標準作業の3要素と3票(表)とは?得られる効果と改善のステップ
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現代の製造業において、高品質な製品を効率的かつ安全に生産することは、企業の競争力を維持・向上させるために不可欠です。その鍵を握るのが「標準作業」です。標準作業とは、無駄をなくし、高品質な商品をより早く安全に製造するために行う作業のことを指します。本記事では、標準作業の基本から、その効果や導入ステップまでを詳しく解説します。
1.標準作業の基本
標準作業とは、無駄をなくし、高品質な商品をより早く安全に製造するために行う作業のことです。製造業において、生産性向上や品質安定化のために欠かせない概念であり、効率的な生産体制を構築する上で重要な役割を果たしています。
標準作業の目的
標準作業の主な目的として、ここでは4つのポイントをご紹介します。これらの目的を達成するために、作業手順を統一し、全員が同じ方法で作業を行うことで、無駄を削減し、トラブルの発生を防止します。標準化された作業プロセスは、効率的な生産活動の基盤となり、企業の競争力向上に寄与します。
・生産性の向上
作業手順を統一することで、全員が同じ方法で効率的に作業を行えるようになります。これにより、無駄な動作や工程が削減され、生産性が向上します。
・品質の安定
統一された手順で作業を進めることで、製品の品質にばらつきが生じにくくなります。一定の品質を保ちながら生産を続けることが可能になります。
・新人教育の効率化
明確な手順があるため、新人でも短期間で作業を習得できます。教育時間の短縮や、教育担当者の負担軽減につながります。
・安全性の向上
危険な動作やミスを防ぐための手順が明確になることで、事故やケガのリスクが減少します。
作業標準との違い
混同されがちな「標準作業」と「作業標準」ですが、実際にはそれぞれ異なる概念を指しています。標準作業とは、作業そのものを詳細に示したもので、具体的な作業の手順や方法を明確に記述しています。これは作業者がどの順序で、どのように作業を行うかを細かく定めたものであり、現場での日々の業務に直接関わるものです。作業者はこの標準作業に基づいて、効率的かつ一貫した方法で作業を遂行します。
一方、作業標準は、標準作業を行うための基準やルールを示したものです。品質基準や安全基準、検査方法などがこれに含まれ、作業を適切かつ安全に行うための指針となります。つまり、作業標準は作業そのものではなく、作業が適正に行われるための条件や規範を定めたものです。
要するに、標準作業は「どう作業を行うか」を示し、作業標準は「その作業を行うための基準」を示すものと言えます。両者は製造現場において相互に補完し合う関係にあり、どちらが欠けても生産性や品質の向上、安全性の確保は難しくなります。正確な作業手順(標準作業)と、それを支える基準やルール(作業標準)の両方を整備することで、初めて高いレベルの生産活動が可能となります。
標準作業の3要素
標準作業を効果的に実施するためには、以下の3つの要素が欠かせません。この3要素が明確に定まっていない場合、標準作業の目的が損なわれ、生産性の低下につながる可能性があります。
・タクトタイム
タクトタイムとは、製品や部品を1つ作るために必要な時間を指します。いわば「目標時間」であり、生産計画の基準となります。タクトタイムは以下の式で算出できます。
タクトタイム=稼働時間 ÷ 必要生産数 |
ここで重要なのは、余裕率(正味時間に対する余裕時間の割合)は見込まないという点です。つまり、実際に作業に費やすべき時間のみを考慮します。
また、生産活動での実作業時間と比較する予実管理にもつながります。
・作業順序
作業順序とは、作業者が作業を効率的に行うための手順を指します。運搬や加工・組み立てなど、各作業の順序を最適化することで、製品の製造時間を短縮し、無駄を削減できます。作業順序を見直すことで、以下の効果が期待できます。
▶作業時間の短縮(製品の製造時間の短縮)
▶作業の無駄の削減
▶作業者の負担軽減
▶トラブルの発生防止
これらの効果から、適切な作業順序を設定することで、生産効率が大幅に向上する可能性があります。
・標準手持ち
