インダストリー5.0とは?製造業での活用方法や現場が抱える課題

著者:ものづくりコラム運営 インダストリー5.0とは?製造業での活用方法や現場が抱える課題

インダストリー5.0は2021年に欧州委員会が提唱した新しい産業革命の概念で、「第5時産業革命」とも呼ばれ注目を集めています。
インダストリー5.0は、「効率や生産性だけでなく、人間や環境にも配慮する」といった社会的な側面も重視した新しいタイプの技術革新です。今回はインダストリー5.0のコンセプトや実現するためのテクノロジーなど、全貌について解説します。製造の現場で、インダストリー5.0に取り組むとどのような効果を得られるかについても詳しく説明するので、ぜひ参考にしてください。

目次

「インダストリー5.0」とはいったい何?

リード
工業の分野で技術革新が起きると産業革命と呼ばれるようになります。今注目されているインダストリー5.0の概要について解説します。

インダストリー5.0とは

インダストリー5.0とは、2021年に欧州委員会が提唱した新しい産業革命の概念で、「第5次産業革命」とも言われて います。
欧州委員会とは「ヨーロッパ委員会」とも呼ばれるEU(ヨーロッパ連合)の行政機関です。

インダストリー(Industry)は「産業、製造業」という意味を持ちます。

インダストリー1.0から5.0への変遷

インダストリー(産業革命)の歴史は1.0から5.0まであります。

インダストリー1.0(第1次産業革命)は18世紀半ばから19世紀初頭にかけて起こりました。蒸気機関の発明によって工場生産が始まった時代です。

インダストリー2.0(第2次産業革命)が起こったのは19世紀末から20世紀初頭にかけてでした。電力や内燃機関の発明によって、大量生産が可能になった時代を指します。

インダストリー3.0(第3次産業革命)は20世紀後半から21世紀初頭にかけて起こりました。コンピューターやインターネットの発展によって、情報化やグローバル化が進んだ時代です。

インダストリー4.0(第4次産業革命)は、2011年にドイツ政府が提唱した産業革命推進のコンセプトであり、デジタル技術を駆使して高精度のイノベーションを目指したものです。

インダストリー5.0とインダストリー4.0の違い

インダストリー5.0では、インダストリー4.0には考慮されていなかった「人間中心」「環境保全に配慮した持続可能性」「回復力」といった観点が補足、拡張されています。

現代では経済的価値だけでなく、社会的価値にも重きを置く必要があります。生産性や効率性に加えて、環境や社会問題への貢献も目標のひとつです。人々と機械が協働することで、インダストリー5.0の実現を目指しています。

インダストリー5.0で重要な3つのコンセプト

インダストリー5.0の概念は、3つの軸によって構成されています。3つの軸とは「人間中心」「持続可能性」「回復力」です。詳しく説明します。

人間中心(ヒューマン・セントリック:Human Centric)

「人間中心」とは、人間の需要や価値観を重視し、人と機械が協働する産業のあり方を目指すものです。人間の創造性や感性を活用しつつ、ロボットやAIなどのデジタル技術 を効果的に利用します。人間を尊重することで、品質と生産性の向上が期待されます。

持続可能性(サステナビリティ:Sustainability)

「持続可能性」は、経済発展を行いつつ、環境への負荷や資源の浪費を抑えて将来世代の地球環境の保全を目指します。具体的には、再生可能エネルギーや循環配慮型の技術の導入です。CO2の排出量や廃棄物の削減などによって、地球温暖化や資源枯渇といった環境問題の抑制が期待されます。

回復力(レジリエンス:Resilience)

「回復力」は、新型コロナウイルスのようなパンデミックや自然災害といった予測不可能な事態に産業や社会が適応し、迅速に回復する能力です。デジタル技術やデータ分析などを活用し、事前にリスクを予測して対策を講じることでもあります。ものづくりにおいては、サプライチェーン全体を通したデータの共有によって、産業の安定性や競争力の向上が期待されます。

製造業の現場でインダストリー5.0に取り組むとどのような効果を得られる?

