棚卸差異はなぜ起きる?製造業の実地棚卸の段取りと、仕掛在庫・払出管理のポイント

著者:ものづくりコラム運営 棚卸差異はなぜ起きる?製造業の実地棚卸の段取りと、仕掛在庫・払出管理のポイント
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棚卸差異は、棚卸の日の数え間違いだけでなく、ふだんの払出や移動の記録が実物の動きに追いついていないことからも起きます。

「システムでは10本あるはずの材料が、棚には7本しかない」「どこまで加工が進んだ仕掛品なのか、数えながら首をかしげる」。年に一度の棚卸のたびに、同じ悩みを繰り返していないでしょうか。現場は忙しく、材料を使うたびにすぐ登録するのは簡単ではありません。
この記事では、まず製造業の在庫の種類を整理し、棚卸の前に社内で決めておくことを紹介します。そのうえで、仕掛在庫の管理が難しい理由、システムの在庫と実際の数が合わない原因、払出をすぐに登録できない現場の事情をひもときます。最後に、ふだんの払出のしかたを少し変えて、棚卸を楽にするポイントをまとめました。

💡この記事でわかること
• 棚卸差異とは:
システム(帳簿)の在庫数と、実地棚卸で数えた実際の数との差
• 製造業の在庫の種類:
製品、半製品、仕掛品、主要原材料、補助原材料など。自社のものではない預かり品や、社外にある自社の品も数え間違えやすい
• 棚卸前に決めること:入出庫を止める時刻、検収待ち・不良品・保留品の扱い、外注先にある品の確認、担当の割り振り
• 仕掛在庫が難しい理由:
形・場所・数える単位が工程ごとに変わり、どこまで進んだかも見えにくい
• 差異の原因:
実際の数が少ない時と多い時で、疑うべき記録が違う
• 棚卸を楽にする払出のポイント:
払出の単位とタイミングを決め、置き場と品番を1対1にし、少しずつ数える

1.製造業の在庫は何種類?
棚卸の対象を正しく分ける

棚卸差異を減らす第一歩は、「何を数えるのか」をそろえることです。同じ材料でも、自社のものか、取引先から預かっているものかで扱いが変わります。あなたの職場では、在庫の種類ごとに置き場や呼び方を分けているでしょうか。

実地棚卸と棚卸差異とは?

実地棚卸とは、倉庫や工場にある在庫を実際に数えて、数量を確かめる作業です。棚卸差異とは、システム(帳簿)上の在庫数と、実地棚卸で数えた実際の数との差のことです。
実際の数が少なければ、どこかで記録されていない払出やロスがあったことになります。多ければ、払出の記録が重なっていたり、入ってきた品物の登録が漏れていたりする可能性があります。

製造業の在庫の種類

税務署に届け出る「棚卸資産の評価方法の届出書」では、在庫を次の区分で扱います。現場での呼び方と対応させると、次のようになります。

正式な区分
現場での呼び方 主な例 棚卸での注意
商品又は製品 製品在庫、完成品 出荷を待つ完成品、仕入れてそのまま売る品 出荷済みで客先の都合で預かっている品と混ぜない
半製品 中間品、半製品在庫 それ自体でも売れる加工済みの部品やユニット 仕掛品と取り違えやすい
仕掛品 仕掛在庫、ワーク 加工途中の部品、組立途中の装置 形や場所が変わり、数えにくい(第3章)
主要原材料 材料在庫 鋼材、樹脂材料、購入部品 切り残しの端材・残材の扱いを決めておく
補助原材料
その他の棚卸資産
副資材、消耗品 ネジ、塗料、溶接棒、切削油 置き場が散らばり、数え漏れが起きやすい

出典:国税庁「棚卸資産の評価方法の届出書」

なお、消耗品などを在庫として数えるか、買った時に費用として処理するかは、会社の会計処理によって違います。迷う場合は、経理担当や顧問税理士に確認してください。
材料から製品へ、モノが変わっていく順に並べると次のイメージです。

