ロボットティーチングとは?期待できる効果、主なティーチングの手法
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ティーチングは、ロボットが正確かつ効率的に作業を行うための基盤となるもので、現代の製造業において不可欠な手法です。産業用ロボットを現場に導入する際には、はじめにロボットに特定の動作を学習させる必要があります。このプロセスを「ロボットティーチング」と呼びます。
本コラムでは、ロボットティーチングの概要と生産性を最大限に引き出すための手法について詳しく解説します。
1.ロボットティーチングとは?
まずは、ロボットティーチングの意味と4つのティーチング手法について説明します。
ロボットティーチングの意味
ロボットティーチングとは、産業用のロボットに特定の作業や動きを教え込むプロセスのことです。ロボットに作業手順を指示し、正確な位置や動作を学習させることが主な目的です。
産業用ロボットを導入する際には、適切にロボットティーチングを行うことが重要となります。
4つのティーチング手法
ティーチングには、主に4つの方法があります。
1.オンラインティーチング
オンラインティーチングとは、ロボットの実機とコントローラーをオンラインで接続し、動かしながら各部の動作を記録する手法です。この方法では、ティーチングペンダントと呼ばれる専用のコントローラーを使用して、ロボットの動作を記録します。記憶させた動作をロボットにプレイバックさせることから、「プレイバック方式」とも呼ばれます。
オンラインティーチングは、実際にロボットを動かして、直感的かつリアルタイムで動作を指示できるため、特に精度が求められる作業において有効です。ロボットが記憶した動作を再現することで、一貫した品質と効率的な生産を実現できます。
また、オンラインティーチングの大きな利点として、プログラムを事前に作成する必要がないことが挙げられます。ただし、ティーチング作業中は製造ラインを停止する必要があるため、生産効率に影響を与える可能性があるという課題もあります。
2.オフラインティーチング
オフラインティーチングとは、コンピュータ上で事前に作成したプログラムをロボットに読み込ませる方法です。この手法の大きな利点は、ティーチング作業を行う際に生産ラインを停止する必要がないことです。
オフラインティーチングには、「テキスト型」「シミュレータ型」「エミュレータ型」の3つのアプローチがあります。
- ・テキスト型:
- テキスト型は、プログラムコードを直接記述してロボットに指示を与える方法です。高度なプログラミング知識が必要ですが、詳細かつ正確な制御が可能となります。
- ・シミュレータ型:
- シミュレータ型は、3Dシミュレーションソフトウェアを使用してロボットの動作を設計し、仮想環境でテストする方法です。シミュレーション環境で動作を詳細に確認し、最適化したプログラムをロボットにダウンロードすることで、実際の動作を正確に再現できます。この方法では、ティーチングの精度を高めると同時に、プログラムの作成と検証を効率的に行うことが可能です。
- ・エミュレータ型:
- エミュレータ型は、ロボットの実機と同様の動作環境をソフトウェア上で再現し、プログラムをテストする方法です。エミュレーションによって、実機の動作を忠実に模倣するため、現場での実装前に問題点を発見しやすくなります。これにより、実際の環境でのトラブルシューティングの時間を大幅に短縮することが可能です。
シミュレーションソフトウェアを使用したオフラインティーチングは、複雑な動作や多関節ロボットの制御に適しています。シミュレーションソフトウェアは、ロボットの動きを3Dで視覚化し、衝突や干渉を未然に防ぐための検証が可能です。
また、オフラインティーチングは、プログラムの再利用性にも優れています。一度作成したプログラムは、同じ作業を行う別のロボットに簡単に適用できるため、標準化されたプロセスを複数のロボットに展開することが容易です。
しかし、オフラインティーチングにはいくつかのデメリットもあります。まず、シミュレーション環境を構築するための初期投資が必須になります。また、シミュレーションソフトウェアやエミュレータの使用には専門的な知識が求められ、操作が複雑になる上に、操作する技術者の育成が必要になります。さらに、仮想環境でのテストと実際の環境では動作には微妙な違いが生じることが多く、実機での最終調整が不可欠です。
3.ダイレクトティーチング
ダイレクトティーチングとは、ロボットを手動で動かしながら、各動作を直接教える方法です。オペレーターがロボットのアームを物理的に操作し、特定の位置や動作を教え込むことで、ロボットに対して直感的に指示を与えることができます。
