品質命!航空機部品加工業の生産管理とは?
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航空機部品を作る現場では、品質や工程管理に非常に厳しいルールがあります。安全性や信頼性が何より重要なこの分野では、品質管理や工程管理を徹底することが不可欠です。本コラムでは、航空機部品加工業が直面する課題と、その解決に役立つ生産管理のポイントを解説します。
1.航空機部品製造における生産管理の基本的な特徴
安全性を最優先とした品質管理体制
航空機部品産業では、高度な安全性の確保が大前提です。部品の不適合は人命に直結するリスクを伴うため、一般的な製造業とは比較にならない厳格な生産管理体制が必要とされます。
例えば、航空機のエンジンに使用されるタービンブレードでは、材料の微細な欠陥や寸法のわずかなズレが重大な故障につながる可能性があります。そのため、製造工程では各工程ごとに寸法や表面状態の検査を行い、検査結果を個体ごとに記録・管理します。また、部品ごとに材料証明書(ミルシート)を紐づけ、どの材料からどの工程で加工されたかを追跡できる体制が必須です。こうした取り組みにより、不適合発生時には即座に影響範囲を特定し、回収や修正を迅速に行うことが可能になります。
さらに、組立工程や検査工程でも複数段階の承認制度を設け、作業者や検査担当者がそれぞれの工程で責任を明確化することで、人為的なミスや見落としを最小化しています。これにより、航空機部品に求められる「安全性・信頼性」を確実に担保する体制が構築されています。
JIS Q 9100に基づく品質マネジメントシステム
航空機部品製造では、ISO 9001をベースに航空宇宙産業特有の要求事項を追加した JIS Q 9100(国際的にはAS9100として知られる規格) の認証取得が事実上必須です。この規格は「航空機産業へのパスポート」とも呼ばれ、発注企業との取引開始条件となることが一般的です。
工程凍結による生産条件の管理
航空機産業特有の概念に「工程凍結」があります。量産段階で決定した工程(生産条件)は、原則として変更が認められません。機械の入れ替えや治工具の変更、設置場所の移動などを行う場合には、事前に発注企業の承認が必要です。
【具体例】 航空機の翼用リブ部品を加工する工程を考えてみましょう。リブの穴あけ加工では、使用するドリルの径、回転数、送り速度、クランプ位置などの条件が全て工程凍結されます。この条件を勝手に変更すると、穴位置の精度や面粗さが設計要求を満たさず、最終的に組立後の翼の性能や安全性に影響を与える可能性があります。 また、治工具を交換する場合には、変更内容を記録し、再度FAI(初回製品検査)を実施して承認を得る必要があります。これにより、どの工程でも安定した品質が維持され、量産品のばらつきや不適合発生を最小限に抑えることができます。 |
さらに、工程凍結は設備や作業員の作業手順にも影響します。たとえば、機械の配置を移動したり、作業者を変更する場合も、事前承認と手順書の更新が必要です。こうした徹底した管理により、航空機部品の安全性・信頼性が確実に担保されます。
2. 航空機部品特有の工程管理要件
FAI(First Article Inspection:初回製品検査)
航空機部品では、新規製造品や設計変更品について、顧客要求や規格(例:AS9102)に基づき FAI(初回製品検査) の実施が求められます。FAIとは、量産前にプロセスの適格性を確認する検査です。製造プロセスが設計や技術要求を正確に満たす能力を有しているかを確認するための検証プロセスであり、FAIを通じて、量産前に問題を未然に発見し、品質を確実に担保します。
【具体的な確認項目】
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トレーサビリティの徹底
航空機部品では、部品番号・一貫番号・材料ロット・製造ロットなどの一意の識別情報の管理が必須です。これにより、どの部品がどの材料から作られ、どの工程で加工されたかを正確に追跡できる体制が構築されます。
たとえば、航空機のエンジン部品で不具合が発生した場合、トレーサビリティが確立されていれば、どの製造ロットの部品に問題があるのか、使用された材料はどのロットか、影響を受ける他の部品はどれか を迅速に特定できます。これにより、回収や修正の対応がスムーズになり、運航安全性へのリスクを最小化できます。
さらに、トレーサビリティは品質監査や顧客への報告にも役立ちます。記録が明確であれば、顧客や認証機関からの要求にも迅速に対応でき、信頼性の向上につながります。
材料証明書(ミルシート)の管理
航空機部品に使用する材料については、材料証明書(ミルシート) を活用したトレーサビリティの確保が非常に重要です。ミルシートとは、使用した金属や合金の化学成分や機械的性質(強度や硬さなど)が規格要求を満たしていることを証明する書類です。