材料
主要原材料
現場では:材料在庫
主な例 鋼材、樹脂材料、購入部品
棚卸での注意:切り残しの端材・残材の扱いを決めておく
+
材料はどちらも、加工の前の段階
材料
補助原材料その他の棚卸資産
現場では:副資材、消耗品
主な例 ネジ、塗料、溶接棒、切削油
棚卸での注意:置き場が散らばり、数え漏れが起きやすい
▼
加工が始まる
作りかけ
仕掛品
現場では:仕掛在庫、ワーク
主な例 加工途中の部品、組立途中の装置
棚卸での注意:形や場所が変わり、数えにくい(第3章)
▼
一定の加工を終え、それ自体で売れる状態になる(半製品を経ない品物もある)
売れる中間品
半製品
現場では:中間品、半製品在庫
主な例 それ自体でも売れる加工済みの部品やユニット
棚卸での注意:仕掛品と取り違えやすい
▼
完成する
完成品
商品又は製品
現場では:製品在庫、完成品
主な例 出荷を待つ完成品。仕入れてそのまま売る品(商品)は、加工を経ずにこの区分に入る
棚卸での注意:出荷済みで客先の都合で預かっている品と混ぜない

半製品と仕掛品はどう違う?

どちらも「作りかけ」に見えますが、分かれ目は「それ自体で売れる状態かどうか」です。

📦半製品:一定の加工を終えて保管されていて、そのままでも売れる状態のもの
📦仕掛品:加工の途中で、そのままでは売れない状態のもの

たとえば、自社製品にも使い、単品の補修部品としても売っているユニットは、半製品として扱うことがあります。区分の判断に迷う品物は、棚卸の前に経理担当と一覧にしておくと安心です。

数え間違えやすい「自社のものではない在庫」と「社外にある自社の在庫」

棚卸の現場で特に迷いやすいのが、次のような品物です。

種類 例 棚卸での扱いの考え方
無償で預かっている支給品 取引先から加工のために預かった材料 自社の在庫とは分けて数え、必要に応じて取引先に報告する
有償で支給された材料 取引先から買い取った支給材 契約の内容によって考え方が変わるため、経理担当と確認する
外注先にある自社の品 めっきや熱処理に出している仕掛品 工場にはないが自社の在庫。外注先に数量を確認する
検収待ちの品 届いたが、検査や検収が終わっていない品 自社の在庫に含めるかを、社内のルールで決めておく
客先の都合で預かっている製品 出荷済み扱いで、客先の指示で保管している品 売上を計上済みかどうかで扱いが変わるため、経理担当と確認する

支給品の区分は支給品の管理方法のコラム、外注先にある品の確認は外注加工の管理方法のコラム、検収待ちの扱いは検収のコラムで詳しく解説しています。

個別受注の工場で気をつけたい「引当済みの在庫」

個別受注生産の工場では、材料や購入部品を、特定の注文(製番)に引き当てて確保していることがあります。同じ品番の材料でも、「A社向け製番の材料」と「どの注文にも使える材料」が同じ棚に並ぶと、数は合っていても、どの製番の分が足りないのかが分からなくなります。
棚卸では、引当済みの在庫を製番ごとに分けて数えるか、少なくとも札で見分けられるようにしておきましょう。

2.棚卸の前に、社内で何を決めておく?

棚卸の当日に慌てないためには、準備の段階で決めておくことがあります。「いつで止めるか」「迷う品物をどう扱うか」が決まっていないまま数え始めると、数えた後で確かめ直す手間が増えます。ここでは、棚卸の前に社内で決めておきたいことを、時期ごとに整理します。

