「うちの金型、誰が面倒みてる?」〜価格転嫁時代の金型管理の新常識〜

著者:ものづくりコラム運営 「うちの金型、誰が面倒みてる?」〜価格転嫁時代の金型管理の新常識〜
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金型無償保管は見えないコスト。
価格転嫁が求められる今、金型の保管・修理・更新にかかる費用を「当たり前」として抱え込んでいませんか?
中小製造業様が健全な取引を続けるために、金型コストを見える化し、正しく価格に反映する視点を解説します。

1.はじめに:価格転嫁の重要性が高まる今

中小製造業にとって、価格交渉は避けて通れない課題です。
特に、昨今のコスト上昇局面では「いかに適正に価格転嫁できるか」が経営を左右します。そのとき見落としがちな要素の一つが――“金型の取り扱い”です。

見落とされがちな“金型コスト”

原材料費・人件費・エネルギーコストの上昇が続くなか、「適正な価格転嫁」は中小製造業にとって、もはや経営の柱となるテーマです。
経済産業省や公正取引委員会でも、価格転嫁の取引適正化が強く推進されています。これまで「値上げ交渉は難しい」と感じていた企業も、今や生き残りのために取り組まざるを得ない局面にあります。
そんな中、材料費や外注費などの「見えるコスト」に比べ、意外と見逃されやすいのが金型の取り扱いコストです。ここに目を向けることが、真の価格転嫁への第一歩になります。

2.「金型無償保管」という慣行とは?

多くの製造現場では、「金型を預かる」「無償で保管する」ことが慣習となっています。しかし、この“当たり前”の裏には、誰もが意識していないコストやリスクが潜んでいます。

発注側の金型を“無償で保管”するケース

発注側が所有する金型を受注側が預かり、「保管・修理・点検」を無償で行う――これがいわゆる「金型無償保管」です。

長年の取引のなかで生まれた慣行ですが、保管スペース、修理費、点検工数などは明確なコスト。見えない負担として積み上がっていくことも多くあります。

受注側が“自社で金型を製作・保管”するケースも

一方で、受注側が自社で金型を設計・製作し、そのまま社内で保管・使用しているケースも少なくありません。
この場合、所有権は受注側にあるものの、

・設計・製作にかかる初期費用
・保管・修繕・更新にかかるランニングコスト

といった金型関連コストは、やはり自社負担になります。

特に複数顧客向けの金型を抱える場合は、管理コストが利益を圧迫する要因になりかねません。

3.金型コストを価格転嫁に含める視点

価格転嫁を成功させるには、「コストの見える化」が不可欠です。
金型は単なる生産設備ではなく、継続的な保守費用がかかる“資産”でもあります。そのコストを正しく認識し、価格に反映させる仕組みづくりが求められます。

金型のライフサイクルを“見える化”

金型は製品の品質を左右する重要な資産です。
「発注側から預かったもの」でも、「自社製のもの」でも、ライフサイクル(設計 → 使用 → 修繕 → 廃棄)の各段階でコストが発生します。

これらを整理・可視化し、製品単価に適正に反映させることが、正しい意味での価格転嫁につながります。

【コスト項目の洗い出し例】
✅設計・製作費(自社製の場合)
✅保管棚・倉庫スペースの維持費
✅定期点検・修理・防錆対応の工数
✅廃棄・再製作時の処理費

こうした情報を積み上げ、「金型関連コスト表」を作ることで、取引先への説明や見積根拠の提示がしやすくなります。

4.トラブル防止と健全な取引のために

金型をめぐるトラブルの多くは、「契約やルールのあいまいさ」から生じます。お互いの立場を守るためには、所有権や費用負担を明確にし、公的なガイドラインに沿った透明な取引を進めることが重要です。

契約・取り決めを明確に

金型に関するトラブルの多くは、「所有権」や「修理費用の負担範囲」が曖昧なまま進むことが原因です。
契約や注文書の段階で、次の点を明確にしておきましょう。

 🔎所有権の所在(発注者 or 受注者)
 🔎修理・更新時の費用負担ルール
 🔎保管・返却・廃棄のタイミング

これらを取り決めておくことで、後の誤解や不信感を防ぎ、長期的な信頼関係を築けます。

公的ガイドラインの活用

経済産業省の「型取引適正化ガイドライン」では、金型取引の適正化に向けた具体的な指針や事例が紹介されています。
自社内のルール整備にも活用しやすい内容です。

相互理解が取引を強くする

金型管理の見直しは、単にコスト交渉の話ではありません。
「お互いの負担を理解し、適正に分担する」ことで、持続可能な取引関係を実現できます。

5.金型取引に関わる法制度と注意点

金型の無償保管や長期保管をめぐっては、実際に行政指導が行われるケースもあります。取引適正化の流れが強まる中、法制度やガイドラインを理解しておくことが欠かせません。

「下請法」で指摘されるケースも

親事業者が下請事業者に対し、
金型の無償保管や長期保管を強要する行為は、「不当な経済上の利益の提供要請」として、下請代金支払遅延等防止法(通称:下請法)に抵触する可能性があります。

たとえば、発注が途絶えたまま長期間金型を保管させていたケースでは、実際に行政指導が行われた事例もあります。

ガイドラインで明確化された「金型取引の原則」

経済産業省や型取引適正化推進協議会などが公表する「型取引適正化ガイドライン」や「金型取引ガイドライン」では、以下の点が推奨されています。

・保管・修理・更新などの負担区分を明確に契約書で定義する
・廃棄や返却のルールをあらかじめ定める
・保管費用や管理コストを取引条件に反映する
・長期間使用しない金型は、発注側が責任をもって引き取る

これらを踏まえることで、慣行的な「無償保管」から、法的にも健全な取引へと転換できます。

知財・所有権の観点も要注意

金型の設計図や構造には知的財産権が絡むケースもあります。
自社設計金型を他社向けに使用する際や、転用・再利用を行う際には、契約上の権利関係を確認しておくことが重要です。
 

まとめ:持続可能な取引関係のために

金型は製造業にとって単なる“道具”ではなく、技術と信頼の象徴です。
適正な管理とコストの見える化が、価格転嫁時代の新たな競争力を生み出します。
 
【金型コストを「経営の見える化」へ】
金型は、製品品質と顧客信頼を支える“製造業の財産”です。
発注側・受注側のいずれが所有していても、その管理と維持には明確なコストが伴います。
 
【誠実な話し合いが未来をつくる】
価格転嫁の議論において、「金型コスト」を適正に扱うことは、単なる値上げ交渉ではなく、お互いの成長を支える対話です。
 
法制度を理解し、ルールを整備し、相互に納得できる仕組みを築くことが、中小製造業の持続可能な経営を支える第一歩となるでしょう。

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