標準手持ちとは、サイクルタイムと作業順序を守ったうえで、繰り返し作業を実行するために必要な最小限の仕掛品の数を指します。サイクルタイムには、機械に材料のセッティングをしたり、検査をしたりする時間も含まれます。標準手持ちは以下の式で計算可能です。
標準手持ち=(稼働時間 ÷ 実際の生産数) |
標準手持ちの管理は非常に重要で、以下のような問題が発生する可能性があります。
▶標準手持ちが多すぎる場合:作りすぎが発生し、在庫が増加
▶標準手持ちが少なすぎる場合:作業待ちが発生し、生産性が低下
そのため、適切な標準手持ちを維持することで、効率的な生産体制の構築を目指す必要があります。
[関連ワード]
・サイクルタイム:一連の作業を完了するのに必要な時間を指します。機械の動作時間や、作業者の動作時間など、全ての時間を含めたものです。
・仕掛品:製造工程の途中にある未完成の製品のことです。次の工程に進むために必要な適切な量を保つことで、生産の流れをスムーズに保てます。
2.標準作業で作成する3票(表)
標準作業を効果的に構築・運用するためには、特定のツールを用いて現状を「見える化」することが重要です。その代表的なものが、「標準作業で作成する3票(表)」です。3票とは、「工程別能力表」「標準作業組み合わせ票」「標準作業票」の3種類の帳票のことを指し、これらのツールを活用することで、作業の効率化や問題点の発見が容易になります。
工程別能力表
工程別能力表は、各工程における自動送り時間や手作業時間などを記載した表です。この表を作成することで、それぞれの工程における生産能力を把握できます。特に、ライン全体の中でもっともボトルネックとなっている工程を定量的に分析することが可能です。
【工程別能力票の特徴】
・ライン全体の中で最もネックとなっている工程を定量的に分析できる
・各工程の所要時間を明確化し、生産能力のバランスを確認できる
・改善が必要な工程を特定するのに役立つ
【期待される効果】
・ボトルネック工程の改善策の検討
・生産計画の最適化
・全体の生産性向上
標準作業組み合わせ票
標準作業組み合わせ票は、作業者1人ひとりの動作や設備の所要時間を記入した表です。タクトタイムとサイクルタイムを比較し、差がある場合には改善点を探します。
【標準作業組み合わせ票の目的】
・タクトタイムとサイクルタイムを比較し、差がある場合には改善点を探す
・各作業者の作業バランスを可視化する
・無駄な動作や待ち時間を特定する(設備稼働率の最適化など)
標準作業票
標準作業票は、全体の作業工程を1枚の帳票にまとめたものです。
【標準作業票の目的】
・工程全体を把握し、改善点を見つける
・標準作業の3要素(タクトタイム、作業順序、標準手持ち)を組み込む
・無駄な部分や品質、安全性のチェックを可能にする
【標準作業票の特徴】
・視覚的な理解:作業の流れを図や表で表現し、一目で把握できる
・包括的な情報:作業手順、所要時間、注意点などを1枚にまとめる
・改善のための基礎資料:現状の作業プロセスを明確化し、改善活動の出発点となる
また、標準作業票の内容に標準作業の3要素も組み込むことで、「無駄な部分の発見と削減」や「品質や安全性のチェック」、「作業手順の標準化と共有」などの点も可能となります。
このように、3票(表)を適切に活用することで、現状の課題を明確にし、改善へのアプローチを具体的に検討できます。
3.標準作業で得られる効果
標準作業を導入・実践することで、企業や現場はさまざまな効果を享受できます。これらの効果は、品質管理、生産性向上、安全性確保、人材育成など、多岐にわたります。以下、主要な効果について詳しく見ていきましょう。
製品の品質が安定する
標準作業の導入によって、作業のばらつきが大幅に減少します。全従業員が同じ手順で作業を行うことで、製品の品質に一貫性が生まれます。これにより、不良品の発生率が低下し、顧客満足度が向上します。さらに、品質管理にかかるコストも削減できます。安定した品質は、企業の信頼性を高め、市場での競争力強化につながります。
生産性が向上する
各作業員が同じ手順で作業を行うことで、無駄な動きや待ち時間が削減されます。これにより、作業効率が大幅に向上します。さらに、タクトタイムや標準手持ちの概念を導入することで、生産計画や工程バランスの最適化が図れます。結果として、生産リードタイムが短縮され、生産コストの削減が実現します。これらの要因が相まって、企業の収益性向上に大きく貢献します。