棚卸の準備チェックリスト
棚卸の日が近づくほど、見出しの色が濃くなります
2〜3週間前
☐ 棚卸の日時・範囲・数える単位(個・本・kg・m)を決め、全部署に知らせる
担当:生産管理・経理
☐ 棚卸の当日に生産を止めるか、動かす工程をどう扱うかを決める
担当:工場長・生産管理
☐ 外注先や支給元預かりの、棚卸日時点の数量の確認を依頼する
担当:購買(外注担当)
1週間前
☐ 机の上や引き出しにたまっている払出・入庫・不良の伝票を、すべて登録しきる
担当:全部署
☐ ★ 検収待ち・不良品・保留品・返品待ちの置き場と、数えるかどうかの扱いを決める
担当:品質保証・購買
前日まで
☐ 置き場を整理し、棚札と品番の表示を確かめる。端材の量り方を決める
担当:資材・現場
☐ 数える範囲の地図を作り、2人1組(数える人と記録する人)で担当を割り振る
担当:生産管理
☐ ★ 棚卸表に実際の数を書く欄を空けておき、数えた後でシステムの数(理論在庫)と比べられるようにする
担当:生産管理
当日の朝
☐ ★ 入出庫・払出を止める時刻(締めの時刻)を過ぎたことを確かめる
担当:全部署
当日
☐ 数える区画を工場の地図で割り振るなど、役割分担を明確にし、数え漏れと二重に数えるのを防ぐ
担当:担当者
終了後
☐ 差異の大きい品目だけ数え直し、原因を調べる(第4章)
担当:資材・生産管理
★ は、次の「特に大切な3つの決めごと」で詳しく解説している作業です。印刷して、担当ごとに☐へ印を付けながら進めてください。

特に大切な3つの決めごと

①締めの時刻と、締めた後の払出の扱い

「何時以降の入出庫は棚卸の後に登録する」と決めて、全部署に知らせます。締めた後にどうしても急ぎの払出が出たら、専用の伝票に書いて、棚卸が終わってから登録します。締めがあいまいなままだと、数えた数とシステムの数のどちらに含まれているのかが分からなくなります。

②迷う品物の置き場と扱い

検収待ちの品、不良品、取引先から預かっている品は、棚卸の前に置き場を分け、数えるかどうかを決めておきます。当日に「これはどうする?」と相談が始まると、そこで作業が止まります。

③棚卸表の書き方と数える単位をそろえる

同じ品物でも、ある人は「本」、別の人は「kg」で書いていると、後で集計できません。棚卸表には品目ごとに数える単位を印字し、仕掛品には「どの工程まで済んだか」を書く欄を設けます。端材を長さで書くのか重さで書くのかも、あらかじめ決めておきましょう。

棚卸表には、システムの数(理論在庫)の欄と、実際に数えた数を書く欄を並べておきます。実際の数の欄は空けておき、数えた後でシステムの数と比べられるようにしましょう。システムの数が印字されていると品番を探す手間が減る一方、数字を見比べるだけで済ませないよう、実物を数えてから記入することが大切です。差異が出た品目だけを別の人がもう一度数える形にすると、確認の手間と正確さの釣り合いが取りやすくなります。

個別受注・多品種少量の工場で加えたい準備

個別受注や多品種少量の工場は、量産の工場に比べて数える品目が多く、同じ品番でも製番ごとに分けて数える必要があります。仕掛品の形や大きさもさまざまで、当日になって「これは何の部品?」と迷う場面が増えがちです。準備表の作業に加えて、次の4つを進めておくと、当日の迷いを減らせます。

📦仕掛品に現品票を添える

どの注文(製番)の、どの工程まで進んだ品物かが、現品票を見れば分かるようにしておく

📦品目数が多い棚は、事前に品番の一覧を作る

数える品目が多いほど、当日に品番を探す時間が長くなる

📦小物部品は重さで数える準備をする

ネジやワッシャーなど数の多い小物は、1個あたりの重さを事前に量っておき、はかりで量った重さから数量に換算する

📦長い期間動いていない在庫を洗い出す

棚卸は、使う予定のない材料や仕掛品を見直す機会にもなる

3.仕掛在庫の管理は、なぜ難しい?

