現場の声を活かす仕掛品管理術 ― エクセル運用のリアルと限界を見極める
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製造業において「仕掛品管理」は、現場の稼働状況を把握し、生産効率を高めるために欠かせない重要な業務です。仕掛品とは、加工の途中にある製品のことで、材料と完成品の中間に位置する存在です。この仕掛品が、どこで、どのくらい、どんな状態で存在しているのかを正しく把握することは、納期管理や在庫適正化、さらには品質管理にまで関わってきます。
しかしながら、中小製造業の多くでは、仕掛品管理に「Excel」が多用されています。初期投資不要で誰でも使えるExcelは、現場にとって頼れるツールです。けれども、仕掛品管理の複雑さが増すとともに、Excel運用にはさまざまな限界が見えてきます。
本コラムでは、Excelによる仕掛品管理の実態とその限界を明らかにし、次の一手としてどのような改善が考えられるのかを考察していきます。
1.仕掛品管理とは
仕掛品とは、生産工程の途中にある加工中の製品を指します。たとえば、旋盤加工を終えたがまだ溶接をしていない部品や、検査待ちの状態にある製品などが該当します。仕掛品の管理とは、それらが現在どの工程にあるのか、どれだけの数量が存在しているのか、いつ次の工程に進むのかを可視化・記録する作業です。
この管理が正しく行われていないと、次のような課題が発生します。
【課題】
・同じ部品を重複して生産してしまう(過剰在庫)
・進捗が不透明で納期遅延が発生する
・工場内の在庫が見えないため、作業指示が混乱する など
特に多品種少量生産の現場では、仕掛品の種類と流れが複雑になるため、適切な管理がなされていないと、現場はすぐに混乱してしまいます。仕掛品の見える化は、現場のムダを減らし、納期遵守とコスト削減の鍵となるのです。
2.Excelでの仕掛品管理:現場のリアル
現場でのExcel管理のイメージ
現場では、多くの場合Excelを使って「仕掛品台帳」のような一覧表を作成し、各品目の進捗を手入力で更新しています。ファイルは日報や週報の一部として運用されているケースも多く、製造工程ごとの進捗状況や仕掛数、工程着手日・完了予定日などが記録されています。
部門ごとに異なるフォーマットが使われていたり、担当者ごとの運用ルールが存在していたりするため、統一性に欠ける一方で、それぞれの現場の実態に合わせた運用が行われているという側面もあります。
Excelで管理するメリット
Excelの最大の利点は、導入のしやすさと柔軟性です。特に、以下のような点が現場での支持を集めています。
【メリット】
・ソフトの導入コストが不要で、すぐに使い始められる
・レイアウトや計算式を現場の状況に合わせてカスタマイズできる
・データを視覚的に一覧表示でき、印刷や共有も容易
また、操作に慣れている担当者が多いため、新たな教育やマニュアルが不要というのも利点の一つです。特に少人数で運営されている中小工場では、最も現実的な選択肢として機能してきました。
現場担当者のリアルな声
Excelでの管理には確かに利便性がある一方で、現場ではさまざまな声も上がっています。
「仕掛品の数が少ないときはこれで十分。でも数が増えたり、急な変更があると対応が大変になる」
「ファイルを共有していると、誰かが上書きしてしまって情報が消えることがある」
「複数の製品が同時進行すると、どの工程が遅れているのか見えづらい」
これらは、Excelというツールの特性に起因する運用上の課題を示しています。管理の手間が増える、リアルタイムで情報共有が難しい、ミスが発生しやすいといった悩みは、どの現場にも共通する“あるある”です。
Excelは間違いなく「現場にとって身近なツール」ではありますが、「万能ではない」という現実も、日々の運用から浮かび上がってきます。
3.見えてきたExcel運用の「限界」
データのリアルタイム性がない
Excelは基本的に手動で更新されます。現場で作業が進んでも、担当者が手を動かして記録しなければデータは更新されません。そのため、現場の実際の状況とExcelシートの内容にタイムラグが生じやすく、「見える化」が実現できません。
属人化・ファイルのバージョン問題
誰か一人が管理している場合、その人が不在になると更新が止まります。また、複数人で管理している場合には「誰がどのファイルを最後に編集したか」が不明確になり、バージョンの食い違いや上書きミスが頻発します。
見える化・集計の限界
工程ごとの進捗や負荷状況をガントチャートやグラフで可視化しようとすると、関数やマクロの知識が必要になります。複雑な分析を行うには限界があり、作り込めば作り込むほどメンテナンスが難しくなるというジレンマもあります。
誤入力・整合性エラー
入力ミスや、VLOOKUP関数の参照ミスなど、ちょっとした操作ミスで全体の整合性が崩れます。特に他のシートと連動させた場合、リンク切れや数式エラーが発生しやすく、原因特定に時間がかかることも。
拡張性・他システムとの連携が困難
Excelはあくまでスタンドアロンツールであり、在庫管理システムや販売管理システム、生産スケジューラなど他の業務システムとの連携が難しいのが実情です。仕掛品データが孤立してしまい、全体最適の視点で判断できなくなるリスクがあります。
4.限界を乗り越えるには?
Excelを使いながらできる改善策
- ・クラウドでの運用
- OneDriveやGoogle Driveなどを活用し、複数人で同時編集できる環境を構築する
- ・テンプレート化
- フォーマットを固定し、入力項目に制限をかけてミスを減らす
- ・更新ルールの明確化
- 1日1回の更新タイミングを決めるなど、運用ルールを明文化する
システム導入という選択肢
より高精度でリアルタイム性のある管理を目指すなら、生産管理システムや簡易MESの導入が効果的です。近年では中小企業向けにスモールスタート可能なクラウド型ソリューションも増えてきています。
【主なシステムの特徴】
・現場の端末やタブレットからリアルタイム入力が可能
・工程ごとの進捗や在庫を自動で集計
・他のシステム(販売・在庫・原価)との連携が可能
費用対効果の視点
システム導入には一定のコストがかかりますが、「手作業にかかっていた時間」「誤入力によるトラブル対応」「見えないことで発生するムダな在庫」などのコストと比較すると、十分に元が取れるケースが少なくありません。
5.仕掛品管理改善で得られる効果
仕掛品の管理精度が高まることで、製造現場と経営の間にある「見えない壁」が取り払われ、以下のようなメリットが得られます。
現場の見える化 | どこで何が止まっているのかが一目でわかる |
納期遵守率の向上 | 進捗遅れの早期発見と対応が可能に |
在庫削減 | 適正在庫の維持が可能になり、キャッシュフローが改善 |
作業負荷の軽減 | 現場が属人的な管理から解放される |
顧客満足度の向上 | 納期遅延の減少や、進捗報告が迅速になる |
仕掛品管理を適切に行うことは、生産性向上だけでなく、働き方改革や人材定着といった経営課題の解決にもつながるのです。
6.Excelの役割とその次のステップ
Excelは、仕掛品管理の「最初の一歩」として非常に優れたツールです。しかし、現場の規模や複雑性が増すにつれて、その限界も見えてきます。Excelに頼りすぎることで、トラブルや情報の断絶が発生しやすくなるのです。「今すぐシステム導入」ではなく、「今から次のステップに備える」という発想が重要です。Excelの限界を見極めながら、自社にとって無理のない改善策を講じることで、製造現場の仕掛品管理は確実に進化していきます。
仕掛品の見える化は、企業の競争力そのものです。今こそ、現場と未来のための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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