生産性のジレンマとは? 日本の中小製造業で起きる“効率化の落とし穴”

著者:ものづくりコラム運営 生産性のジレンマとは? 日本の中小製造業で起きる“効率化の落とし穴”
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効率化しているはずなのに、なぜ現場は楽にならないのか

中小製造業の現場では、「効率化に取り組んでいるのに、忙しさが全く減らない」という声をよく耳にします。作業手順を見直したり、段取り替え時間を短縮したり、紙で管理していたものをデジタル化したり——。確かに、改善そのものは前に進んでいるはずなのに、現場の負担はなぜか軽くならず、逆に疲れが増してしまうこともあります。

このような“努力が成果につながらない感覚”は、多くの中小製造業で見られます。その背景にあるのが、今回のテーマである 「生産性のジレンマ」 です。

1.生産性のジレンマとは?

「生産性のジレンマ」とは、効率化をすればするほど、逆に負担が増えてしまうという矛盾した状態 のことです。本来、生産性向上は「働きやすくするため」「ムダをなくすため」に行われるはずです。
しかし現実には、

❓改善しても作業量が減らない
❓効率化しても次の改善を求められる
❓業務が楽になるどころか、作業者の負担が増え、現場が疲弊する

これは「生産性=効率化」と単純に考えてしまうことが原因のひとつです。本来の生産性は、“価値を生み出す力”であり、単に作業スピードを上げることだけを指しているわけではありません。
この現象を理解するには、ジレンマに陥る過程を 「流動期・移行期・固定期」 という3段階で捉えるとわかりやすくなります。

📖【生産性のジレンマに陥る過程】
流動期: 改善の成果が出やすく、現場が柔軟
移行期: 改善の効果が頭打ちになり、負担が見え始める
固定期: 改善しても現場が疲弊し、ジレンマが固定化

2.なぜ中小製造業でジレンマが起きやすいのか
(効率化の落とし穴)

「生産性のジレンマ」が起きやすい理由は、単なる“効率化不足”ではなく、会社の体制や文化、仕事の進め方に関わる“構造”にあります。
ここでは、現場でよく見られる「効率化の落とし穴」を見ていきます。

落とし穴①:効率化の成果が“人手不足の穴埋め”に使われてしまう

作業が速くなった分、本来は余裕が生まれるはずです。
ところが実際には、「じゃあこの仕事もお願い」と担当業務が増えてしまうケースがあります。

特に人手不足の製造現場では、効率化した人に追加業務が集まりがちです。結果として負担は増え、改善の成果が埋もれてしまいます。

落とし穴②:改善のハードルがどんどん上がる

改善を重ねると、周囲からの期待値も上昇します。
「前は10分短縮したから、今回は15分できるよね?」
といった具合に、改善そのものが“当たり前”になり、終わりが見えなくなることがあります。

改善が成果ではなく「ノルマ」に変わった瞬間、現場は疲弊してしまいます。

落とし穴③:経営と現場で“生産性”の意味がズレている

経営層にとって生産性は「利益率」「稼働率」「納期厳守」といった数字で語られがちです。一方、現場は「品質」「安全」「手順の安定」「ミスなく作ること」を優先します。

どちらも正しいのですが、この“優先順位のズレ”がジレンマを引き起こします。数字だけを追ってしまうと、現場に無理がかかり、結果的に品質問題や負担増につながります。

落とし穴④:属人化と紙文化が改善を阻む

誰か一人が詳しい、紙にしか情報がない——。
こうした状況では、改善しても改善の内容が共有されず、結局また同じ問題が発生します。仕組みとして改善が根づかないため、生産性が安定して上がらないのです。

3.生産性のジレンマを乗り越えるための4つの視点

生産性のジレンマは、単に「もっと効率化しよう」という発想だけでは解決できません。必要なのは、働き方や仕組みそのものを捉え直すことです。以下では、中小製造業が実践しやすい4つの視点を紹介します。

視点①:「効率」ではなく「価値」を中心に考える

改善するとき、「何のために改善するのか?」を明確にすることが重要です。

✅作業者の負担を減らすため
✅顧客に提供する価値を高めるため
✅品質と安全を守るため

このように“価値”を中心に考えると、数字に追われる改善ではなく、現場の働きやすさを保ちながら成果を上げる改善につながります。

視点②:「個人の頑張り」ではなく「仕組み」で改善する

現場ではしばしば、「あの人が頑張ってくれたおかげでうまくいった」という場面があります。しかし、これは持続可能な改善とは言えません。

🔎作業標準書の整備
🔎情報やデータの共有
🔎属人化の解消
🔎誰が作業しても一定の品質が出る体制

こうした仕組みづくりこそが、生産性のジレンマを脱する鍵になります。「仕組み」を作ることで、持続可能な改善サイクルを回す基盤となります。

視点③:短期での成果より、“改善が続く状態”をつくる

短期間で大きな改善を求めると、現場に負担が集中しがちです。大切なのは、“改善が自然に続く環境”をつくることです。

📌失敗しても学びにできる風土
📌現場の声が経営に届く仕組み
📌小さな改善を積み上げられる土壌

この積み重ねが、疲弊しない生産性向上を生み出します。

視点④:現状に満足せず、常に挑戦する(価値獲得のマインド)

生産性のジレンマを乗り越えるために「既存の価値観に捉われず、視野を広げ、新しい視点を持つ」ということも大切なポイントです。

💡積極的なチャレンジとフィードバック
💡既存の顧客だけでなく、大小関係なく新しい市場に目を向けてみる
💡他企業との差別化を図る

過去のデータをもとにした効率化にとどまるのではなく、売上や利益につながるように、外に目を向けてみましょう。

4.現場で起こりがちな改善イメージと取り組みのヒント

ここでは、中小製造業の現場で起こりがちな改善の例を紹介します。

例①:段取り時間の短縮が「作業増加」につながったケース
段取り替え時間を短縮した結果、ライン全体の稼働率が上がるケースがあります。しかし同時に、別のラインの応援業務や雑務が増え、担当者の負担が逆に増えてしまう場合があるため、全体的に視野を広げたカイゼンが必要です。

💡ポイント
改善の目的を「作業者が安心して働ける環境づくり」に置き、改善によって生まれた余剰を“負担軽減”に振り分ける視点が重要です。
例②:紙の管理をデジタル化したのに、現場が混乱したケース
紙の帳票をデジタルに置き換えたものの、情報の更新ルールが定まっておらず、かえって情報が分散してしまうことがあります。

💡ポイント
デジタル化より先に、“情報の流れ”を整理することで、改善が安定します。
例③:ベテラン依存の作業を若手に引き継げないケース
作業は効率的なのに、その理由が見える化されておらず、若手への育成が進まないことがあります。

💡ポイント
ベテランの知識を形式知に変え、「仕組み」として共有することが改善の一歩になります。

5.生産性の向上は“人が働きやすくなる仕組みづくり”から

生産性向上は、本来「現場の負担を軽くし、より良い仕事につなげるもの」です。しかし、目的や取り組み方を誤ると、効率化が負担増につながり、生産性のジレンマに陥ってしまいます。

ジレンマを避けるためには、
価値を中心に据え、仕組みで支え、改善が自然に続く環境をつくること
これが、中小製造業がこれからも持続的に成長していくための大切な視点です。

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