材料や製品は、棚にあるものを数えれば済みます。ところが仕掛在庫は、数えている間にも「これは何として数えるのか」で迷います。仕掛在庫が難しいのは、担当者の力量の問題ではなく、仕掛品そのものが持つ性質によるものです。ここでは、その性質を5つに分けて見ていきます。

例:1本の丸棒が製品になるまで

工程 実物の姿 数える単位 置き場の例
材料 長さ4mの丸棒 本・kg 材料置き場
切断 50mmに切った素材と、切り残しの端材 個・端材はkgか長さ 切断機の横
旋盤加工 外径を削った部品 個 旋盤の横、検査待ちの台
外注(めっき) めっきに出している部品 個 外注先、受け入れ倉庫
組立 他の部品と組み合わせたユニット 台 組立場

1本の材料が、工程を進むたびに形・数える単位・置き場を変えていきます。これが、仕掛在庫を難しくしている正体です。

仕掛在庫を難しくする5つの性質

1
形が変わり、呼び名も変わる
材料の品番で入ってきた物が、切断すると「素材」、加工すると「部品」と呼ばれます。システム上の品番と、現場での呼び名が一致しないと、数えた物をどの品番に書けばいいのか迷います。
2
置き場が次々に動く
機械の横、検査待ちの台、外注先、組立場と、仕掛品は工程に合わせて移動します。棚卸の日にたまたま置かれていた場所で数えるため、「別の場所にもあった」という数え漏れが起きやすくなります。
3
数える単位が途中で変わる
材料は本やkgで管理し、加工後は個で数えます。1本の丸棒から何個取れるかという換算が決まっていないと、材料の払出と加工した個数をつなげて確かめられません。切り残しの端材を材料に戻すのか、捨てるのかも、決めておかないと差異の原因になります。
4
どの工程まで進んだかが見えにくい
見た目が似ている部品でも、穴あけが済んでいるかどうかで、価値も次の作業も変わります。工程の記録が実物の進み具合に追いついていないと、「システムでは旋盤加工中なのに、実物はもう検査待ち」という食い違いが生まれます。
5
不良・手直し・ロットの分割が混ざる
100個で流していたロットのうち3個が手直しに回り、97個だけ先の工程へ進む。こうした分割が記録されていないと、同じロットの部品が2か所に分かれて存在することになります。

対策:姿が変わる工程で、品番を分けて管理する

仕掛在庫を数えやすくするには、切断やめっきなど、物の姿が変わる工程ごとに品番を分けて管理する方法があります。たとえば丸棒の例なら、次のように分けます。

工程 品番の例 実物の姿
材料 M-100 長さ4mの丸棒
切断後 M-100-C 50mmに切った素材
旋盤加工後 P-200-L 外径を削った部品
外注(めっき)後 P-200 めっき済みの完成部品

品番が分かれていれば、棚卸で「これは切断後の素材」「これはめっき後の部品」と迷わず数えられます。工程が進むたびに「前の品番から払い出し、次の品番に入れる」と記録するため、どこで数が減ったかも追いやすくなります。

ただし、すべての工程で品番を分けると、品番が増えすぎて登録の手間も増えます。外注に出して姿が変わる工程や、途中で在庫として置いておく工程など、棚卸で数える場面がある工程に絞って分けるのが現実的です。個別受注の工場では、品番に加えて製番で見分けることも忘れないようにしましょう。

個別受注の工場で特に難しい点

個別受注生産では、1台の装置が何週間、何か月もかけて組み上がっていくことがあります。組立途中の装置には、多くの部品がすでに組み込まれています。

✅組み込んだ部品をどう扱うか:組み込んだ時点で部品の在庫から払い出したことにするのか、完成するまで部品の在庫に残すのか
✅製番ごとに分けて数えられるか:同じ形の仕掛品でも、どの注文のための物かで扱いが変わる

こうした扱いを社内で決めておかないと、部品の在庫と装置の仕掛品の両方に同じ部品を数えてしまう「二重計上」が起こりえます。

4.システム在庫と実際の数は、なぜ合わない?

