スイスチーズモデルとは?製造業における具体例や事故の予防方法

著者:ものづくりコラム運営 スイスチーズモデルとは?製造業における具体例や事故の予防方法

スイスチーズモデルとは、リスクマネジメントに関するモデルです。事故発生のリスクを低減する際に有効とされ、製造業をはじめ、安全対策を重要視する業界で多く導入している考え方です。

今回はスイスチーズモデルについて解説するほか、製造業におけるスイスチーズモデルの活用法などを紹介します。安全対策を十分に施し、事故や不良が発生するリスクを低減したい方はぜひ参考にしてください。

1.スイスチーズモデルとは?

スイスチーズモデルとは、イギリスの心理学者ジェームズ・リーズンが提唱したリスクマネジメントのモデルのことです。穴の開いたスイスチーズを安全対策に例えています。つまり、「安全対策=スイスチーズ」を何重にも組み合わせることで事故発生のリスクを軽減できるという考え方です。

このモデルでは、事故発生の要因をスイスチーズの穴に見立てています。事故や不良が発生する要因は日々の業務の中でいくつも潜んでおり、通常はそのような潜在的要因には対策を施しているものです。しかし、完璧な安全対策は存在せず、ヒューマンエラーや想定外のトラブルはいつでも発生する恐れがあります。一つひとつの要因は小さいものでも、スイスチーズの穴が重なればリスクは防護策をすり抜けてしまうでしょう。

したがって、複数の安全対策(スイスチーズ)を重ねて穴が重なる部分を少なくして、事故や不良が発生しにくくなるようデザインすることが大切です。たとえば従業員に教育訓練を行うだけでなく、変更管理や設備改修などを実施すれば、不良品が流出するリスクは十分に低くなります。

このように、多層的な対策を講じるとリスクが減ることを示すのがスイスチーズモデルなのです。スイスチーズモデルは製造業やIT企業・医療・保育・航空などのさまざまな分野のリスク管理・安全対策で参考にされています。
 

2.スイスチーズモデルにおいて穴が生まれる要因

製造業においては、さまざまな要因によって事故や不良が発生しています。スイスチーズモデルではどのような要因を穴と想定しているか紹介します。
 

ヒューマンエラー

一つ目はヒューマンエラーによるものです。人の手で行う作業をすべて完璧にするのは難しく、想定外のトラブルが発生した場合には一瞬の判断ミスなどが事故につながる危険性があります。さらに熟練技術者の退職や人手不足などもヒューマンエラーを誘発する原因です。

実際、過去に起きた化学工場の事故の中には、ヒューマンエラーが原因と指摘されているものがあります。2012年に山口県の化学プラントで発生した爆発事故は、オペレーターの判断ミスによる安全装置の解除が原因とされています。ただし、ヒューマンエラーはスキルやキャリアなどに関係なく起こる場合がある点にも注意が必要です。
 

ルール違反

どの職場でも業務上のルールがありますが、ルール違反をした際にも事故や不良が起こるものです。不良が発生しないように規律を設けたとしても、ルールが習慣化していないと違反が発生しやすくなります。ルールそのものの重要性が伝わっていない場合も同様です。

機械の使い方が悪く事故が発生したケース、正しいメンテナンスができていなかったためにトラブルが起きたケースなどが該当するでしょう。配管のパッキンの定期的な点検を怠ったために、パッキンが割れて異物混入に至ったなどはルール違反に当たります。
 

企業独自の文化

事故は、安全対策の意識が低い文化が根付いている場合にも起きます。安全対策そのものが適切ではないケースです。たとえば資格のない作業者がフォークリフトを運転していたり、人をパレットに載せて高所で作業させたりといったことが当たり前になっている組織では安全意識が低いといえるでしょう。

「長い間事故が起こっていないから大丈夫だろう」という安心感が事故を誘発する場合もあります。重大事故が長い期間起きていなかった場合には、安全対策の意識が低下しているケースも珍しくはありません。リスクマネジメントや人材面でも事故に対する防止策は十分に取れたはずなのに、「何もなかったから」と安全対策を施さないままになっているのです。
 

3.製造業現場におけるスイスチーズモデルの例

工場での転倒事故の防止策をスイスチーズモデルで考えてみましょう。
 

・1枚目のチーズ:注意表示
1枚目のスイスチーズに当たる安全対策として、床面の滑り止めや段差への注意表示を設置しました。それらの安全対策を施しても事故の原因となる穴は存在します。たとえば「滑り止めが劣化していた」「注意表示が目に入らなかった」などです。

 

・2枚目のチーズ:安全教育と5S
2枚目のチーズでは1枚目のチーズを通過した事故の要因を止めるための対策を施します。定期的に安全教育や事故の事例を共有するなどして、社員の安全対策への意識を高めます。また「整理・整頓・清潔・清掃・しつけ」の5Sを導入して、清掃・作業環境の整備を始業後すぐに行うことにしました。

