最低賃金引上げが企業の持続的成長の鍵!最新動向と賃上げ方法を解説

著者:榊原 由佳(さかきばら ゆか) 最低賃金引上げが企業の持続的成長の鍵!最新動向と賃上げ方法を解説        
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榊原 由佳(さかきばら ゆか) IT経営コンサルティング事業部

2014年入社。
中小企業診断士 2020年5月登録。

入社以来、中小製造業様向け生産管理ソフト「TECHS」のカスタマーサポート部において、サポート業務に従事。
TECHSに関するお客様からの様々な問い合わせやトラブルの対応を行い、システムの安定稼働を通して、業務改善を支援しています。

近年、最低賃金の引上げが企業の持続的成長に欠かせない要素として注目を集めています。人件費の増加を懸念する経営者も多いですが、実は最低賃金の引上げは、従業員のモチベーション向上、生産性の向上、優秀な人材の確保など、長期的な視点で見ると企業にとって大きなメリットがあります。

本コラムでは、最低賃金引上げの最新動向を踏まえ、なぜ最低賃金の引上げが企業の持続的成長に重要なのか、その理由を解説します。さらに、円滑な賃上げを実現するための具体的な方法や、賃上げによる企業のメリットについても詳しく紹介します。ぜひ最後までご覧ください。

経営者や人事担当者は必見の内容となっています。最低賃金引上げに対応し、従業員の満足度を高めながら企業の持続的成長を実現するヒントが満載です!

1.最低賃金の引上げは企業の持続的成長に欠かせない課題

最低賃金引上げの目的と最新動向

最低賃金引上げは、労働者の生活を安定させ、消費を促進し、地域経済全体を活性化する重要な手段です。また、企業の競争力向上、社員のモチベーション維持、そして、生産性向上にもつながります。
最低賃金は、国によって、毎年7月~8月頃に引上げ額が決定され、10月頃に改定されます。2023年(令和5年)には、地域別最低賃金が大幅に引き上げられ、全国加重平均額が初めて1,000円を超え、過去最高金額となっています。

地域別最低賃金一覧

2023年(令和5年)の地域別最低賃金額及び発行年月日は、以下の通りです。

都道府県名 最低賃金時間額【円】 引上率【%】 発行年月日
全国加重平均額 1004 (961) 4.5
北海道 960 (920) 4.3 令和5年10月1日
青森 898 (853) 5.3 令和5年10月7日
岩手 893 (854) 4.6 令和5年10月4日
宮城 923 (883) 4.5 令和5年10月1日
秋田 897 (853) 5.2 令和5年10月1日
山形 900 (854) 5.4 令和5年10月14日
福島 900 (858) 4.9 令和5年10月1日
茨城 953 (911) 4.6 令和5年10月1日
栃木 954 (913) 4.5 令和5年10月1日
群馬 953 (895) 4.5 令和5年10月5日
埼玉 1028 (987) 4.2 令和5年10月1日
千葉 1026 (984) 4.3 令和5年10月1日
東京 1113 (1072) 3.8 令和5年10月1日
神奈川 1112 (1071) 3.8 令和5年10月1日
新潟 931 (890) 4.6 令和5年10月1日
富山 948 (908) 4.4 令和5年10月1日
石川 933 (891) 4.7 令和5年10月8日
福井 931 (888) 4.8 令和5年10月1日
山梨 938 (898) 4.5 令和5年10月1日
長野 948 (908) 4.4 令和5年10月1日
岐阜 950 (910) 4.4 令和5年10月1日
静岡 984 (944) 4.2 令和5年10月1日
愛知 1027 (986) 4.2 令和5年10月1日
三重 973 (933) 4.3 令和5年10月1日
滋賀 967 (927) 4.3 令和5年10月1日
京都 1008 (968) 4.1 令和5年10月6日
大阪 1064 (1023) 4.0 令和5年10月1日
兵庫 1001 (960) 4.3 令和5年10月1日
奈良 936 (896) 4.5 令和5年10月1日
和歌山 929 (889) 4.5 令和5年10月1日
鳥取 900 (854) 5.4 令和5年10月5日
島根 904 (857) 5.5 令和5年10月6日
岡山 932 (892) 4.5 令和5年10月1日
広島 970 (930) 4.3 令和5年10月1日
山口 928 (888) 4.5 令和5年10月1日
徳島 896 (855) 4.8 令和5年10月1日
香川 918 (878) 4.6 令和5年10月1日
愛媛 897 (853) 5.2 令和5年10月6日
高知 897 (853) 5.2 令和5年10月8日
福岡 941 (900) 4.6 令和5年10月6日
佐賀 900 (853) 5.5 令和5年10月14日
長崎 898 (853) 5.3 令和5年10月13日
熊本 898 (853) 5.3 令和5年10月8日
大分 899 (854) 5.3 令和5年10月6日
宮崎 897 (853) 5.2 令和5年10月6日
鹿児島 897 (853) 5.2 令和5年10月6日
沖縄 896 (853) 5.0 令和5年10月8日

※括弧書きは、令和4年度地域別最低賃金
※出典:厚生労働省 「地域別最低賃金の全国一覧 令和5年度地域別最低賃金改定状況」

なお、地域別最低賃金とは別に特定(産業別)最低賃金というものもあります。特定(産業別)最低賃金に当てはまる事業や職業に就いている労働者は、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」のうち、より高い方が最低賃金になります。

