トヨタの生産方式TPSとは?概要や手法、導入するメリット・デメリット
著者:ものづくりコラム運営ものづくりコラム運営チームです。
私たちは、ものづくりに関する情報をわかりやすく解説しています!
生産現場での課題解決や業務効率化のヒント、生産性向上にお役立ていただけることを目指し、情報発信していきます!
トヨ生産現場においてコスト削減や品質向上、納期の厳守は非常に重要な課題です。多くの企業がこれらの課題に取り組むなか、「無駄を徹底的に省き、必要なものを必要なときに必要な分だけつくる」という実践を進めてきたのがトヨタ自動車です。トヨタでは長年にわたり、品質や効率の向上に関して独自の理論や手法を確立し、“トヨタ生産方式(TPS)”として世界に広めてきました。本記事では、「TPSとは トヨタ」というキーワードでよく話題になるトヨタ生産方式の概要から、その2本の柱、具体的な手法、導入によるメリット・デメリット、さらに導入のポイントとなる考え方について解説します。
1.トヨタ生産方式(TPS)の概要
トヨタ生産方式(TPS)は、効率よく品質の高い商品をつくるために開発された生産方式です。ここではまず、TPSがそもそもどのような理念に基づき、どんな特長をもつのかについて理解しやすくまとめていきます。TPSの基本を知ることで、自社の生産現場だけでなく、事務や経営管理など多方面にわたって活用できる可能性が見えてくるはずです。
TPSとは何か
トヨタ生産方式(TPS)は「ムダを徹底的になくして、よいものを安く、タイムリーにお客様にお届けする」というトヨタの経営哲学のことです。TPSとは「TOYOTA Production System」の略語であり、当初は自動車の生産ラインのために確立されましたが、後に非生産現場も対象となりました。
非生産現場とは、人事や経理、広報、部品調達、ソフトウェア開発などの部門を指します。このように、TPSは製造現場だけでなく、企業全体の効率化と品質向上を目指す包括的なシステムとして発展しています。
TPSの2本の柱とは
TPSには「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」という2本の柱があります。
- 〇自働化
- 「自動化」ではなく、あえて“ニンベン”をつけた「自働化」と呼ぶことがTPSの大きな特長のひとつです。これは「設備に人の知恵をつけて、不良品をつくらないようにする」という考えに基づきます。たとえば、機械が自ら異常を検知し、自動で稼働を停止する仕組みを取り入れることで、不良品の流出を未然に防げるうえ、人による常時監視が必要なくなるため省人化につながります。
一方で、機械が自動停止した際は、なぜ停止したのか原因を解明する作業が欠かせません。問題の本質を追求し、再発を防止することで、さらに質の高い生産体制を築けるわけです。このように「自働化」は、設備に任せられることは任せ、人は付加価値の高い業務に注力できるようにする取り組みといえます。 - 〇ジャスト・イン・タイム
- もう一方の柱「ジャスト・イン・タイム(JIT)」は「必要なものを、必要なときに、必要な分だけつくる」ことを意味します。顧客が望む自動車を高品質・低コストでタイムリーに仕上げるという考え方から生まれました。必要以上に生産しすぎて在庫を抱えることを防ぎ、適正な数量を適切なタイミングで供給するため、在庫コストの削減やスペースの有効活用が可能になります。
TPSの原点とは
TPSの礎となる考え方には、「誰かのために」という想いが深く息づいています。これはトヨタグループの創始者である豊田佐吉 氏によるエピソードから見えてきます。豊田佐吉 氏は、夜遅くまで機織りをする母親を少しでも楽にしたいという思いから、自動織機を考案しました。この「誰かを助けたい」「誰かの仕事を楽にしたい」という想いこそがTPSの根底にあります。
トヨタ自動車の社長を務めた豊田章男 氏は「TPSの原点は誰かの仕事を楽にすること」と語っています。自働化の根本的な目的が、かつて人が機械に付きっきりで監視しなければならなかった「機械の番人」の状況を何とか改善したい、という豊田佐吉 氏の発想に由来しているのはその典型例です。つまりTPSは、人が本来やるべき付加価値の高い作業に集中できるよう“仕組み”を整え、人と機械の力を最大化させる哲学ともいえるでしょう。
2.TPSを実現するための4つの手法
TPSを導入・運用するときには、いくつかの主要な手法を理解しておくことが近道となります。ここでは、TPSの中核を成す4つの手法について、それぞれ簡潔に解説します。
TPSの手法
TPSを具体的に運用するために大切なのが「カイゼン」「問題の見える化」「なぜなぜ分析」「7つのムダの排除」の4つです。これらはトヨタの生産現場で培われた実践的な考え方であり、どの企業でも応用が可能です。
- 〇カイゼン
- ▼カイゼン
カイゼンとは、現状の作業体制に満足することなく、常に作業効率や安全性を見直して改良していく活動です。トヨタ自動車の豊田章男氏は“Continuous Improvement(改善に終わりはない)”という言葉で、この継続的な取り組みを強調しています。
カタカナで「カイゼン」と表記されるのは、あえて漢字の「改善」と区別するためです。単に「良くする」だけでなく、現場の従業員が主体的に意見を出し合い、協力しながら改良を進めていくボトムアップ型の改善活動という意味が込められています。小さな気づきを積み重ね、実行・検証するプロセスを繰り返すことで、生産性の向上や安全対策が加速していくのです。 - 〇問題の見える化
