算出する

標準偏差とは、「データがどの程度ばらついているか」を判断するための標準的な需要指標になります。しかし、正確な需要予測は難しいため、過去の出庫数データの平均値を用います。標準偏差の推定値を計算する場合、Excel にて関数「STDEV.S (旧:STDEV関数)」で算出すると、計算の手間を省けます。

出庫 A(部品) B(部品)
1 100個 100個
2 200個 150個
3 300個 200個

A部品  100=STDEV.S(A1:A3)
B部品  50=STDEV.S(B1:B3)

上記表を見てわかるように、Aの平均値もBの平均値も同じ200個ですが、 Aは100個ずつ、Bは50個ずつの数値幅になっています。そのため、標準偏差はAの偏差は「100」、Bの偏差は「50」になります。

STEP3:リードタイムと発注間隔を算出する

リードタイムとは、部品の発注から入荷までにかかる日数になります。発注間隔とは、1度発注してから次に発注するまでの期間のことです。例えば、1度目を4月1日に発注し、5日後の4月5日が納期の場合、リードタイムは「5日」です。そして、2度目の発注を4月20日に行った場合の発注間隔は「20日」です。

では、以下例にて安全在庫を算出してみましょう。

・欠品リスク許容率:2%(安全係数:2.06%)
・出庫数の標準偏差:10個
・発注リードタイム:5日
・発注間隔:20日

■安全在庫=2.06×50×√(5+10)=103個

結果、「103個」の安全在庫を保持しておけば、98%の確率で欠品を防ぐことができます。
今回の結果は整数になりましたが、小数点以下の結果が出た場合は切り上げし管理しましょう。

3.安全在庫で適切に管理するポイント

安全在庫を適切に管理するためのポイントを押さえておきましょう。

●定期的に棚卸しを行う

安全在庫が機能するには、常に正確な在庫数を把握しておく必要があります。正確な在庫数とは、帳簿上の数字と実際の数字の差異を確認します。帳簿上では安全在庫が維持できていても、実際の在庫数と合っていなければ安全在庫は維持できていないのと同じです。また、保持している在庫の品質低下により在庫が減る恐れもありますので、品質のチェックも兼ねて、定期的に棚卸を行うことが管理する上では重要です。

●在庫管理システムを活用する

システムが未導入の場合、在庫管理システムを導入することもおすすめです。人の手作業となると、入力ミスなど人為的ミスが発生します。在庫管理システムを活用することでミスを減らせ、業務の効率化やシステム内での情報共有が可能となります。システムの専門的な支援により発注納期管理の強化、入庫数、出庫数などをデータとして蓄積し分析することで簡単に需要予測を立てやすくなり、企業の利益を最大化するために役立つでしょう。

4.まとめ

安全在庫は、欠品防止を目的としており、安全在庫のメリットや算出方法を把握し、管理することで多くのメリットがあります。しかし、予測が付かないトラブルが起こった場合、100%防げるわけではないことも理解が必要です。あくまでも、安全在庫の算出情報は参考値として使用し、定期的に棚卸や在庫数の把握を行いましょう。

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礒崎 美華(いそざき みか) IT経営プロジェクト

入社以来、九州、山口、広島と生産管理システムの導入支援に携わっております。
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