差異が見つかった時、最初に疑われがちなのは「数え間違い」です。もちろん数え直しは必要ですが、数え直しても合わない時は、ふだんの記録のどこかに原因があります。手がかりになるのが、差異の「向き」です。実際の数が少ないのか、多いのかで、疑うべき記録が変わります。

差異の向きから原因を推理する早見表

🔎CHECK
▼ 実際の数が少ない
理論在庫より、棚にある数が少ない
払出の登録漏れ
材料を使ったのに、システムから引いていない
不良・ロスの未登録
加工不良や試し加工で使った分を記録していない
端材の扱いの食い違い
端材を捨てたのに、システムには材料として残っている
数え漏れ
外注先や機械の横など、別の場所にある分を数えていない
▲ 実際の数が多い
理論在庫より、棚にある数が多い
入庫・受入の登録漏れ
品物は届いているのに、システムに登録していない
余りの戻しの未登録
多めに持ち出した材料を棚に戻したのに、記録していない
払出の先回り登録
予定の数で先に払出を登録したが、実際には使わなかった
払出の二重登録
同じ払出を2回登録し、システムから余分に引いている
◆ どちらにも出る
品目によって、少なくも多くもなる
品番の取り違え
似た品番Aで払い出すべき物を、品番Bで払い出した
数える単位の違い
システムはkg、現場は本で数えている
締めの時刻のずれ
締めの後の入出庫が、先にシステムへ登録されている
似た品番どうしで、ほぼ同じ数の「少ない」と「多い」が並んでいたら、品番の取り違えを疑いましょう。

「ペアの差異」は品番の取り違えを疑う

似た品番のAが10個少なく、Bが10個多い。このように、ほぼ同じ数で逆向きの差異が2つ並んでいたら、品番の取り違えを疑いましょう。払い出す時に、似た品番を選び間違えた可能性があります。

個別受注では「製番どうしの流用」も疑う

個別受注の工場では、急ぎの注文のために、別の製番に引き当てていた材料を使うことがあります。この流用を振替として記録していないと、品番全体の数は合っているのに、製番ごとに見ると「A製番は足りず、B製番は余っている」という差異になります。品番の合計で合っていても、製番ごとの数を確かめましょう。

原因を調べる順番

差異の大きい品目から、次の順番で確かめると効率的です。

▢ 締めの時刻の前後の伝票:締めの後の入出庫が、先に登録されていないか
▢ 似た品番の差異:逆向きの差異がペアで出ていないか。個別受注では、製番どうしの流用の記録漏れもここで確かめる
▢ 別の置き場と外注先:数え漏れがないか、外注先からの回答と合っているか
▢ 不良・端材・余りの戻し:記録されていない動きがないか
▢ 数え直し:ここまで確かめても合わなければ、もう一度数える

調べた結果は、品目ごとに「差異の数・向き・原因」を記録に残しておきます。次の棚卸で同じ品目に差異が出た時、原因を探す時間が短くなります。

5.払出を、なぜリアルタイムで登録できない?

「使ったらすぐ登録」。理屈では分かっていても、現場ではなかなかできません。それは現場のやる気の問題ではなく、登録のしかたが現場の仕事の流れに合っていないからです。まずは、現場でよく聞こえてきそうな声に耳を傾けてみましょう。