- トラブルや問題を「見える化」し、全体に共有する取り組みもTPSの大きな特長です。ここでいうトラブルや問題とは、たとえば機械が異常を起こしたり、品質が基準に満たなかったり、作業が遅れていたりなど、日々の業務で起こるさまざまな「異常」を指します。
トヨタの生産ラインでは、機械が異常を検知したときや、作業者自身が異常と判断したときにラインを止める仕組みがあります。停止すると、電光掲示板(アンドン)が点灯して関係者に通知されるため、問題の発生個所や状況が即座に周囲に共有されます。これによって不良品が生産され続けるリスクを抑えられ、同時に問題の原因も見つけやすくなるのです。
一見するとラインを止めることは非効率に思えますが、長期的には不良流出の防止や迅速な原因追及、再発防止策の導入などで品質と効率の向上につながります。 - 〇なぜなぜ分析
- 問題が発生した際、原因を深掘りするために「なぜ」を繰り返し問う手法が「なぜなぜ分析」です。1回だけ「なぜ」を問うのではなく、少なくとも5回は繰り返すことで、表面化している症状だけでなく真の原因(ルートコーズ)を特定しやすくなります。
たとえば「なぜ不良品が出たのか?」から始まり、さらに「なぜそれが起こったのか?」、「なぜその対策を事前に取れなかったのか?」と探っていきます。こうすることで、単純なミスの再発防止にとどまらず、組織やプロセス全体で改善すべき根本的な課題を洗い出せます。TPSにおいては、問題を表面的に処理するのではなく、恒久的な解決策を導くことが重視されます。 - 〇7つのムダの排除
- TPSを支えるもうひとつの主要な考え方が、あらゆるムダを排除することです。具体的には「在庫のムダ」「動作のムダ」「不良のムダ」などが代表的ですが、トヨタではこれらを整理して「7つのムダ」と呼び、徹底的に洗い出しています。
とりわけ、物の流れと情報の流れを同時に可視化する「物と情報の流れ図」を活用することで、業務フロー全体を俯瞰し、「本当にこれはやらなければならない仕事なのか?」と問い直す機会をつくります。TPSには「できるだけ多くの従業員に意味のある作業をしてもらいたい」という想いが込められており、不要な作業を減らすことで、本当に優先すべき業務に力を注げるよう取り組むことが必要です。
3.TPS導入のメリット・デメリット
TPSを導入することで、トヨタが世界的な企業へと成長してきた生産ノウハウを自社に取り込むことができます。一方で、導入にあたっては自社の生産形態や物流体制との相性も考慮すべきです。ここでは、TPS導入により得られる代表的なメリットとデメリットを紹介します。
メリット
最大のメリットは、トヨタを成長へ導いた「無駄の排除」による効果を自社にも取り入れられることです。たとえば、在庫を適正化してコストを削減できると同時に、品質向上や作業スピードの改善にもつながり、結果的に経営全体にプラスの影響が及びます。また、TPSが企業にもたらすのは経費削減や効率性の追求だけではありません。
TPSの根底には「幸せの量産」という考え方があります。豊田佐吉・豊田喜一郎の時代から続く「社会や国を豊かにすることに貢献したい」という想いが、トヨタという企業文化のDNAとして継承されているのです。これを学び、自社の企業文化として根付かせることで、従業員や顧客、さらには地域社会にも良い影響を広げるチャンスとなります。
デメリット
一方で、TPSは「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ」生産するという概念が強調されるため、余裕をもった在庫を基本とする生産方式よりも物流の影響を受けやすい側面があります。たとえば部品の入荷が予期せぬトラブルで遅れた場合、その時点で生産ラインに大きな支障が出てしまう恐れがあります。
このリスクを回避するには、部品供給業者や物流パートナーとの連携強化、データのリアルタイム管理、トラブル時の対応策など、状況変化に素早く対応できる仕組みを構築することが欠かせません。
4.本質と現代的意義
TPS(トヨタ生産方式)は、単なる生産効率の向上手法にとどまらず、人を大切にし、社会へ貢献しようとする理念が大きく反映されたシステムです。「ムダを徹底的に取り除く」「必要なタイミングで必要な量を生産する」といった具体的な実践が注目されがちですが、その背景には「誰かの仕事を楽にし、より良い社会をつくりたい」という創始者の想いが流れています。
実際にTPSを導入する現場では、カイゼン、問題の見える化、なぜなぜ分析、7つのムダの排除といった手法が組み合わされ、質の高い製品やサービスを生み出す土台が築かれてきました。これらの手法を正しく理解し、現状に合わせて柔軟にカスタマイズしていくことで、業務効率化やコスト削減、自社スタッフのモチベーション向上といった成果を期待できます。
ただし、ジャスト・イン・タイムは物流面での制約を受けやすいことから、外部環境やサプライチェーン全体を見ながら最適化を行う姿勢が求められます。トヨタが長年にわたり積み重ねてきた知見を自社に取り込むことで、ものづくりはもちろん、事務作業やサービス分野においても大きな飛躍が可能となるでしょう。
TPSの真髄ともいえる「人を中心に置いた効率化」の考え方を活かすことで、企業の成長はもちろんのこと、従業員が働きやすい環境と社会貢献が両立する未来が見えてくるはずです。