安全性を高められる
標準作業を導入することで、ケガや事故につながる危険な動きを効果的に防止できます。作業工程が統一されることで、担当者が間違った方法で作業を行うリスクが大幅に減少します。また、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)活動と組み合わせることで、職場環境の改善にもつながり、より高い安全性を実現できます。従業員の安全確保は、作業の円滑化や品質向上にも寄与し、企業全体のパフォーマンス向上に貢献します。
教育時間の短縮につながる
標準化された明確な作業手順により、新入社員は短期間で作業内容を理解し、習得することができます。これにより、新人の早期戦力化が可能となり、企業全体の生産性向上につながります。同時に、教育担当者の負担が軽減され、他の重要業務に注力できるようになります。結果として、人材育成の効率化が図られ、企業の持続的成長を支える基盤が強化されます。
これらの効果は相互に関連し、相乗効果を生み出します。例えば、品質の安定化は顧客満足度を高め、それが受注増加につながり、さらなる生産性向上の必要性を生み出します。また、安全性の向上は従業員の士気を高め、品質向上や生産性向上にも好影響を与えます。このように、標準作業の導入と実践は、企業全体のパフォーマンス向上に包括的に寄与する、極めて重要な取り組みといえるでしょう。
4.標準作業の改善のためのステップ
標準作業を効果的に導入・改善するためには、計画的なアプローチが不可欠です。以下に、その具体的な手順を7つのステップで詳しく解説します。
Step1.前提条件と目的の明確化
標準作業の導入にあたり、まず前提条件と目的を明確にすることが重要です。前提条件として、対象となる業務や範囲、使用対象者や管理者を決定します。例えば、特定の製造ラインや工程、あるいは全社的な取り組みなのかを明確にします。同時に、標準作業導入の目的を具体的に設定します。生産効率の向上、品質の改善、安全性の確保など、明確な目標を掲げることで、取り組みの方向性が定まり、効果的な改善活動につながります。
Step2. 作業内容の整理
次に、現状の作業内容を詳細に洗い出し、整理します。各作業の手順を時系列で記録し、作業時間、動作、使用設備を確認します。この過程で、無駄や非効率な部分を特定することが重要です。作業内容の可視化により、改善の余地がある部分が明確になり、後のステップでの改善策立案に役立ちます。
Step3. 作業訓練の繰り返し
整理された作業内容に基づいて、標準作業として設定した手順を作業者に訓練します。この段階では、作業者への教育とトレーニングが中心となります。実践を通じて手順を定着させ、同時にフィードバックを受けながら改善点を見出します。継続的な訓練により、作業の質と効率が向上し、標準作業の定着が図れます。
Step4. 問題点の発見
訓練や実践を通じて、現場での問題点を発見します。作業の遅延やミスの発生箇所を特定し、作業者からの意見や要望を収集します。また、データの収集と分析を行い、客観的な視点から問題点を洗い出します。この段階で見つかった問題点は、次のステップでの改善につながる重要な情報となります。
Step5. 原因の追究
発見した問題点について、その原因を徹底的に追究します。5Why分析などの手法を用いて根本原因を特定し、人的要因、設備要因、環境要因など多角的な視点から検討します。関係者とのディスカッションを通じて、様々な観点からの意見を取り入れることも重要です。原因を正確に特定することで、効果的な改善策の立案が可能となります。
Step6. 改善策の提案
原因分析に基づいて、具体的な改善策を提案・検討します。新しい手順や方法の提案、設備の改善やツールの導入、作業環境の整備など、様々なアプローチを検討します。この段階では、費用対効果や実現可能性を慎重に評価し、最も効果的な改善策を選択することが重要です。また、関係者との合意形成を図り、スムーズな実施につなげることも忘れてはいけません。
Step7. 新たな標準作業の作成
