技術伝承とは?製造業が抱える後継者育成の課題と効率的な進め方

著者:ものづくりコラム運営 技術伝承とは?製造業が抱える後継者育成の課題と効率的な進め方

「技術伝承」とは、熟練技術者が持つ長年の経験に基づいた作業知識、技術(スキル)を、ほかの者に引き継ぐことです。技能伝承(継承、承継)とも呼ばれます。製造業においてはいつの時代においてもついて回る課題といえますが、近年とくに他業種も含め、日本全体で問題となっています。

ベテラン社員の持つ技術を、次の世代に引き継いで社内に留め、さらに進歩、発展させたいと願う企業経営者は多いでしょう。しかし、社会全体の高齢化に伴い、団塊世代(おおむね1947~49年生まれ)が次々と第一線を退いています。2022年4月に総務省が発表した統計データによると、2021年10月1日時点の日本の総人口に占める65歳以上の割合は過去最高の43.8%です。

高齢化という現状を踏まえ、事業の継続、拡大を願う製造中小企業にとって、技術伝承は喫緊の課題といえるでしょう。
この記事では、技術伝承の課題の解決方法について解説します。

1.技術伝承の基礎知識

「技術伝承」の定義は、同じ製造業界でも会社や工場によって異なるかもしれません。基礎的な点を以下でわかりやすく説明します。

製造業における技術伝承の意味と重要性

製造業における技術伝承とは、一般的にベテラン社員をはじめとする特定の人材が持つ知識や技術を後継者に引き継ぐことを意味します。単に仕事の進め方を教えるのとは異なり、業界特有の暗黙知や振る舞いなど、言語化が難しい情報まで共有するのが特徴です。
「暗黙知」とは、熟練した職人が長年培ってきた勘やコツを指します。暗黙知は、あらゆる作業工程に存在する独特の知識や技術です。たとえば、デジタル制御の工作機械であっても、すべての機体がまったく同じとはいえません。各機体によって、クセとも呼ばれる固有の特徴、個性があります。職人が長年使用していく中で、機械を製造したメーカーのマニュアルを超えて、効果的な操作、運用方法を体得するのです。
このようにして習得した暗黙知は、マニュアル化や標準化が非常に難しく、継承の難度が高いといえます。
さらに、製造業を含めて人手不足が深刻化する昨今、獲得した貴重な若手人材は単なる作業労働力ではありません。技術継承者として教育、育成し、技術を伝承させる必要があるのです。
技術伝承に組織全体でコミットできない場合、自社が保有する技術、技能は失われます。結果的に、企業競争力の低下を招く可能性があるのです。具体的には、熟練者の引退に伴い保有している独自のノウハウが失われると製造、加工技術が低下します。すると製品の品質も低下して、顧客の信用を失ってしまうのです。
製造業における技術伝承は、将来的な企業継続や発展を左右するほど重要なファクターといえます。

技術と技能の違い

「技術」とは、技能を自由に使いこなすための能力を意味します。マニュアルなどで言語化でき、内容を頭で理解できます。
対して「技能」とは、業務などの物事を円滑に、効率よく進めるための能力です。広義では、暗黙知も技能の一種といえるかもしれません。現場などで習得するのが前提であり、身につけるには相応の経験と時間を要します。

技術伝承が難しいとされる理由

ベテランから若手へのスムーズな技術伝承は、多くの製造業にとって一つの課題となっています。ベテランは「若手の飲み込みが悪い」、若手は「ベテランの教え方が悪い」として、双方に不信感が募る傾向にあるためです。
ベテランは技術や技能、暗黙知の説明をするのが難しいでしょう。一方、若手はベテランが提示する情報の理解が難しいと感じることがあります。言語に限らず、写真やイラストで説明しても伝わらない場合があるでしょう。
また、ベテラン技術者は往々にして「技術は習うものではない、盗むものだ」、あるいは「自身で体得するものだ」と旧来的なイデオロギーにこだわりがちです。そのため、自分から積極的に噛み砕いて分かりやすく教えるのを嫌がる傾向さえあるかもしれません。
そこで、技術伝承を「OJT(オンザジョブロレーニング:仕事を通じた訓練)プログラム」で計画的に実践している企業もあります。OJTのメリットは、訓練、教育のために時間や費用を特別に捻出する必要がない点です。ただし技術伝承の観点からすると、結局は指導する側の訓練スキルに依存しています。また、作業しながら教える仕組みのため、肝心の作業効率が低下するのがデメリットです。そのためOJTでは、暗黙知の継承が依然として困難であり、技術伝承の決定的な解決策とまではいえないでしょう。

