中小製造業が直面する価格転嫁の壁|原因と打開策を中小企業診断士が解説!

著者:榊原 由佳(さかきばら ゆか) 中小製造業が直面する価格転嫁の壁|原因と打開策を中小企業診断士が解説!        
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榊原 由佳(さかきばら ゆか) IT経営コンサルティング事業部

2014年入社。
中小企業診断士 2020年5月登録。

入社以来、中小製造業様向け生産管理ソフト「TECHS」のカスタマーサポート部において、サポート業務に従事。
TECHSに関するお客様からの様々な問い合わせやトラブルの対応を行い、システムの安定稼働を通して、業務改善を支援しています。

中小製造業の経営者なら誰もが頭を悩ませる「価格転嫁」の問題。原材料費の高騰や人件費の上昇により、コストアップが避けられない中、なかなか製品価格に転嫁できずに利益を圧迫されている企業が多いのが現状です。しかし、価格転嫁ができないまま事業を継続することは、中長期的な観点から見ると企業の存続を危うくしかねません。

本コラムでは、中小製造業が直面する価格転嫁の壁について、その原因を探るとともに、打開策を考えていきます。価格転嫁が進まない背景には、どのような構造的な問題があるのでしょうか。また、限られたリソースの中で、どのようにして価格転嫁を実現していけばよいのでしょうか。

業種や企業規模を問わず、多くの中小製造業が抱える価格転嫁の悩み。本コラムを通じて、その課題解決のヒントを見つけていただければ幸いです。

1.製造業がおさえておきたい価格転嫁とは?

ここ数年で、原材料費やエネルギーコストの高騰、最低賃金の引上げなど、コスト増による負担が増しています。そのコスト増に対応し、持続可能な経営を続けるためには、適切なタイミングで価格転嫁を行うことが重要です。

価格転嫁とは

価格転嫁とは、企業が生産コストの上昇分を製品価格に反映させることです。具体的には、材料費や労務費、電気料金などのエネルギーコストが上がった場合に、その上昇分を製品やサービスの価格に上乗せすることを指します。製造業においては、コスト構造が複雑で多岐にわたるため、価格転嫁の難易度はより高くなりがちです。
 

価格転嫁の実態と価格転嫁率

中小企業庁が行った、2023年9月の価格交渉促進月間フォローアップ調査では、前回調査(2023年3月)と比較して、「発注企業から、交渉の申し入れがあり、価格交渉が行われた」が14.4%(前回は7.7%)、「コストが上昇せず、交渉・転嫁が不要である」が16.4%(前回は7.7%)、「価格交渉を希望したが、交渉が行われなかった」が7.8%(前回は17.1%)と、コスト上昇が一服、または、すでに価格転嫁できたため、価格交渉を不要と考える企業が増加、価格交渉に応じてもらえない率も減少しており、価格交渉できる雰囲気は醸成されつつあるものと考えられます。一方で、価格転嫁率は47.6%→45.7%と微減しています。減少の理由は、「コストが上昇せず、価格転嫁が不要」の割合が8.4%→16.2%に増えたことが要因の1つと考えられますが、「全く転嫁できなかった」、「コストが増加したのに減額された」割合は依然20.7%となっており(前回は23.5%)、価格転嫁率の上昇は今後も課題と考えられます。
 また、コスト要素ごとの価格転嫁率を見ると、原材料費が45.4%、労務費が36.7%、エネルギー費が33.6%と労務費、エネルギー費は原材料費と比べると約10%低くなっています。
 

労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針

2023年(令和5年)11月29日に、内閣官房および公正取引委員会が連名で、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しました。この指針は、発注者および受注者が取るべき行動/求められる行動を12の指針として取りまとめ、取り組み事例や留意点を記載しています。また、この指針に記載の行動に沿わないような行為を行い、公正な競争を阻害するおそれがある場合は、公正取引委員会において、独占禁止法および下請法に基づき厳正に対処することが明記されており、適正取引を後押ししています。
 