最後に、改善策を反映した新しい標準作業を作成します。標準作業票や標準作業組み合わせ票を更新し、作業者への再教育と訓練を行います。新たな標準作業の導入後も、定期的な評価と見直しを行い、継続的な改善につなげることが重要です。
これら7つのステップは、単発的なものではなく、継続的に繰り返されるべきサイクルです。このサイクルを通じて、標準作業の質を高め、生産性や品質の向上につなげることができます。また、このプロセスを通じて、従業員の参加意識や改善マインドを醸成し、組織全体の競争力向上にも寄与します。
標準作業の改善は、一朝一夕には成し遂げられません。しかし、これらのステップを着実に実行し、継続的に改善を重ねることで、製造現場の効率化、品質向上、安全性確保など、多面的な効果を得ることができます。さらに、この取り組みを通じて、従業員の技能向上やモチベーション向上にもつながり、企業の持続的な成長を支える強固な基盤となるのです。
5.標準作業で生産性を向上するためのシステム導入
標準作業の効果を最大限に引き出すためには、適切なシステムの導入が効果的です。特に、製造現場のデータを一元管理し、リアルタイムでの情報共有や分析が可能なシステムは、生産性の向上に大きく寄与します。中小製造業様向けのシステムとして、『TECHS』シリーズをご紹介します。
多品種少量型の複雑になりがちなデータを一元化『TECHS-BK(テックス・ビーケー)』
『TECHS-BK』は、多品種少量生産を行う部品加工業様向けの生産管理システムです。導入により、以下のような効果が期待できます。
- ・データの一元管理
- 受注から出荷までの情報を統合管理し、業務の効率化を図る
- ・リアルタイムな情報共有
- 作業指示書とハンディターミナルを活用し、工程進捗をリアルタイムで把握し、迅速な対応が可能
- ・生産計画の最適化
- タクトタイムや標準手持ちのデータを活用し、最適な生産計画を策定可能
『TECHS-BK』では、蓄積した加工実績のデータを基に、類似品などの前回の加工実績を参照し、標準的な目標時間を設定することができます。さらに、目標時間を予定工数(予定原価)とし、実工数(実原価)と比較・分析することで、原価の粗利分析や次回の見積への反映が可能となります。
また、必要な機能や業務範囲によって「Standard」「Basic」「Mini」の3つのエディションよりプランを選択いただけるため、段階的なシステム導入も可能となります。
・Mini:受発注・販売管理に機能を限定した超スモールスタート
・Basic:生産管理業務の短期稼働を実現(在庫管理は対象外)
・Standard:受注から売上までの煩雑になりがちな業務データを一元管理
製品詳細はこちら:https://www.techs-s.com/product/techs-bk
個別受注型製造業に特化したクラウド対応の生産管理システム『TECHS-S NOA(テックス・エス・ノア)』
『TECHS-S NOA』は、個別受注型 機械・装置製造業に特化したクラウド対応の生産管理システムです。このシステムの特徴は以下の通りです。
- ・クラウド対応
- インターネット環境があれば、どこからでもシステムにアクセス可能
- ・個別受注型に最適化
- 注文ごとの細かな管理が可能で、納期遵守率の向上に貢献
- ・コスト管理
- 原価やコストを細かく把握し、経営戦略に活用可能
部品点数が多く、リピート性の低い製品でも、手配進捗や原価管理が行いやすいシステムとなっており、システム導入時に業務の標準化を図るための運用サポートも実施しています。
製品詳細はこちら:https://www.techs-s.com/product/techs-s-noa
標準作業は、製造業における生産性向上や品質安定に不可欠な要素です。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、適切なツールやシステムの導入が重要ですが、まずは標準化を図るためにも自社の現状把握から着手することをおすすめします。現状を知り、標準化に向けた社内の理解を得た上で、『TECHS-BK』や『TECHS-S NOA』のような生産管理システムを活用することで、標準作業の運用を効率化し、企業全体の競争力を高めることができるのです。