【現場の声】

旋盤の作業者

「手が油で汚れているから、端末に触れない。仕事が終わってからまとめて書くことになる」
組立の作業者

「登録用のパソコンは事務所にしかない。部品を1つ取るたびに往復していたら、組立が進まない」
段取りの担当

「次の機械を止めたくないから、段取り中は記録どころじゃない。後で書こうと思って、そのまま忘れる」
切断の作業者

「材料を1本持ってきても、何個取れるかは切ってみないと分からない。端材は何として登録すればいいの?」
多品種少量の現場の班長

「1日に何十種類もの部品を少しずつ使う。一つずつ登録していたら、作業にならない」
夜勤の作業者

「夜は事務の人がいないから、急ぎで出した材料は朝になってから伝えている」

リアルタイムで登録できない6つの理由

理由1 手がふさがっている・汚れている
背景:作業の手を止めないと登録できない
関連する声:旋盤の作業者段取りの担当
→ 解決のヒント(第6章の2)
登録のタイミングを、作業の区切りに合わせる
理由2 登録する場所が遠い
背景:端末が事務所にしかない
関連する声:組立の作業者
→ 解決のヒント(第6章の最後)
現場の近くで、短い手間で登録できるようにする
理由3 使う数が事前に決まらない
背景:切ってみるまで取り数が分からない、端材が出る
関連する声:切断の作業者
→ 解決のヒント(第6章の1)
払出の単位と、端材の扱いを決めておく
理由4 品目が多く、少しずつ使う
背景:多品種少量では、1日の払出の件数が多い
関連する声:多品種少量の現場の班長
→ 解決のヒント(第6章の3)
完成時に部品表からまとめて引く考え方を使う
理由5 品番がすぐに分からない
背景:棚の札と図面の品番が違う、似た品番が並ぶ
関連:第4章の「品番の取り違え」につながる
→ 解決のヒント(第6章の4)
置き場と品番を1対1にする
理由6 登録する人がいない時間がある
背景:夜勤や休日の払出
関連する声:夜勤の作業者
→ 解決のヒント(第6章の5)
紙の持ち出し票を決め、翌朝にまとめて登録する

大切なのは、「すぐ登録しない人」を責めるのではなく、「すぐ登録できない理由」を1つずつ取り除くことです。次の章では、そのための具体策を紹介します。

6.棚卸が楽になる、ふだんの払出のポイント

棚卸を楽にする一番の近道は、棚卸の日の頑張りではなく、ふだんの払出の記録を実物の動きに近づけることです。ここでは、第5章の現場の声に1つずつ答える形で、7つの工夫を紹介します。すべてを一度に始める必要はありません。差異がよく出る品目から試してみてください。

 

Point① 払出の単位と、端材のルールを決める
「材料は1本単位で払い出す」「端材は300mm以上なら棚に戻して登録し、それより短ければ廃棄として登録する」のように、払い出す単位と端材の扱いを決めます。長さの基準は、自社でよく使う加工の取り数に合わせて決めましょう。
答える悩み
何個取れるかは切ってみないと分からない、端材は何として登録すればいいの?
Point② 登録のタイミングを、作業の区切りに合わせる
「使った瞬間」ではなく、「段取りが終わった時」「工程が終わった時」「その日の作業の終わりに日報で」など、作業の区切りで登録するルールにします。大切なのは、いつ登録するかを全員で同じにすることです。
答える悩み
手が油で汚れている、段取り中は記録どころじゃない
Point③ 完成時に、部品表からまとめて払い出す
製品が完成した時点で、部品表(BOM)に登録された部品の数だけ、まとめて在庫から引く考え方です。部品を1つずつ登録する手間がなくなります。
ただし、部品表が実際の使い方と違っていると、その分がそのまま差異になります。追加工や設計変更が多い個別受注の品物は、部品表どおりに使われるとは限りません。リピート品や標準品はまとめて引き、一品物は都度払い出す、といった使い分けがおすすめです。
答える悩み
1日に何十種類もの部品を少しずつ使う
Point④ 置き場と品番を1対1にする
1つの棚の区画には1つの品番だけを置き、棚札には図面と同じ品番を書きます。似た品番は隣どうしに置かず、離して置くと取り違えが減ります。第3章のように工程ごとに品番を分けている場合は、置き場も品番ごとに分けておきましょう。
答える悩み
品番がすぐに分からない(第5章)、品番の取り違え(第4章の「ペアの差異」)
Point⑤ 持ち出し票と戻し票を、棚の横に置く
夜勤や急ぎの持ち出しには、棚の横に置いた紙の票に「品番・数量・製番・名前」を書いてもらい、翌朝にまとめて登録します。多めに持ち出して余った材料を戻す時も、同じように「戻し票」を書きます。
答える悩み
夜は事務の人がいない、余りの戻しの未登録(第4章)
Point⑥ 払出の時に、製番も一緒に記録する
個別受注の工場では、払い出す時に「どの注文(製番)に使ったか」も記録します。棚卸で引当済みの在庫を製番ごとに確かめやすくなるうえ、製番ごとの原価をつかむ材料にもなります。急ぎで別の製番の材料を流用した時は、「どの製番からどの製番へ、いくつ」を振替として記録しておきましょう。
答える悩み
引当済みの在庫が、どの製番の分か分からない(第1章)
Point⑦ 少しずつ数える「循環棚卸」を取り入れる
決算の時にまとめて数えるだけでなく、「毎週月曜に10品目」のように、ふだんから少しずつ数える方法です。差異が小さいうちに見つかるので、原因も記憶に新しいうちに探せます。差異がよく出る品目や、金額の大きい品目から始めましょう。

