働き方改革の弊害と生産性向上の鍵《先義後利》
著者:荒井 哲(あらい さとし)中小企業診断士、ITコーディネータ
大阪大学工学部機械工学科卒業
テクノアには営業職として入社。
営業活動では、年間約200社の製造業を訪問して現場を多数経験。
現在は、中小製造業にIT経営コンサルティングをご提供する「IT経営事業部」に所属。
財務分析、生産管理システム導入前分析、課題解決提案を専門領域とします。
働き方改革は、社会全体の働き方を見直し、労働環境の改善を図る取り組みとして、多くの企業にとって重要なテーマとなっています。しかし、この改革が必ずしもすべての企業に有効な結果をもたらしているわけではありません。先日、ある中小企業の経営者とお話をした際、その方の生の声からもその課題が浮き彫りになりました。
この経営者は、働き方改革に積極的に取り組み、自社が健康優良法人として認定されるまでに至りました。従業員の労働時間の短縮や、福利厚生の充実に力を入れ、働きやすい環境を整えることを重視しました。しかし、その努力がかえって生産性の低下を招く結果となりました。理由は単純ではありませんが、大きな要因は「報酬と実績の結びつき」が見落とされていたことにあると考えられます。
この経営者は、従業員の幸福度向上を追求するあまり、生産性や業績への具体的な反映を疎かにしてしまったのです。結果として、従業員の待遇は向上したものの、企業としての目指すべき生産力には届かず、また、労働時間の短縮によって時間内に業務を終えるための効率化が進まなかったため、業務の質や量に影響が出てしまったのです。
そこで、この経営者は改めて「成果に応じた報酬」の重要性に気付きました。つまり、従業員に対するインセンティブが、実際の成果とどれだけリンクしているかを見直す必要があったのです。この見直しは単なる賃金体系の改革ではなく、従業員が自身の活動がどのように会社の成果に寄与しているかを理解し、意識改革を促すことを含んでいます。
そこで今回、私たちは一緒に生産管理システムを活用して、具体的な改善策の立案に取り組むことにしました。生産管理システムには貴重なデータがたまっていますが、これを単なる記録として放置するのではなく、データ分析を通じて経営判断に活用し、会社全体の原価管理を強化する方針です。
さらに、従業員に対しては、会社の財務状況や経営目標についての理解を深めてもらうため、会計知識の向上を図ることも計画しています。経営情報を従業員と共有することで、各自が自身の業務がどのように会社の経営に貢献できているのかを理解できるようにします。これにより、各人がより責任感を持ち、自発的に業務改善に取り組む動機付けが生まれます。
最終的には、経営目標を全社で共有し、個々の業務がどのように目標達成に貢献するかを明確化することで、会社全体が「One Team」として機能することを目指しています。このアプローチは、単に生産性を向上させるだけではなく、働くことの意義ややりがいを改めて見つめ直す機会ともなり、結果として全体のモチベーションアップに繋がると期待しています。
働き方改革の中で、個々の従業員の待遇改善と組織全体の生産性向上をどのように両立させていくか。それは一筋縄ではいかない複雑な問題です。しかし、現場でのデータを活用し、具体的な経営施策として落とし込むことで、この問題に対する一つの解決策が見えてくるのではないでしょうか。今後も、現場での試行錯誤を重ねながら、より良い働く環境と企業業績の両立を実現していきたいと考えています。
弊社でも、財務分析とIT利活用をご提案することで、会社組織を強くするコンサルティングを行っております。
ご興味がある方は是非、無料診断サービスをご利用ください。