インダストリー5.0は生産性や効率を追求するだけでなく、環境や従業員の働き方も考慮しています。 製造業でインダストリー5.0が実現されると、どのようなメリットがあるかを紹介します。

作業効率や生産性の向上

一つ目の効果は、作業効率や生産性の向上です。人と機械の協働によって、人の手で行う作業の省略化や安全確保、カスタマイズがしやすくなります。デジタルツインと呼ばれる技術を活用するのも特徴です。デジタルツインは、デジタル空間に実際の製造現場と同じモデルを作成し、シミュレーションを行うものです。

製造現場では、データを吸い上げてデジタル空間でリアルタイムにシミュレーションを行います。生産計画や品質管理などで使う予測値の正確性が上がると期待されています。

品質の向上

人とロボットの協働によって互いの強みを活かせるため 、品質の向上が期待できます。人は創造性や判断力を発揮し、機械は精度や速度の向上に貢献するといった連携が実現するのです。

製造現場から吸い上げ、蓄積したデータを予測や予知に活用することで、機械の精度がより高まります。不良品を作らない生産ラインの構築も可能になるでしょう。

環境や社会問題への貢献

循環型経済への取り組みや、気候変動対策の実施により環境保全に貢献できます。具体的には「再生可能エネルギーの利用」「廃棄物の削減」「再利用の促進」「CO2排出量の削減」などです。

たとえばドイツの自動車業界では、サプライチェーンのデータを共有する取り組みを始めています。製造過程で生じる温室効果ガスをサプライチェーン全体で計算し、ゼロエミッションかつサステナブルな社会を実現しようとしているのです。

インダストリー5.0促進のために製造業が取り組むべき3つの「X」

製造業でインダストリー5.0を実現するためには、「BX」「SX」「EX」という3つのXにバランス良く取り組むことが重要です。

BX (Bussiness transformation)

BXとは「ビジネス・トランスフォーメーション」を指します。基幹システムの導入や意識改革によって、企業のビジネスプロセスや業務効率の改善を行うものです。顧客満足度や収益性の向上が期待できます。

生産管理から営業、原価までを一元管理するERPや、生産計画の立案を自動化する生産スケジューラなどの導入が一例です。ただし、BXにはシステムの導入だけでなく、システムを活用する人材や社員の育成も必要になります。

SX (Sustainablity transformation)

SXは「サステナビリティ・トランスフォーメーション」で、持続可能な企業価値の創出を行うためのものです。環境へ配慮した生産体制の構築、社会貢献活動などへの取り組みによって企業のブランドイメージや信頼性を向上させる意図があります。

企業が長期的に成長していくためには、SXが必要です。企業経営とサステナビリティとを両立させて、持続的に企業価値を創出します。

EX (Enployee Experience)

EXは「エンプロイー・エクスペリエンス」で、従業員の働き方を見直し、改善します。 製造業では人手不足が深刻化しており、優秀な人材を確保するための経営戦略は不可欠です。
従業員の満足度が高まるため、離職率の低下や採用率の向上が期待できるでしょう。

インダストリー5.0の実現における製造現場の課題

インダストリー5.0の概念はまだ提唱されたばかりであり、実現への道のりは長いと言えます。実現における現在の課題をまとめました。

先進的な技術の導入コスト

インダストリー5.0では、人と機械の協働や先進的なデジタル技術が必要です。しかし、導入や運用にはコストが発生します。特に産業用ロボットやAI、デジタルツインなどの先端技術を取り入れるためにはコストがかかるため、企業によっては実現のハードルが高くなるでしょう。

人材の育成と確保

インダストリー5.0の促進にはデジタルスキルを持った人材が必要なため、人材の確保や育成には時間や労力がかかる点も課題です。さまざまなデータを蓄積できても、分析や予測を行う人材を確保できなければ、生産性向上にはつながりません。

セキュリティの強化

インダストリー5.0では多様なデータをネットワーク上でやり取りするため、セキュリティ対策の強化が必要です。今まで以上にサイバー攻撃やデータ漏洩などのリスクが高まります。サプライチェーン全体でセキュリティリスクにどう対応するかも課題です。

国内外でのインダストリー5.0に関する取り組みの現状

インダストリー5.0や類似した取り組みは欧州以外の各国でも積極的に行われています。ここでは日本とアメリカ、中国における取り組みを紹介します。

日本での取り組み

内閣府は、科学技術政策として2016年に「Society5.0」というコンセプトを発表しました。仮想空間と現実空間を融合させて、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指した取り組みです。AIやロボットといった先端技術を、あらゆる産業や社会に取り入れることで実現を目指しています。人間中心や社会、環境との持続可能性を提唱している点も特徴です。