ダイレクトティーチングの大きな利点は、オンラインティーチング同様、プログラムを事前に作成する必要がないことです。また、これにより、プログラミングの専門知識がなくてもロボットの操作を教えることができます。特に、中小製造業やカスタマイズが頻繁に必要な現場では、迅速かつ柔軟に対応できる点が評価されています。さらに、ダイレクトティーチングは、直接ロボットを操作してティーチングを行うため、オンラインティーチングよりもさらに即時性と直感的な操作が求められる場面で非常に有効です。生産ラインを停止しても影響の少ない小規模な生産環境や、頻繁に変更が発生する作業環境において、そのメリットを最大限に活かすことができます。一方で、複雑な動作や大規模な生産ラインでは、オフラインティーチングやオンラインティーチングと併用することで、より効果的な生産性向上が期待できます。
しかし、ダイレクトティーチングにはデメリットも存在します。まず、オンラインティーチング同様、ロボットのティーチング作業を行うために生産ラインを一時停止させる必要があることです。また、手動でのティーチングは、オペレーターの技量に依存するため、精度や再現性にばらつきが生じることがあります。
また、ダイレクトティーチングは、複雑な動作や多関節ロボットの制御には向いていない場合があります。手動操作で全ての動作を教えるのが難しいため、複雑な作業には時間と労力がかかることがあります。そのため、簡単な作業や少量生産の現場での利用が一般的です。
4.AIティーチング
AIティーチングとは、人工知能(AI)を活用してロボットに動作を教える先進的な手法です。この方法は、従来の手動によるティーチングとは異なり、AIの学習アルゴリズムを用いて、ロボットが自ら最適な動作を学び、適応することを目指します。
AIティーチングの最大の利点は、柔軟性と適応性の高さです。AIは膨大なデータを基に自己学習を行い、環境の変化や新たな作業に対して迅速に対応することができます。例えば、異なる形状の部品を扱う場合でも、AIが自動的に適応し、最適な動作パターンを生成することが可能です。また、AIはリアルタイムでデータを処理し、継続的に学習を続けるため、長期的に見てロボットの性能が向上することが期待されます。
一方で、AIティーチングにはデメリットも存在します。まず、膨大なデータと計算リソースが必要であり、初期導入コストが高いことです。また、AIの学習プロセスは時間がかかることが多く、迅速なティーチングが求められる現場では導入が難しい場合があります。さらに、AIの決定プロセスがブラックボックス化することがあり、その動作を完全に理解することが難しい場合があります。
AIティーチングは、未来の製造業やサービス業において、ロボットの能力を最大限に引き出すための重要な技術です。人間のように学習し、適応するロボットを実現することで、生産性の向上と品質の確保を同時に達成することが期待されます。現場のニーズに応じて、AIティーチングを適切に活用することで、より高度な自動化と効率的な作業プロセスを実現することが可能です。
AIティーチングは、スマートファクトリーの実現にも大きく寄与します。AIがリアルタイムでデータを解析し、最適な動作を学習することで、工場全体の運営が一層スマートに、効率的になります。これにより、予知保全や生産ラインの最適化が進み、人手による介入を最小限に抑えつつ、高度な自動化と生産性の向上を達成することが可能となります。
2.ロボットティーチングにおける課題
ロボットティーチングは、製造現場においてロボットの動作を最適化するために不可欠なプロセスですが、その導入には多くの課題が伴います。
細かな動作の設定が難しい
産業用ロボットを効率的かつ正確に稼働させるには、ラインの動きや対象物の特性に合わせた設定が必要です。しかし、適切な経路や動作の設定は非常に難しく、プログラムの修正や実機での動作確認に多くの手間がかかってしまいます。
生産ラインに影響を与えるおそれがある
オンラインティーチングやダイレクトティーチングを実施する際には、生産ラインを一時停止してティーチング作業を行う必要があります。このプロセスが生産ラインに与える影響は大きく、ティーチングをスムーズに実施できないと、生産ロスやライン立ち上げの遅れにつながる場合があります。
ティーチング作業がスムーズに進まない場合、製品の生産が一時中断されることになり、生産計画や納期に影響を与えるリスクが高まります。特に納期に厳しい製品や生産計画が詰まったラインでは、ティーチングの遅れが全体のスケジュールに悪影響を及ぼすことがあります。
このため、ティーチング作業は計画的に実施し、可能な限り生産ラインに対する影響を最小限に抑えることが重要です。効率的なティーチングを行うための準備とスケジュール管理が、安定した生産運営と納期の遵守には不可欠です。
ロボットティーチングができる人材が不足している
ロボットティーチングを効果的に行うためには、専門的な知識と指定の教育が不可欠です。特に、モータ出力が80W以上の産業用ロボットに対しては、「産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育」の資格が求められます。この資格を持つことにより、ロボットの操作やプログラムの設定に関する正確な技術と知識を得ることができます。
