製造業の検査の基本「官能検査」とは?評価基準を安定させる4つの対策を解説!
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官能検査とは、人間の五感を使った検査方法の一つです。製造業でも、品質検査において鍍金の色艶や外観を視覚や触覚を用いてチェックします。重要な検査方法でもある一方で、検査担当者の経験や感覚に左右されてしまうため、評価基準を明確にする必要性もあります。本コラムでは、官能検査の種類や基礎知識を解説するとともに、品質向上のためのポイントを解説します。
1.官能検査とは?
官能検査とは、人間の感覚器官を用いて製品の品質や特性を評価する方法です。具体的には、視覚(見る)、聴覚(聞く)、触覚(触る)、嗅覚(嗅ぐ)、味覚(味わう)といった五感を活用して、製品の様々な側面を検査します。特に、機械設備では判断しづらい、人の感覚で判断するため、顧客目線といった主観的評価を行う際に有効です。
特に製造現場では、目視検査が代表的な官能検査として広く採用されています。これは、機械では判断が難しい人間の目で製品の外観や仕上がりを確認する方法で、
官能検査が品質管理において特に有効なケースがいくつかあります。例えば、製品の品質を数値化することが難しい場合や、高額な検査機器の導入が困難な場合、あるいは機械による測定に時間がかかりすぎる場合などです。こういった状況下では、人間の感覚を活用した官能検査が効果的な解決策となり得ます。
2.官能検査の種類
官能検査は人間の五感それぞれを活用して行われます。各感覚を用いた検査方法について、詳しく見ていきましょう。
視覚:(例)色合い、光沢、模様、表面の傷
視覚を用いた官能検査は、製品の外観に関する様々な要素を評価します。色合い、光沢、模様、表面の傷、透過度などが主な評価対象となります。検査員は製品の色、形状、サイズ、表面の仕上げなどを目で確認し、外観から判別できる欠陥や不具合を検出します。
例えば、電子機器製造における電子基板の検査では、部品の搭載状態や半田付けの品質を目視で確認します。また、自動車産業では車体の塗装の均一性や光沢を視覚的に評価することがあります。
聴覚:(例)異音、部品の緩みなど
聴覚を用いた官能検査では、主に製品から発せられる音や振動を評価します。音響機器の音質評価はもちろん、機械部品の緩みや異音の検出にも使用されます。
例えば、自動車のエンジン音や、家電製品の動作音を聴覚で確認し、異常な音や振動がないかをチェックします。また、楽器製造業では、製品の音色や音量を専門家の耳で厳密に評価します。
触覚:(例)硬さ、表面の滑らかさなど
触覚を用いた官能検査では、製品の触り心地、使い心地、肌触り、硬さ、弾力などを評価します。布製品の滑らかさや、機械部品の継ぎ目の滑らかさなどを、人間の指先や手のひらで確認します。
例えば、自動車産業ではダッシュボードやシートの質感を触覚で評価したり、電子機器産業ではボタンやスイッチの操作感を確認したりします。また、繊維産業では布地の肌触りや風合いを専門家が触って評価します。
嗅覚:(例)プラスチック成形品の異臭検査、塗装の臭気など
嗅覚を用いた官能検査は、製品の香りや異臭の有無を評価します。材料の劣化や不適切な調合によって生じる異臭を検出するのに役立ちます。
製造業においては、プラスチック成形品の異臭検査や、塗装の臭気確認などで用いられることがありますが、他の感覚を用いた検査に比べるとその使用頻度は低めです。しかし、香水や化粧品産業では製品の香りを評価する上で重要な役割を果たしています。
味覚:(例)味、舌触り、歯触りなど
味覚を用いた官能検査は、主に食品製造業で活用されます。製品の味、舌触り、歯触りなどを評価します。一般的な製造業ではほとんど用いられませんが、食品や飲料の品質管理においては欠かせない検査方法です。
2.官能検査のメリット
官能検査には、以下のような重要なメリットがあります。
導入のハードルが低い
官能検査の大きな利点の一つは、特別な設備が不要なため導入のハードルが低いことです。高額な検査機器や複雑なシステムを必要とせず、適切なトレーニングを受けた検査員さえいれば実施できます。そのため、初期投資やランニングコストを抑えられるというメリットがあります。
特に中小企業や新規事業の立ち上げ時など、大規模な設備投資が難しい場合でも、官能検査なら比較的容易に品質管理体制を整えることができます。