なお、決算の実地棚卸を循環棚卸で置き換えられるかどうかは、税務の取扱いにかかわります。決算の棚卸の進め方を変える場合は、顧問税理士に確認してください。

【現場近くで登録できる仕組みも検討】
手書きの票や日報でのまとめ登録でも、ルールが決まっていれば差異は減らせます。そのうえで、現場の近くに置いたタブレットやバーコードで払出を登録できるようにしたり、生産管理システムで部品表や製番とつないだりすると、登録の手間はさらに小さくなります。まずはルールを決め、手間が大きい部分から仕組みで補いましょう。

7.まとめ

棚卸差異は、棚卸の日の数え間違いだけでなく、ふだんの払出や移動の記録が実物の動きに追いついていないことからも起きます。

まずは在庫の種類と、預かり品や外注先にある品の扱いをそろえ、締めの時刻や迷う品物の置き場を棚卸の前に決めておきましょう。仕掛在庫は、形・場所・単位が変わる性質を前提に、製番や工程を書いた現品票で見分けられるようにします。差異が出たら、向きから原因を推理し、記録に残します。

そして、払出をすぐに登録できない現場の事情を責めるのではなく、払出の単位・登録のタイミング・置き場のルールで1つずつ取り除いてください。大仕事だった棚卸が、ふだんの記録を確かめるだけの作業へと生まれ変わります。

8.Q&A(現場でよくある疑問)

Q.棚卸差異は、どれくらいなら許されますか?
一律の正解はありません。品目の金額や、差異を調べる手間との釣り合いで、自社で目安を決めるのが現実的です。まずは品目ごとに差異の数と向きを記録し、前回の棚卸と比べて増えていないかを確かめることから始めましょう。
Q.仕掛品は、どこまで細かく数えればいいですか?
どの工程まで進んだかが分かる単位で数えるのが基本です。個別受注の工場では、製番(どの注文の物か)も分けて数えます。金額の評価のしかたは会社の会計処理によって違うため、どの細かさで数えれば足りるかは、経理担当や顧問税理士と事前に決めておきましょう。
Q.端材は在庫として数えるべきですか?
再び材料として使う長さや量のものは、材料として数えるのが一般的な考え方です。ただし、どこからを端材として扱うかは会社ごとに違います。第6章のように「何mm以上は材料に戻す」という基準を決め、払出のルールと棚卸の数え方をそろえてください。
Q.外注先にある自社の品は、どう数えればいいですか?
工場の中にはありませんが、自社の在庫として扱います。棚卸の前に外注先へ、棚卸日時点の数量の確認を依頼し、回答をもとに記録します。外注に出した数と戻ってきた数を、ふだんから台帳でつないでおくと、確認が早くなります。
Q.個別受注で、組立途中の装置はどう数えればいいですか?
製番ごとに、どこまで組み上がっているかを記録して数えます。あわせて、組み込んだ部品を部品の在庫から払い出したことにするのかを社内で決めておきましょう。決めていないと、部品の在庫と装置の仕掛品の両方に同じ部品を数えてしまうおそれがあります。
Q.棚卸差異をなくすには、システムを入れるしかありませんか?
システムがなくても、払出の単位・登録のタイミング・置き場のルールを決めるだけで差異は減らせます。そのうえで、登録の手間が大きい部分を、現場の近くで登録できる仕組みや生産管理システムで補っていくのがおすすめです。

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