たとえば、タービンブレードや構造用フレームに使用する金属材料では、強度不足や成分のばらつきが部品の耐久性や安全性に直結します。ミルシートを管理することで、どの材料ロットから作られた部品か、仕様を満たしているかを確認でき、不適合が発生した場合も迅速に対象ロットを特定できます。
また、ミルシートは品質監査や顧客への提出資料としても必須であり、厳格な保管・管理体制が求められます。電子化やデータベース管理を取り入れることで、紛失リスクの低減や検索の迅速化も可能です。
3. 検査・記録管理の特殊要件
長期間にわたる品質記録の保管
航空機部品の品質記録は、機体の運用終了まで保管が必要とされる場合が多く、通常20~40年程度に及びます(顧客要求や法規制により異なる)。
これほど長期の記録保管が求められる理由は、運用中に不具合が発覚した場合でも、製造履歴や材料情報をさかのぼって確認する必要があるからです。たとえば、航空機の翼やエンジン部品で不具合が見つかった場合、どの材料ロットを使用し、どの工程で製造されたかを確認できる体制が不可欠です。
そのため、以下のような仕組みが求められます。
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統計的工程管理(SPC)の活用
航空機部品の製造では、統計的工程管理(SPC:Statistical Process Control) による品質管理が重要です。
管理図や Cpk(工程能力指数) を用いて工程の安定性を監視し、寸法や性能が設計要求を満たしているかを継続的に確認します。
たとえば、ボルト穴の径やピッチのばらつきが一定範囲を超えると、組立後の性能や安全性に影響するため、リアルタイムで測定値を管理し、不良発生を未然に防ぐ体制が求められます。
キー特性の管理
「キー特性(Key Characteristic)」とは、部品の品質や性能、安全性に特に大きな影響を与える重要な項目のことです。たとえば、航空機エンジンのブレードなら厚みや角度のわずかなズレ、翼のリブ部品なら穴の位置や寸法の誤差がキー特性に当たります。
こうした項目は、少しのばらつきでも製品の組み立てや性能、耐久性に影響するため、特に注意して測定・管理する必要があります。
4.特殊工程管理とNADCAP認証
特殊工程の定義と管理
航空機部品の製造には、完成後の外観や寸法検査だけでは品質を確認できない工程があります。これらは 「特殊工程」 と呼ばれ、工程ごとの条件管理や記録が重要です。
中小製造業では、まずは作業手順書や管理記録の整備、重要項目のチェック体制を確立することから始めるとよいでしょう。
【特殊工程の代表例】
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これらの工程は、完成品だけを見ても品質の良し悪しが判断できないため、工程自体の管理や記録が特に厳格に求められます。
特殊工程管理のイメージ(自社・外注・管理ポイント)
航空機部品の特殊工程は、目に見えない加工の品質を保証するため、自社工程と外注工程の両方で管理する必要があります。中小企業でも、まずは以下のような整理が有効です。
工程 | 管理のポイント | 対応例 |
---|---|---|
自社工程 | 作業条件・手順・記録の管理 | 作業手順書の整備、チェックリストの活用、重要項目の記録 |
自社工程 | キー特性・品質確認 | 厚み・寸法・表面処理条件など、工程ごとに重点チェック |
外注工程 | NADCAP認証・品質保証 | 認証取得済みの外注先を選定、受入検査・記録の確認 |
外注工程 | 進捗・納期管理 | 生産管理システムで進捗や不適合情報を共有、承認フローを明確化 |
全体 | 情報の一元化・可視化 | 生産管理システムやデジタル台帳で工程・外注・品質情報を統合管理 |
NADCAP認証の重要性
NADCAP(National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Program) は、特殊工程の品質管理能力を国際的に認証する制度です。航空機産業に参入する際の信頼性を示す指標となり、外注管理や顧客への説明にも役立ちます。日本国内でも多数の事業所が取得しており、中小企業でも取得が進んでいます(※取得数は年によって変動します)。
【取得のメリット】
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まず 自社で管理できる範囲の特殊工程からNADCAP取得を段階的に進める 方法が現実的です。
また、熱処理を外注する場合でも、NADCAP認証を持つ事業者を使うことで、工程管理が国際基準に沿っていることを確認できるため、工程の信頼性の確保や安全性・品質の担保につながります。
5. 中小製造業が直面する課題と対応策