しかし、自社にこの資格を持つ人材がいない場合、2つの大きな課題が発生します。まず、自社内で資格取得のための教育を行う必要があり、これには時間とコストがかかります。外部の専門機関にティーチング業務を委託する選択肢もありますが、これもコストや管理の手間が伴います。
これらの課題を解決するためには、適切な人材の育成と効率的なリソース管理が必要です。資格取得や専門的な教育を通じて、ロボットティーチングの精度を高め、安定した生産運営を実現することが重要です。
【引用】 労働安全衛生法 第六章 労働者の就業に当たっての措置(第五十九条-第六十三条)
コストがかかりやすい
ロボットティーチングには、コストがかかりやすいという課題があります。まず、ロボットティーチングを行うためには専門的な知識と技術を持った人材が必要です。この人材の確保や育成には、通常、相当なコストがかかります。教育やトレーニングには時間と資源が必要であり、これが全体のコストを押し上げる要因となります。
さらに、自社内での人材育成が難しい場合は、外部の専門機関にティーチング業務を委託する選択肢がありますが、これにも外注費がかさむという問題があります。外部委託により、専門的なスキルを持った技術者のサービスを受けることができますが、その分コストが高くなります。
これらのコスト問題を解決するためには、長期的なコスト対効果を見越した計画的な投資と、効率的なリソース管理が重要です。適切な人材育成と外部委託のバランスを取りながら、最適なティーチング方法を選ぶことで、コストを抑えつつ高い生産性を実現することが可能です。
3.ロボットティーチングを効果的に行うポイント
ロボットティーチングは、ロボットが正確かつ効率的に動作するための重要なプロセスです。しかし、効果的なティーチングを行うためには、単に動作を教えるだけでなく、さまざまな要因を考慮する必要があります。ロボットの種類や自社の環境、長期的な運用計画などを総合的に判断し、最適なティーチング手法を選択することが求められます。以下に、ロボットティーチングを効果的に行うための具体的なポイントを紹介します。
ロボットの種類と自社の環境に合わせた手法を選ぶ
ロボットティーチングを効果的に実施するためには、ロボットの種類と自社の環境に合わせた手法を選ぶことが重要です。ティーチングには様々な手法があり、製造現場の規模やロボットの機能、台数などによって最適な方法が異なります。
例えば、中小製造業などの小規模な製造現場であれば、直感的で簡単に操作できるダイレクトティーチングが適しているかもしれません。一方、大規模なラインや複雑な動作を要求される場合には、オフラインティーチングやAIティーチングがより効果的です。これにより、ティーチングの効率を最大限に引き出し、ロボットの性能をフルに活用することができます。
また、ロボットの種類によっても適切なティーチング手法が異なるため、各ロボットの機能や特徴をよく理解し、その特性に合った手法を選択することが求められます。これにより、ティーチングの精度が向上し、長期的な運用コストの削減や生産性の向上が期待できます。
移設したときの再ティーチングも含めて検討する
ロボットティーチングを効果的に行うためには、移設時の再ティーチングも含めて長期的に計画することが重要です。一度ティーチングを行ったロボットでも、環境が変わる際には再度ティーチングすることが必要となります。例えば、ロボットの移設や生産ラインの変更が行われると、元のティーチング設定では新しい環境に対応できないため、再度ティーチングを行う必要があります。
この再ティーチングの工数を短縮できるかどうかも含めて、長期的な視野でティーチング計画を立てることが効果的です。初回のティーチング時に将来の再ティーチングを見越したデータや手順を準備しておくことで、再ティーチングの作業時間を大幅に短縮することができます。
こうした長期的な計画により、効率的なティーチングプロセスを維持し、ロボットの稼働率を最大化することが可能となります。移設や環境変化を考慮した計画を立てることで、柔軟な生産対応と高い生産性を実現することができます。
4.適切なティーチング手法で生産性の向上を実現しましょう
ロボットティーチングは、産業用ロボットに正確かつ効率的な動作を学習させるための重要なプロセスです。オンラインティーチングやオフラインティーチング、ダイレクトティーチング、AIティーチングなど、多様な手法があり、それぞれの特徴を活かして最適な方法を選ぶことで、生産プロセスの効率を大幅に向上させることができます。
中小製造業では、特にわかりやすく直感的に操作できるダイレクトティーチングが適している場合が多いですが、大規模な生産ラインや複雑な動作には、オフラインティーチングやAIティーチングが有効です。自社のニーズに合わせたティーチング手法を選ぶことで、生産性を最大限に引き出すことが可能です。
技術者の育成や生産ラインへの影響を考慮し、計画的にティーチングを実施することで、長期的な視点での安定した生産運営が期待できます。適切なティーチング手法を活用し、ロボットのポテンシャルを最大限に引き出すことで、現場の効率化や生産性向上を実現し、中小製造業の競争力を強化しましょう。