2.中小企業製造業で価格転嫁が進まない原因と課題

適正価格が分からない

中小製造業、特に、個別受注生産を行っている中小製造業の場合、決算書などで費用の増加が明らかでも、個別の製品について、原価がいくらか、いくらの売値で売るべきか、が分からず、値上げが難しいというお声を聞きます。製品の一律値上げを受け入れてもらえれば、よいですが、そうではない場合、例えば、製品ごとにある程度根拠を示してほしいと言われた場合に、個別の製品の原価や適正価格が分からないと交渉することが難しくなります。
 

顧客離れを危惧

価格を上げることで顧客が他社製品に流れてしまう転注リスクも存在します。中小企業は特にこのリスクを恐れ、価格転嫁を躊躇する傾向があります。しかし、材料費の上昇や賃上げ、エネルギーコストの上昇は待ってくれません。価格転嫁を避け続けると、最終的には利益確保が困難になり、事業の持続性が脅かされることになります。
 

取引先に値上げ交渉ができない

取引先との関係性やパワーバランスによっては、値上げ交渉が非常に困難です。特に大手企業との取引を重視する中小企業にとって、関係を悪化させることは大きなリスクです。そのため、多くの場合、再交渉の機会を待たずしてコスト上昇分を自己負担するケースもあります。
 

3.価格転嫁を進める上で押さえておきたいポイント

では、価格転嫁を成功させるために何に注意すべきでしょうか。以下のポイントを押さえましょう。

正確な原価の把握

取引先と交渉するにあたって、適正価格を提示するためには、個別の製品の原価を把握することが必要です。まずは、各製品の材料費、外注費、労務費、設備費などの製造直接費を把握します。そして、間接費や販管費などすべてのコストを考慮して、適正価格を設定しなければいけません。正確な原価が把握できないと、価格の適正化はできないので、個別原価の把握は非常に重要です。
 

取引先との関係性(発注側企業とのコミュニケーション)

価格交渉を成功させるためには、取引先との信頼関係が欠かせません。日常的なコミュニケーションを通じて、取引先にコスト上昇の背景やその影響を理解してもらうことが重要です。特に継続的な取引が見込まれるパートナーには、日頃から、情報共有するなど、唐突な交渉とならないよう心掛ける必要があります。
 

価格交渉のタイミング

価格交渉のタイミングも重要な要素です。一般的には、半年から少なくとも3か月前には交渉を開始することが推奨されます。これは、取引先が新たな価格に対応するための期間を確保することが目的です。取引先と良好な関係を維持しつつ、交渉を進めるためにも、早めの交渉が大切です。
 

業界や競合他社の動向を知る

価格転嫁を進める際には、業界や競合他社の動向を把握することも重要です。他社が価格を上げているかどうか、市場の動向がどうなっているかを理解することで、自社の価格改定が受け入れられる可能性が見えてきます。
 

4.価格交渉ができない場合の回避案

とはいえ、どうしても価格交渉が成立しない場合もあります。そうした場合には、次のような回避策を考えてみましょう。

コスト削減の取り組み

価格転嫁が難しい場合、まずは社内のコスト削減に取り組むことが求められます。材料の見直しや省エネ対策、作業効率の向上など、多岐にわたる方法があります。これによって価格転嫁の必要性を最小限に抑えることができます。
 

製品ラインナップの変更と新製品開発

中長期的な取り組みになりますが、利益率の低い製品を減らし、利益率の高い製品へシフトすることも一つの方法です。現在製造している製品の原価を把握して、利益率の高い製品の営業に注力することはもちろん、より付加価値の高い新製品を開発することも有効です。
 

新規市場の開拓

新たな市場への参入を視野に入れることも検討しましょう。新興市場やニッチなセグメントへの展開により、価格競争が少ない環境でビジネスを展開することが可能です。
 

5.まとめ

価格転嫁は簡単ではありませんが、適切な準備と努力によって実現可能です。コスト削減と併せて実施することで、顧客との信頼を維持しつつ、経営の安定を図ることが可能になります。

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▼中小企業診断士・ITコーディネータによる伴走型IT経営支援サービス『IT経営コンサルティング』
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