【組織を考える】中小製造業と“ジョブ型”の相性はどうか?

著者:ものづくりコラム運営 【組織を考える】中小製造業と“ジョブ型”の相性はどうか?
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中小製造業では、「役割をどこまで期待しているのか」を言葉にできるかどうかが、現場と個人のズレを埋める大きな分かれ目になる。
近年、その整理の仕方の一つとして「ジョブ型」という考え方が注目されています。しかしジョブ型は、制度として導入すべきものなのか、それとも考え方として参考にすべきものなのか。製造業の現場実態を踏まえながら、その相性を考えていきます。

1.そもそも「ジョブ型」とは何か

ジョブ型の議論を正しく理解するには、まず言葉の整理が欠かせません。特に日本の製造業では、これまで当たり前だった働き方との違いを意識する必要があります。

ジョブ型とメンバーシップ型の違い

ジョブ型とは、人ではなく「仕事(役割・職務)」を基準に人を配置する考え方です。
あらかじめ「どんな役割を担うのか」「どこまで責任を持つのか」を定め、その内容に応じて評価や賃金を決めていきます。

一方、メンバーシップ型は、人を先に採用し、仕事は後から柔軟に変えていく考え方です。
配置転換、兼務、助け合いを前提とし、日本の中小製造業を長年支えてきました。

ここで重要なのは、ジョブ型が「新しくて正しい」わけでも、メンバーシップ型が「古くて間違い」なわけでもない、という点です。仕事に対する前提が異なるだけなのです。

文章だけで説明すると分かりにくいため、ここで一度、考え方の違いを整理しておきます。
※あくまで一般的な傾向であり、どちらが優れているという話ではありません。

観点 ジョブ型(適所適材) メンバーシップ型(適材適所)
基準 仕事(役割・職務)
配置の考え方 仕事に人を当てる 人に仕事を当てる
役割の表し方 「どこまでやるか」を事前に言葉で決める 「状況を見て判断する」ことが多い
兼務・助け合い 原則は限定的 前提として行う
評価の軸 担当する役割・成果 姿勢・貢献度・成長
賃金との関係 職務内容と連動しやすい 年数・経験と連動しやすい
向いている環境 役割が固定されやすい組織 変化が多く柔軟性が必要な組織

この表を見ると、ジョブ型は「線を引く仕組み」、メンバーシップ型は「柔軟に動く仕組み」と思われがちです。
しかし実際には、どちらも一長一短があり、現場の前提が異なるという点が重要です。

中小製造業では、変化への対応力や助け合いが欠かせないため、メンバーシップ型の考え方が根付いてきました。一方で、役割や期待が言葉にされないままでは、評価や成長の説明が難しくなってきています。

2.なぜ中小製造業では「ジョブ型は合わない」と感じやすいのか

現場から聞こえてくる違和感には、きちんとした理由があります。

中小製造業ならではの現実

中小製造業では、

・一人が複数工程を担当する
・人手が足りなければ全員でカバーする
・繁忙期と閑散期で役割が大きく変わる

といった働き方が一般的です。そのため「職務を明確に区切る」というジョブ型のイメージは、現実とかけ離れているように映ります。

特に経営者や現場リーダーが不安に感じるのは、「それは自分の仕事ではない」という線引きが生まれてしまうことです。

ジョブ型がうまくいかない導入パターン

実際に問題が起きるケースを見てみると、共通点があります。

【制度ありきの進め方】
⚠️先に職務範囲を細かく決めてしまう
⚠️評価制度だけをジョブ型に寄せる
⚠️現場の納得や理解を十分に作らない

こうした進め方では、助け合いの文化が弱まり、現場はかえって動きにくくなります。
失敗の原因はジョブ型そのものではなく、仕事を縛る「管理の道具」として使ってしまうことにあります。

それでもジョブ型の考え方が役立つ場面

一方で、ジョブ型の考え方が力を発揮する場面も確かに存在します。

ジョブ型は、
・何ができる人なのか
・どの工程・役割に価値があるのか
・どこまで任せてよいのか

を言葉にするのが得意です。
これは、属人化や技能継承に悩む中小製造業にとって、大きな助けになります。また、採用時に仕事内容を具体的に説明できることや、評価・昇給の理由を説明しやすくなる点も、見逃せないメリットです。

3.中小製造業に合う「現実的なジョブ型」

ここで重要なのは、「そのまま導入しない」という視点です。

多能工文化を前提に考える

中小製造業に合うのは、

🏭主に期待する役割を決める
🏭ただし、状況に応じて補完し合う余地を残す
🏭能力や習熟度を段階的に整理する

といった、ゆるやかなジョブ型です。

仕事を厳密に線引きするのではなく、「今、この人に何を期待しているのか」を共有する。それが、この考え方の本質です。

4.仕事の考え方は、組織と個人で違い始めている

最後に、近年多くの職場で感じられる変化について触れておきます。

役割を言葉にしない組織の限界

これまで多くの中小製造業では、

🏭空気を読んで動く
🏭状況に応じて柔軟に対応する

といった暗黙の前提で組織が成り立ってきました。
これは現場を強くする一方で、説明を省略しやすい構造でもあります。

一方で、働く個人の側では、

👥自分の役割や責任範囲
👥期待されている成果
👥成長の方向性

を、より明確に知りたいという意識が高まっています。

このズレが広がると、「評価が分からない」「何を頑張ればよいのか見えない」といった不満につながります。
問題は世代ではなく、前提が共有されていないことです。

ジョブ型は、導入すべき制度かどうかを議論する前に、組織の前提を個人に伝えるための「翻訳のヒント」として使えます。
自社の文化や現場を踏まえ、どこまで役割を言葉にするのか。
その判断こそが、これからの中小製造業に求められています。

5.まとめ

ジョブ型か、メンバーシップ型かという議論は、正解を選ぶためのものではありません。
大切なのは、自社がどんな前提で仕事を回してきたのか、どんな価値観や人柄の社員が集まっているのかを、あらためて見つめ直すことです。

役割をどこまで言葉にするのか、どこからは暗黙の理解に委ねるのか。
その線引きは、会社の規模や業種だけでなく、現場の文化や日々の関係性によっても変わります。

ジョブ型という考え方は、制度として導入する前に、
「自分たちの組織は、どこが言語化できていて、どこができていないのか」
を考えるためのヒントとして活用するのが現実的です。

まずは型を当てはめるのではなく、自社の風土や働き方を理解するところから。
そこから必要な部分だけを言葉にしていくことが、組織に無理のない第一歩になるはずです。

           

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