第66回「IT化は目的ではなく手段 ~それってIT化が必要ですか?~」

著者:井上 創(いのうえ つくる) 第66回「IT化は目的ではなく手段 ~それってIT化が必要ですか?~」

中小製造業において、人手不足の解消業務効率化という課題ITDXによって解決しようとする動きは日々強まっているように感じます。 
本記事では「IT化は目的ではなく手段である」ということを事例を踏まえて改めてお伝えしたいと思います。 

1.それってIT化が必要ですか? 

中小企業診断士として中小製造業の経営者と話をしている中で、「それってIT化(システム導入)が必要ですか?」とよく問いかけることがあります。 例えば、FAXでの受注内容を自動でパソコンに入力できるようにする、という場合です。
この場合、OCR(手書きの文字や印刷された文字を読み取り、電子テキスト化する技術)等を導入すれば、FAXの受注情報を自動でパソコンに取込み、作業を効率化すること自体は可能です。 ここで、「でもそれって本当に必要ですか?」という疑問が浮かびます。仮に、FAXでの受注が、取引先2社からのみ、月に2万円程度の受注ボリュームだった場合、システム導入費の数十万円を回収するにはかなりの年数がかかります。そうであれば、システムを導入するのではなく、そもそも「FAXでの受注をやめる」という解決策の方が妥当である場合が多いです。 わざわざシステムを導入せずとも、当該取引先に「メールでの注文をお願いする」、「ネット注文に誘導する」などシステム導入以外の解決策は他にもあります。FAXでの注文以外の方法を受けいれてもらえず、仮に取引が打ち切られたとしてもFAX受注にかかっている手間(コスト)を考えれば、問題にはならないはずです。 

2.IT化は目的ではなく手段 

この例のように、IT化自体が目的化、つまりITありきで課題解決策を考えてしまうと、せっかく導入したITシステムが使われず、失敗に終わってしまう可能性が高くなってしまいます。IT化はあくまで課題解決のための手段です。なので、まずは自社の課題を洗い出し、IT化以外も含めて課題解決策を検討することが重要です。 

3.課題の洗い出し 

課題を洗い出す際は下図のように、まずは業務プロセスを網羅的に洗い出します。その後、業務プロセスごとに「担当部署」、「具体的な作業内容」、「作業を行う上での課題」、「本来あるべき姿」を整理・検討します。このように課題を整理した上で、その課題の解決策をIT化以外も含めて検討します。それでも、IT化がベストな解決策だと確信できた場合に、初めてIT化を本格的に検討するとIT化の失敗を防ぐことができます。

4.まとめ 

「IT化は目的ではなく手段」とはよく言われますが、是非今一度意識していただければと思います。
新たにIT化(ITツール導入)を検討されている方は、まずは、課題を洗い出すところから始めてみてください。 

               著者画像
井上 創(いのうえ つくる) 製造業ソリューション事業部 ソリューションサービス部

大手鉄鋼メーカーでの生産技術エンジニアを経て、経営コンサルタントとして多くの企業様の経営改善を行ってきました。
エンジニア時代に、仕入先であった中小製造業様が日々経営に悩まれている姿を目の当たりにし、「将来少しでもお手伝いできれば」と考え、中小企業診断士の勉強を始めました。
エンジニアとしての「現場改善」、コンサルタントとしての「経営改善」の経験を活かして、お客様の経営課題の解決を支援いたします。