しかし、「清掃・整備を行わない社員がいる」「安全教育をしても工場内を走ってしまう社員がいる」などの要因によって転倒事故は起きます。

 

・3枚目のチーズ
3枚目のチーズでは、トップダウンで安全対策を重視します。管理職の安全意識が高まり現場の監督を徹底することで、清掃や整備を行わない社員に対して指導できます。また工場内を走る社員がいることは、過度な生産ノルマを課していることも考えられたため、余裕のある生産計画を立てるようにしました。

 
このように、考えられる穴に対して、何重にも対策を重ねていくことがスイスチーズモデルの基本になります。

穴を塞ぐために「フールプルーフ」の設定も効果的です。フールプルーフとは、誤った操作を防止する予防策であり、ヒューマンエラーが発生しないような仕組みを構築することです。「機械の設定変更時に確認メッセージが表示される」「ドアやフタが閉められていない場合には操作できない仕組み」などはフールプルーフになります。
 

4.スイスチーズモデルの穴を見極める方法

では、潜在的な事故の要因を事前に察知するにはどうすればよいでしょうか。スイスチーズモデルの穴を見極める方法を3つ紹介します。
 

過去のトラブル事例から逆算する

事故や不良は通常通りの運転中ではなく、想定外のトラブル下においても発生しやすくなります。しかし、あらゆるトラブルを想定してマニュアルを整備するのは現実的ではありません。したがって、事故やトラブルに発展した過去の事例を参考にするとよいでしょう。

具体的には、過去の記録を元にトラブルとなった原因を探ります。過去の事例や運転ミスなどが社内で明文化され、共有できていればそれに対応したマニュアルを作成できるのです。
 

ロジカルシンキングを活用する

ロジカルシンキングを活用すると、事故となる芽を発見できます。ロジカルシンキングは論理的思考といわれる通り、事実と理由に基づいて合理的に結論を導き出す考え方です。客観的な視点から因果関係を追求できるため、事故の発生に作用した要因を抜け漏れなく確認しやすく、複雑な事故事例にも応用がききます。
 

現場で起きているヒヤリハットを探る

現場で起きているヒヤリハットを探るという方法も有効です。ヒヤリハットとは、ヒヤリとする瞬間やハッとする出来事のことです。事故やトラブルの要因となり得るヒヤリハットを想定する時に活用でき、「ハインリッヒの法則」ともいわれています。

ハインリッヒの法則では「1件の重大事故の裏には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットが起こっている」とされています。29件の軽微な事故を完全に防げば1件の重大事故は発生しません。したがって、29件の事故の原因を追求することが事故防止につながります。
 

5.スイスチーズモデルで事故を未然に防ごう

スイスチーズモデルは、事故や不良の発生を防ぐためのリスクマネジメントのモデルです。ひとつの安全対策だけでは十分ではなく、多層的な対策により事故を防止するという理論です。
スイスチーズモデルでは、問題点となる穴をいかに見つけて、安全対策を講じられるかが大切になります。工場の安全対策には危険の見える化が重要です。工場内での危険箇所や事故が起こりやすい場所を視覚的に把握するのです。

とはいえ、工場の見える化をどうすればよいかお困りの方もいるのではないでしょうか。問題となる穴を見つけるためにも、まずは自社の現状を知ることが解決への一歩となります。
ここでは、工場の見える化をサポートするツールとをご紹介します。
 

AI画像認識で工場を見える化『A-Eyeカメラ(エー・アイ・カメラ)』

『A-Eyeカメラ』は、ネットワークカメラとAIを組み合わせたソリューションです。工場内をネットワークカメラで撮影し、画像をAIが解析することで生産設備の稼働状況を把握します。積層信号灯(シグナルタワー) の異常検知機能や、生産設備の前に人がいる・いないを判断できる機能があります。

リアルタイムのあんどん表示も可能です。生産設備に何らかの異常が発生した場合には、大画面の共通モニターなどで確認できます。これにより、トラブルに発展する前に対処できるのです。
 
製品の詳細はこちら:https://www.techs-s.com/product/a-eye-camera

 

クラウド対応型生産管理システム『TECHS-BK(テックス・ビーケー)』

正確なデータの収集も工場内の安全管理には欠かせません。生産管理システム内で不良が発生した際の実績登録や要因、対策を記録することで、蓄積したデータ分析から改善策や対策を講じることができます。

『TECHS-BK』は、多品種少量生産型の中小企業様に適したクラウド対応の生産管理システムです。受発注や原価管理、工程管理といった基本的な機能を揃えているほか、実績収集にも対応している点が特徴です。
バーコードハンディターミナルによりリアルタイムな進捗管理や、オプションでiPadでの実績収集もできます。不良品が発生した場合にiPadのカメラで画像を残し、作業実績と紐づけていれば不良品の原因追求に役立ちます。

製品の詳細はこちら:https://www.techs-s.com/product/techs-bk
 

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