主な課題
航空機部品製造の中小企業では、一般の製造業に比べて以下の課題が顕著です。
- ・管理対象の膨大さ
- 部品ごとの工程や記録、材料証明書・品質記録など管理すべき項目が数倍に増えます。例えば、ある部品で使用する材料ロットや加工条件を一つひとつ記録する必要があります。
- ・専門人材の不足
- 航空機品質基準を理解し、FAIや特殊工程の管理ができる担当者の確保が難しい状況です。
- ・設備投資負担
- JIS Q 9100やNADCAP認証取得のための設備導入や初期投資が大きく、資金面での負担があります。
- ・外注管理の複雑さ
- 外注先にも同じ品質要求を伝え、工程を監査・確認する必要があり、管理フローが複雑です。
課題への具体的な解決ステップ
中小企業が効率的に課題に対応するには、次の取り組みが有効です。
- 💡デジタル化の推進(紙ベース管理の手間を削減し、情報の見える化を実現)
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- ・品質記録や作業記録の電子化
- ・データベースによる一元管理
- ・トレーサビリティ情報の自動化
- 💡段階的な認証取得(小規模でも無理なく国際基準に対応可能)
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- ・まずはJIS Q 9100認証を取得
- ・必要に応じて特殊工程のNADCAP認証を段階的に取得
- 💡支援機関・業界団体の活用
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- ・技術指導や手順書テンプレート、研修利用などで人的負担を軽減
- 💡外注管理体制の確立(外注先・外注工程でも安定した品質を確保)
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- ・外注先の承認基準を明確化
- ・定期的な品質監査の実施
- ・要求事項の確実なフローダウン
6. 報告フォーマットの標準化と情報共有
取引先企業との連携強化
航空機産業では、発注企業との連携が非常に重要です。以下のような仕組みで標準化することが推奨されます。
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サプライチェーン全体での情報共有
中核企業が中心となり、サプライチェーン全体での情報共有を進めることで、管理効率と対応力が向上します。具体策として一例をご紹介します。
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7.今後の展望と生産管理システム導入の意義
デジタル化の推進
航空機製造現場でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。
- ・IoTやセンサーの活用
- 製造中の部品の寸法や温度、加工状況などをリアルタイムで監視。異常があれば即座に通知され、不良品の発生を未然に防げます。
- ・AIによる異常検知
- 統計的手法や過去データの学習により、微細な変化や傾向を見逃さず、工程の安定性を高めます。
- ・紙ベース管理からの脱却
- 作業記録や品質データを電子化・統合することで、手作業での確認ミスや記録の紛失を防止。
結果として、作業効率の向上と品質管理の精度向上に直結し、迅速な意思決定や改善活動が可能になります。
持続可能な成長への対応
航空機産業は長期的に成長が見込まれる一方、以下の課題があります。
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これらの課題に対応するには、工程や品質情報を正確に把握し、変化に柔軟に対応できる体制が求められます。そこで注目されるのが、生産管理システムです。
生産管理システムを活用すれば、工程や品質情報を一元管理・見える化でき、リソース配分の最適化や変化への迅速な対応が可能になります。
例えば、材料ロットや加工状況を即座に把握することで、納期遅延や不適合発生時の対応時間を大幅に短縮できます。また、各工程の進捗をリアルタイムで可視化することで、生産計画の見直しや改善策の検討も迅速に行えます。
8.まとめ
航空機部品製造の生産管理には、工程凍結、FAI、長期記録保管、トレーサビリティ管理など、一般製造業にはない特殊要件があります。これらを理解し、適切な管理体制を構築することが成功の鍵です。
特に中小企業にとっては、段階的な認証取得・デジタル化の推進・外注管理体制の確立 が効果的な対応策となります。生産管理システムの導入によって品質向上とコスト削減を両立し、航空機産業における競争力を高めていくことが可能です。
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