「Society 5.0」(内閣府):https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

海外での取り組み

・アメリカでの取り組み
アメリカでは、カーボンニュートラルの実現に向けて環境に配慮した政策に変化しています。たとえば2022年には「インフレ削減法」により、約3,700億ドルを気候変動対策に投じると決定しました。
IoTを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けて、IBMやインテルといった企業が「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」という団体を結成しています。

・中国の取り組み
中国では大気汚染が問題となっている影響もあり、製造業のデジタル化やスマート化によりエネルギー効率を向上させる動きが広がっています。2015年には、政府によって「中国製造2025」が提唱されました。これは、製造業全体の生産性や水準を向上させ、製造強国の仲間入りを目指すものです。

政策を実現させるためにデジタル技術やエネルギー分野の発展に注力しています。具体的には、「次世代情報通信技術」「先端デジタル制御工作機械とロボット」「省エネ・新エネルギー自動車」などです。

インダストリー5.0を牽引する主なテクノロジー

インダストリー5.0の促進には複数のテクノロジーの活用が必要です。ここでは代表的なテクノロジーを紹介します。

AI(人工知能)

AIは人間の知能を模倣したコンピューターであり、大量のデータから学習し、予測や判断を行うテクノロジーです。AIの中でも機械学習という技術が有名で、品質管理や生産計画、研究・開発などに活用できます。

たとえば新しい素材を開発する場合に、機械学習により「どの材料がどのように物性に影響を与えるか」の予測ができるのです。従来よりも効率的な開発が可能となります。

IoT(Internet of Things)

デバイスやセンサーをインターネットに接続して、データの収集や制御などを行う技術です。スマートファクトリーやリモートワークによる遠隔地からの作業などへの活用を期待できます。

スマートファクトリーとは、工場内の機器や設備をIoT化して生産性や効率性を向上させることです。IoTにより収集したデータをAIで解析し、予測に使われるケースもあります。

ブロックチェーン

ブロックチェーンとは、取引データを暗号化して分散的に管理する技術で、偽造防止や契約管理に活用できます。「分散型の台帳に記帳することで改ざんを防ぐ」「中央管理者が不要で、データの信頼性が高い」などが特徴です。サプライチェーン全体のデータを複数の企業が管理する際に使われています。

ビッグデータ

ビッグデータとは、膨大な量のデータです。膨大なデータを高速に処理し、分析を行うことでマーケティングや設計開発などに活用できます。たとえば、需要予測を行うとき にこれまで蓄積したビッグデータをもとにニーズを予測すれば、生産計画の精度向上が期待できるでしょう。

クラウドコンピューティング

インターネット経由でサーバーやソフトウェアの利用などができるIT技術です。クラウドコンピューティングは、スマートファクトリーやリモートワークの推進に活用が可能で、初期費用や運用コストを抑えてデジタル技術を導入できます。

ロボティクス

ロボティクスはロボットの設計や製造、制御する技術です。製造業では製造プロセスに産業用ロボットが導入されると、作業の自動化や製品の検査などに活用できます。産業用ロボットで工作機械のワークの取り出しやパレタイズを自動化すれば、生産性の向上にも貢献できるでしょう。

製造現場でのインダストリー5.0推進をサポートするシステム

インダストリー5.0のような技術革新を実現するのは難しいものです。しかし、デジタル化を少しずつ進めることで実現に近づきます。テクノアでは製造現場のデジタル化を推進させるソリューションを提供しています。

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たとえば、警告灯の色をAIが判別することで、機械のリアルタイムな監視が可能です。これにより稼働率などを分析すれば、現状把握ができるため改善活動に活かせます。

AI画像認識を利用した工場の見える化システム「A-Eyeカメラ(エーアイ・カメラ)」
https://www.techs-s.com/product/a-eye-camera

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機械の故障によるトラブルなどで計画を見直す場合、エクセルだと時間がかかる点が問題です。「Seiryu」は設定に合わせて自動で再計画するため、生産計画を短時間かつ柔軟に作成できます。

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次世代の製造業はインダストリー5.0へ

インダストリー5.0はデジタルや自動化による生産性向上だけでなく、「人間中心」「環境保全に配慮した持続可能性」「回復力」といった社会的な価値にも重きを置く次世代の産業革命です。

実現にはデジタル人材の育成や先端技術の導入コストなどさまざまなハードルがありますが、環境や社会問題を解決するためには不可欠な戦略です。

AIやIoT、ビッグデータなどの技術を少しずつでも導入していけば、インダストリー5.0の実現に近づけるでしょう。

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