2.賃上げが中小企業へ及ぼす影響

賃上げは、人件費の増加につながるため、中小企業や小規模事業者にとって、財務面での負担につながります。また、最低賃金が引き上げられた場合、他社の賃金も上がるため、より高い時給を設定しないと他社と賃金の差別化ができず、新たな採用に苦戦したり、扶養内で働く従業員の労働時間が減って、人手不足になる可能性があります。さらに、最低賃金に当たる従業員のみ賃上げした場合、賃上げ対象とならなかった従業員が不満を感じる可能性もあります。
一方で、賃上げすることで、従業員の離職率の低下、人材の質の向上、それによる生産性の向上などの効果も期待できます。これにより、企業としての信頼性が高まり、取引先や顧客からの評価が上がるという副次的効果も考えられます。

3.自社で出来る賃上げの方法とは

賃上げの方法とメリット/デメリット

賃上げの方法には、ベースアップ、定期昇給、手当、一時金の4つがあります。ここでは、それぞれの特徴と効果、そして、企業・労働者双方のメリット・デメリットを解説します。

●ベースアップ
ベースアップは、企業全体の基本給を一律に引き上げる方法です。物価上昇や企業の業績などを考慮して、全社員の基本給が一定の割合や金額で増加します。
労働者にとってのメリットは、生活費の上昇に対応できるため、生活の安定につながることです。また、一律に給与が増えるため、従業員間に公平感があります。企業側のメリットとしては、従業員のモチベーション向上や企業への信頼感の醸成に寄与します。
デメリットは、一律の引上げであるため、個人の能力や貢献度に応じた差が付きにくく、従業員間で不満が生じることがあります。また、一度の決定で全員の基本給が上がるため、人件費が大幅に増え、財務負担が大きくなる可能性があります。

 

●定期昇給
定期昇給は、あらかじめ決められたルールに基づいて、毎年一定の時期に行われる昇給です。
メリットは、労働者にとって、安定した収入の増加が見込めるため、長期的な生活設計が立てやすくなります。また、定期的な昇給があることで、モチベーションの維持にもつながります。企業側としては、労務管理がしやすくなり、従業員に対する公平感を維持できます。
デメリットは、昇給が年次で自動的に行われるため、個々のパフォーマンスに関わらず、人件費が増加する可能性があります。また、年数による昇給が主であるため、優れた成果を上げる従業員に対して、十分に報酬が反映されないことがあります。

 

●手当
手当は、特定の条件や要因に対して支給される追加報酬です。通勤手当、住宅手当、特定技能手当などの例があります。
メリットは、企業にとっては、特定の条件に応じた支給ができるため、人件費の管理がしやすく、特定の能力や条件を持つ従業員を引き留めやすくなります。労働者にとっても、特定の要因に対して追加収入が得られるため、生活環境や能力に応じた補助が受けられます。
デメリットは、企業にとっては、手当の種類が増えると、管理が煩雑になること、労働者にとっては、諸手当は基本給ではないため、基本給ベースの福利厚生(年金や退職金など)に反映されにくいことが考えられます。

 

●一時金
一時金は、特定の業績や成果に対して支給される臨時の報酬です。例えば、ボーナスや特別賞与などです。
メリットとして、労働者は顕著な成果や節目の業績に対して直接的な報酬が得られるため、大きなインセンティブとなります。企業側にとっても、優れた成果を上げた従業員に対する報酬を柔軟に設定でき、業績に応じた人件費の調整が可能です。
デメリットは、業績が悪化した場合でも支給を約束すると、企業側にとって財務的な負担になります。労働者側としては、毎月の生活費には反映されにくいため、安定した収入とは言いにくいです。

 

最低賃金の対象から除外される賃金

賃上げの方法をご紹介しましたが、最低賃金については、すべての賃金が対象となるわけではありません。以下の賃金は最低賃金の計算対象とならないため、注意が必要です。
・臨時に支払われる賃金 例)結婚手当など
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 例)ボーナスなど
・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
例)時間外割増賃金、深夜割増賃金など
・所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金 例)休日割増賃金など
・精皆勤手当、通勤手当、家族手当

4.中小製造業が押さえるべき賃上げへの対応

賃金引上げに伴うコスト増加は中小製造業にとって大きな課題です。しかし、賃上げを避けて通ることはできません。そのため、持続可能な経営を実現するためには、コストダウンと価格転嫁の両面から対策を講じることが必要です。

5.見落とし注意!最低賃金法違反で生じるペナルティ

最低賃金制度は、最低賃金法で定められた制度です。使用者は、最低賃金額以上の賃金を支払う必要があり、これに違反した場合、罰則があります。

●出来高制
出来高払いの場合も最低賃金は適用されます。時間当たりの賃金が最低賃金を下回った場合は、違反となってしまうため、注意が必要です。

 

●試用期間
試用期間中の賃金にも最低賃金が適用されます。正式採用後と試用期間中の賃金が異なる場合は、試用期間中の賃金についても最低賃金を満たしている必要があります。

 

●請負制
通常、請負や委託の場合、最低賃金の適用はありません。しかし、契約上は、「請負」や「委託」になっていても、勤務実態が請負や委託とはいえず、従業性が認められると、最低賃金が適用される可能性があります。

 

6.まとめ

賃金の引上げは、労働者の生活安定と地域経済の活性化のために重要な手段であり、企業の持続的成長にも寄与します。しかし、中小企業にとっては、財務負担か増えるため、賃上げに伴うコスト増加をどう克服するかが課題となります。賃上げの方法の選択と効果的な対策を講じることで、従業員のモチベーション向上や離職率の低下、生産性の向上を図りつつ、持続的な経営を実現することが求められます。
賃上げの原資を確保するには、コストダウンと価格転嫁が必要です。コストダウンと価格転嫁を実現する、原価管理の仕組み作りについては、ぜひ、当社の中小企業診断士・ITコーディネータにご相談ください。

IT経営コンサルティングについて

▼中小企業診断士・ITコーディネータによる伴走型IT経営支援サービス『IT経営コンサルティング』
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