整流化のメリットと課題とは?ものと情報の流れ | 工程カイゼンの手法
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近年、多品種少量生産へのシフトや、受注の変動に柔軟に対応できる生産体制の構築が、多くの中小製造業にとって大きな課題となっています。そこで注目されるのが「整流化」という考え方です。整流化はトヨタ自動車株式会社が提唱した生産方式の一部にも含まれており、ものや情報の流れを最適化することで、無駄を削減し生産性を高める手法として広く活用されています。しかし、一歩間違えると生産ラインが頻繁に止まってしまうなどの課題も生じやすく、導入には慎重な検討が必要です。本記事では、整流化の基本的な概念と役割、具体的な方法から、工程カイゼンの手法、メリット、そして対策を行う上での課題までを一挙に解説します。パソコンの操作が苦手という方でも理解しやすいようにまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.整流化の基礎知識
まずは整流化とは何か、その概要と目的・役割について理解することが重要です。整流化は「流れをスムーズにする」ことを指し、生産現場や流通の分野でものや情報が停滞しないようにする考え方です。トヨタ自動車が生み出した生産計画の考え方であるジャストインタイム(JIT)の一部としても知られています。
整流化(清流化)とは?
製造業の生産工程や流通業において、ものや情報の「停滞」や「無駄」をできる限りなくし、すべてが滞りなく流れている状態を実現させることを指します。別名「工程の流れ化」と呼ばれることもあり、トヨタ自動車株式会社が確立したジャストインタイム(JIT)3原則の一つとして位置づけられています。英語では「Streamlining」と表現され、日本語で「Maze(混ぜ)のない流れ」と翻訳されることもあります。
ジャストインタイム(JIT)について簡単に説明すると、「必要なものを必要なときに必要な量だけ生産する」という生産方式です。これにより、在庫の削減、生産リードタイムの短縮、品質向上などが実現できます。整流化は、このJITを実現するための重要な要素の一つとなっています。
整流化の目的と役割
整流化の最大の目的は、生産ラインや流通プロセスにおける滞りを発生させないことです。部品・材料・情報がどこかの工程で滞ると、次の工程がスムーズに進められず、生産全体の進捗が遅れてしまいます。整流化によって全体の流れを最適化することで、リードタイムの短縮や余計な在庫の削減などに結び付き、結果として生産効率の向上や顧客満足度の向上につながります。
2.整流化の方法
整流化を実践し、ものと情報の流れをスムーズにするためには、ジャストインタイム(JIT)の基本を取り入れるだけでなく、実際の現場で使える具体的な手法や原則を駆使することが重要です。ここでは、代表的な整流化の進め方を解説します。
ジャストインタイム(JIT)生産の導入
まずは「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ生産する」というJIT生産を導入してみましょう。本当に必要な在庫を必要最低限に絞ることで、生産現場に余剰の材料や仕掛品が溜まらず、流れを途切れさせない効果が期待できます。また、在庫が減ることで保管コストや管理の手間も削減でき、結果的に生産全体の効率アップにつながります。
【JIT生産の特徴】 | |
必要最小限の在庫 | 過剰在庫を持たないことで、在庫管理コストを削減します。 |
生産の柔軟性 | 需要の変化に迅速に対応できます。 |
品質向上 | 小ロット生産により、不良品の早期発見と対策が可能になります。 |
スペースの有効活用 | 在庫スペースを削減し、生産スペースを拡大できます。 |
ECRSの原則を活用
整流化を促すもう一つの手段として「ECRSの原則」が挙げられます。ECRSとは、排除(Eliminate)、結合(Combine)、順序変更(Rearrange)、簡素化(Simplify)の4つの頭文字を取りまとめたものです。
排除(Eliminate) | 現在の業務の目的や理由を洗い出し、不要な作業を思い切って取り除きます。 |
結合(Combine) | 似たような作業や工程をまとめて一本化し、時間や工数を削減します。 |
順序変更(Rearrange) | 作業の手順や配置を変えることで、効率化を図ります。 |
簡素化(Simplify) | 自動化やパターン化など、単純化できる部分を検討し、より簡便な方法を見つけ出します。 |
ECRSの原則は、ひとつひとつ決め細かく現場を見直す上で有効です。結果として「ものや情報がどこで無駄になっているか」を具体的に炙り出し、整流化を進めやすくします。
工程の流れの見直し