機械では検出できない不具合を発見できる
人間の感覚は、時として最新の機械よりも繊細で複雑な判断ができます。特に、定量的な基準を設けることが難しい製品の検査や、微妙な質感の違いを評価する場合などでは、人間の感覚による判断が優れている場合があります。
例えば、高級家具の木目の美しさや、高級車の内装の質感といった、数値化が困難な要素を評価する際には、熟練した検査員の感覚が不可欠です。また、複数の感覚を同時に使用して総合的に判断することも、人間ならではの強みと言えるでしょう。
3.官能検査を行う際の3つのデメリットと対策
官能検査には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。これらの課題を理解し、適切に対処することで、より信頼性の高い検査結果を得ることができます。
官能検査の主なデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます:
- ①検査員による個人差の発生
- ②繰り返し検査を行うことによる再現性の低下
- ③サンプルに対する慣れや疲労の発生
これらの課題に対処するため、以下のような対策を講じることが重要です:
・検査官のトレーニング期間を設ける
検査員に適切なトレーニングを行うことで、検査作業の精度を向上させ、個人差を最小限に抑えることができます。また、定期的な再トレーニングを実施することで、検査の質を維持することができます。
・検査手順を明確にする
検査手順、検査方法などを明確に文書化し、標準化を図ることが重要です。これにより、検査員間での作業の一貫性が保たれ、結果の信頼性が向上します。
・限度見本を用意する
合否の判断基準を視覚化するために、限度見本(合格品と不合格品の境界線上にあるサンプル)を用意します。これにより、検査員の主観的判断を最小限に抑え、より客観的な評価が可能になります。
・検査環境を整備する
検査環境は検査精度に大きな影響を与えます。そのため、検査する製品に合わせた適切な環境(照明、温度、湿度など)を整備することが重要です。例えば、色彩の検査を行う場合は、標準光源を使用するなどの配慮が必要です。
4.AI技術を活用した官能検査の精度向上
官能検査は、人間の感覚を活用した品質管理手法として、製造業において重要な役割を果たしています。機械による自動検査技術が日々進歩する中でも、人間の感覚でしか判断できない微妙な品質の違いを評価できる点で、官能検査の価値は高く評価され続けています。
今後の展望としては、AI技術との融合により、官能検査の精度や効率性がさらに向上する可能性があります。例えば、熟練検査員の判断基準をAIに学習させることで、より客観的で一貫性のある検査が可能になるかもしれません。AIが大量のデータを分析し、人間の検査員が気づかなかった微妙な傾向や法則性を見出すことも期待できます。
また、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術を活用して、遠隔地からでも高精度な官能検査を行えるシステムの開発も進んでいます。これにより、グローバルな品質管理体制の構築や、非接触での検査実施が可能になるでしょう。例えば、ある国の熟練検査員が、世界中の工場で生産される製品の官能検査を、VR技術を使って行うことができるかもしれません。
さらに、IoT(Internet of Things)技術との連携により、官能検査の結果をリアルタイムで生産ラインにフィードバックし、品質管理をより効率的に行うことも可能になるでしょう。
一方で、人間の感覚の繊細さや柔軟性は、依然として機械やAIには完全に置き換えられない要素です。特に、高級品や芸術作品など、人間の感性が重要な役割を果たす製品の評価においては、今後も人間による官能検査が重要な位置を占め続けると考えられます。
このように、官能検査は人間の感覚と最新技術を組み合わせることで、今後も製造業の品質管理において欠かせない手法として進化し続けるでしょう。技術の進歩と人間の感覚の融合により、より高度で信頼性の高い品質管理が実現されることが期待されます。
製造業に携わる企業は、これらの動向を注視しつつ、自社の製品特性や生産環境に最適な官能検査の方法を継続的に模索し、導入していくことが重要です。そうすることで、製品の品質向上と顧客満足度の向上につながり、結果として企業の競争力強化にも寄与するでしょう。