2.技術伝承の課題と解決策

技術継承の課題は主に2つあります。業務の属人化が進んでしまっているケースと、人材育成や能力開発に手が回らないケースです。以下にそれぞれの解決策を解説します。

業務の属人化が進んでいるケース

特定のベテラン社員しか対応できない属人化した業務を特定し、ウィークポイントとして解消します。
長年の業務経験により、卓越した技能と暗黙知を有しているベテラン社員は会社の財産であり、戦力です。しかし当該社員がいなければ業務が成り立たない場合、組織としては極めてリスキーな状態にあります。早急に次世代への技術伝承、若手人材の育成を始めるのが望ましいでしょう。
とりわけ暗黙知の継承は難しいため、次世代に伝えるには教え方の工夫が必要です。個人や現場チームに丸投げするのではなく、組織全体としてマニュアルや動画を活用し、暗黙知をデータ化する必要があります。「形式知」に変換し(形式知化)、まずは社内共有することが解決策の第一歩です。

人材育成や能力開発に手が回らないケース

国内の製造業の半数が、人材育成や能力開発にコストを割けない状況にあるといわれています。厚生労働省が公表した資料、「令和2年度能力開発基本調査」によれば、能力開発や人材育成に関する問題点について、製造業を含めた多くの企業が社内リソースの不足を挙げています。
企業の54.9%が「指導する人材が不足している」、49.4%が「人材育成を行う時間がない」と回答しており、業務と人材育成の並行が大きな課題となっています。
解決策は、全体的なコミュニケーションの充実化による、リソースの分散です。組織の中でマニュアル活用と並行すると、効率的な引き継ぎがしやすいといえます。特定の人材に負担を集中させないようにし、ベテランと若手が円滑にコミュニケーションを取れる、技術伝承しやすい環境をつくるのです。
とはいえ、昔のように飲みの席を設けるわけにもいかないのが現状でしょう。OJTと併用して、勤務時間内で、ベテランと若手にマニュアルを起点として、技術について意見交換する場を設けると効果的です。

3.技術伝承を効率的に進める方法

技術伝承を効果的に進める方法として、昨今カギとされているのがIT化、デジタル化です。以下でIT化、デジタル化と技術伝承の関係について解説します。

ITで技術・技能を見える化する

デジタル技術により技術や技能、暗黙知を見える化するのが第一歩です。技術などの可視化で、後継者が学びやすい環境を整備できます。人材育成が進めば、ベテラン社員による業務の属人化解消が期待できるでしょう。技術・技能の見える化の方法は多岐にわたりますが、一般的にはベテラン社員の作業工程を動画化したり、社内マニュアルにまとめたりします。

・生産管理システムを導入する
生産管理システムを導入すると、ベテラン社員や上層部のリソースが確保できます。そのため若手人材への技能継承に時間を割けられるようになるのです。 生産管理システムにはテクノアの「TECHS-S(テックス・エス)」をおすすめします。「TECHS-S」は、個別受注型の機械・装置業様向けに開発された、 中小中堅企業のための生産管理システムです。 「TECHS-S(テックス・エス)」のCADやExcelからのデータ取り込み機能により、資材調達にかかる入力工数を大幅に削減できます。併せて入力ミスや発注漏れ・手配ミスを削減して、手待ちの防止にもなるのです。さらに部品納入状況など、組立作業者からの問い合せ時間も短縮できます。発注書、作業指示書は、バーコード処理によって誰でも簡単に、しかも確実に処理ができるのです。

 

 

【生産管理システム『TECHS-S』導入実績業種例】
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・位置×実績 見える化システム「Ez-Bee(イージー・ビー)」
AIやIoT、ビッグデータを活用すれば、より効率的に「見える化」が可能です。テクノアの「Ez-Bee(イージー・ビー)」では、社員の進捗や位置情報などのデータを自動収集できます。
稼働機にIoTデバイスを設置するなどの大規模工事は必要ありません。各作業ブースに「EXBeaconプラットフォーム」を設置し、ビーコンカードを付加した作業指示書や担当者カードを作業員に持たせるだけです。これでベテラン社員の作業実績・作業日報などがクラウドに蓄積されます。クラウドに蓄積されたベテラン社員の導線、工程時間をデータ化すれば、分析や共有が可能です。また、動画データを紐づけるなどして、社内マニュアルの作成時にも有効になります。

4.まとめ、技術伝承の要件

技術伝承とは知識や技術を後継者に引き継ぐことを意味し、企業競争力の維持に不可欠です。とはいえ技術や技能の共有は、簡単なことではありません。属人化した業務を特定し、組織全体としてマニュアルや動画を活用し、暗黙知をデータ化、形式知化し、社内共有することが必要です。また、全体的にコミュニケーションを取りやすい環境をつくることも必要です。OJTと併用して交流の機会を設けると効果的でしょう。
ITで技術や技能、暗黙知を見える化、可視化し、後継者が学びやすい環境を整備できます。ベテラン社員の作業工程を動画化したり、社内マニュアルにまとめたり、AIやIoT、ビッグデータを活用し、より効率的に「見える化」を行ったりすることも可能です。デジタル化として、生産管理システム導入によって、業務フローを効率的に管理し、ベテラン社員や上層部のリソースを確保し、技能継承に注力できる時間を作り出すこともおすすめします。

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