整流化を行う上で、まずは現在の「もの」の動きを把握することも重要です。生産ラインや業務プロセスで、実際にものがどのように移動し、どの部分で停滞や待機が発生しているかを観察してみましょう。動きのムラや、工程間の距離が長すぎる箇所が見つかれば、それを最小化するレイアウトや作業動作の見直しを行います。工程間の距離短縮や動作の簡略化をするだけで、流れを妨げる要因を大きく減らすことができます。
【STEP】
- 1) 工場の現状を把握~「もの」の動きや流れを見る~
- 生産ラインや業務プロセスにおける「もの」の流れを観察し、どの部分で無駄が発生しているかを把握します。これにより、無駄な動きや待機時間を特定し、改善点を見つけやすくなります。
- 2)「もの」の動きを流れ化する
- 「もの」の流れをスムーズにするために、各工程間の距離を最小限にし、必要な動作を減らします。これにより、運搬や移動にかかる時間と労力を削減し、全体的な生産効率を向上させることができます。
工程の流れを見直す際は、「一方向の流れを作る」「作業者の動線を考慮する」「公差や逆流を避ける」などの点に注意しましょう。これらの方法を適切に組み合わせることで、より効果的な整流化を実現し、生産性の向上につなげることができます。
3.工程カイゼンの手法
カイゼンとは、業務内容やプロセスを見直して、現状よりもさらに効率化を図り、より良い状態を目指す取り組みのことです。。整流化を実現するためには、様々な工程カイゼンの手法を活用することが重要です。ここからは、整流化の一環としての工程カイゼン手法をご紹介します。
1個流し
1個流しでは、製品を一つの工程ごとに1個ずつ生産ラインに流し、終わったらすぐに次の工程へ渡します。これによって一度に大量の仕掛在庫を抱える必要がなく、リードタイムを大幅に短縮できるメリットがあります。必要最小限の在庫で生産が進められるため、スペースの有効活用やコスト削減にも寄与します。
小ロット生産
ロットの数を絞って生産する方法が小ロット生産です。一定数のまとまりで1工程ずつ進めることで、大量生産時のムダを削減し、需要変動に柔軟に対応しやすくなります。保管や運搬の回数も減るため、結果的にリードタイムがさらに短くなる可能性があります。
同期化
各工程が同じペースで進むよう生産スピードを調整することを同期化といいます。同期化によって整流化の目標である「スムーズな流れ」が実現されやすくなり、工程間での過剰在庫や遅延が起こりにくくなります。生産リズムが整い、段取りミスや突発的なライン停止のリスクも低減できます。
工程準設備配置
製造工程に沿って設備を配置することで、部品や製品が次の工程に移動しやすい環境をつくります。これにより、「もの」の移動距離が短縮され、運搬に費やす労力や時間の無駄を削減できます。作業者の移動も最小限に抑えられ、流れが停滞しにくくなります。
多工程持ち
機械設備をライン状に並べ、1人の作業者が複数の工程を順番に担当する手法です。この方法では、少ない人数での生産が可能になり、仕掛品在庫も抑えられます。ただし、作業者には幅広いスキルが要求されるため、多能工の育成には時間と教育コストがかかります。
セル生産方式
製造プロセスを小さなセル単位に分割し、1人または少人数で完結させる生産方式です。途切れのない流れをつくりやすく、手待ち時間や運搬の無駄を削減できます。また、各作業者が複数の工程を担当することで、生産ライン全体の柔軟性が高まり、リードタイム短縮や在庫削減につながります。
▶【用語集】「セル生産方式」とは?
4.整流化のメリット
整流化が進むと、リードタイムの短縮や在庫の圧縮といった直接的な効果に加えて、職場環境の向上や生産効率アップといった副次的なメリットももたらします。ここでは代表的な利点を具体的に見ていきましょう。
リードタイムの短縮
整流化によって、製造プロセス内の仕掛在庫の滞留が減り、結果としてリードタイムが大幅に短縮されます。リードタイムとは、注文を受けてから製品が完成し、出荷されるまでの総時間を指します。リードタイムが短ければ短いほど、顧客に早く製品を届けられるため、顧客満足度の向上や競争力の強化につながります。
【リードタイム短縮によるメリット例】
・顧客ニーズへの迅速な対応
・在庫回転率の向上
・キャッシュフローの改善
・市場変化への柔軟な対応
在庫の圧縮
各工程の仕掛在庫が減ることで、倉庫や工場内の余剰在庫を最小化できます。保管スペースや在庫管理のコストが圧縮され、無駄な資金や人的リソースをより生産的な業務に振り向けられます。
【在庫圧縮のメリット例】
・資金繰りの改善
・スペースの有効活用
・在庫管理の簡素化
・不良品や陳腐化のリスク低減
5Sと3定の強化
整流化を進める過程で、生産工程の停滞や無駄が減ると、現場の5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)や3定(定位・定品・定量)を強化しやすくなります。流れが明確になるため、現場で必要なものを見極めやすく、不要なものを排除しやすくなるからです。結果として、清潔な職場環境が維持され、作業者が異常や汚れを早期に発見しやすくなります。また、定位置管理や定量管理のルールが守られやすくなり、全員が同じ基準で考え、動き、コミュニケーションを取りやすくなる点も大きな利点です。
【5Sと3定の強化によるメリット例】
・作業効率の向上
・品質の向上
・安全性の向上
・従業員のモチベーション向上
5Sや3定は、カイゼン活動(今よりも良い状態を目指し続ける活動)の一部として位置づけられています。
「7つの無駄」の排除
整流化が進むと、リードタイムの短縮、在庫の圧縮、5S・3定による職場環境の改善が実現し、結果として生産効率が向上しやすくなります。整流化が徹底されれば、製造工程から「7つの無駄」が排除されやすくなります。7つの無駄とは、リーン生産方式で定義される代表的な無駄のことです。
【製造業における「7つの無駄」】
・作りすぎの無駄
・待ちの無駄
・運搬の無駄
・加工の無駄
・在庫の無駄
・動作の無駄
・不良の無駄
これらの無駄を排除することで、生産ラインにおける人員配置や設備の稼働率が最適化され、投入された資本や人員などのリソースをより効率的に活用できる可能性が高まります。
▶【関連コラム】リーン生産方式で定義される7つの無駄とは?導入のメリットと注意点
5.整流化対策の課題
整流化によって得られるメリットは大きいものの、実際に導入・運用するにはいくつかの課題があります。ここでは代表的な問題点を取り上げ、どのような対策が必要かを考えていきましょう。
工程間のバランス調整やトラブル対応体制の整備
タクトタイムの短い作業を含むラインでは、材料を次工程へ渡すタイミングがばらつくだけで、滞留や不足が起こりやすくなります。また、1個流しで生産していると、ほんの少しのトラブルでも全体の進行に影響が及ぶ場合があります。そのため、「もの」の流れに関する手順や作業の平準化、そしてトラブルが起こった際の迅速な対応体制を整備することが重要です。
生産ラインが頻繁に止まる
1個流し生産は、不良品が出た場合、次工程以降のすべてのラインに影響を与えます。製品の不良率が高い段階で1個流しを導入すると、逆に生産が止まる回数が増え、かえって効率が落ちるリスクがあるのです。こうしたときは、あらかじめ一定量を生産して在庫として保持する「ストック生産」のほうが有利な場合もあります。ストック生産とは、需要に合わせて生産するのではなく、一定ロットでまとめて生産し保管するやり方です。不良品が発生しても、在庫があるため次工程は止まりにくい利点があります。ただし、その分倉庫コストや在庫管理コストがかかるため、現場の状況に合わせた判断が求められます。
多能工の育成が難しい
多工程持ちやセル生産方式を導入する際には、1人の作業者がいくつもの工程を担当するケースが増えるため、多能工の育成が重要になります。しかし、作業者がこなすべき仕事内容が増えると、教育期間が長期化し、慣れるまでは工場全体の生産性が一時的に低下することもあります。また、負担が増えることで離職率上昇の懸念もあるため、教育計画や作業エリアのレイアウト計画などを慎重に行うことが必要です。
6.整流化の実現に向けて~情報管理と工程の見える化~
ここまで整流化の基本から具体的な方法、工程カイゼンの手法、メリットおよび課題までを解説してきました。整流化は、生産性向上や無駄削減に大きく寄与する一方で、導入の仕方を誤るとコスト増やライン停止のリスクを高める可能性も孕んでいます。そのため、整流化を成功させるには「情報の一元管理」と「工程管理の見える化」が欠かせません。最適なタイミングで部品や原材料を発注し、そして必要な工程に的確に配置するには、生産スケジュールを把握・管理する仕組みが必要となるからです。
【情報の一元管理で得られるメリット】
・リアルタイムでの生産状況の把握
・迅速な意思決定と対応
・部門間のコミュニケーション改善
・データに基づいた継続的な改善活動
【工程の見える化で得られるメリット】
・問題点や改善ポイントの明確化
・作業者の意識向上と自主的な改善活動の促進
・リーダーシップの発揮と迅速な指示伝達
・顧客や取引先との信頼関係構築
こうした背景から、テクノアが提供する生産スケジューラの導入を検討してみるのも有効な手段となります。特に多品種・少量生産が中心となる中小企業の場合、膨大な品目や変動する需要に柔軟に対応しなくてはならず、エクセルだけでは限界が生じやすいのが現実です。
生産スケジューラ『Seiryu』
テクノアの生産スケジューラ『Seiryu(セイリュウ)』は、多品種・少量生産の中小企業様向けに開発されたシステムです。
生産工程を“見える化”し、必要な資材や工程の優先順位を自動でスケジューリングできるなど、整流化の実践を強力に支援してくれます。導入に際しては、テクノアが培ってきたノウハウをもとにサポートも受けられ、ユーザー様の現状をヒアリングした上で、最適な運用提案が得られます。
整流化を促進したい、在庫を最小化したい、工程カイゼンに踏み出したいとお考えの方は、ぜひ一度詳細資料のご請求を検討してみてください。適切なシステムの導入と現場の意識改革によって、よりスムーズな生産フローと高い競争力を実現できるはずです。