「人が採れない」を前提にする経営 ~2026年版中小企業白書が示す「省力化投資」という選択~

著者:高山 一祥(たかやま かずよし) 「人が採れない」を前提にする経営 ~2026年版中小企業白書が示す「省力化投資」という選択~
著者画像
高山 一祥(たかやま かずよし) 営業本部

前職では、工作機械の専門商社にて、各種工作機械やCAD/CAMなどの提案営業を行っていました。
また、営業活動と並行して、各種補助金の申請支援も行っておりました。
テクノアでは、これらの経験も活かし、お客様がより利益体質になれるようなご提案をしてまいります。

本コラムのポイント
•   採用で埋められない時代の人手不足対策 ~省力化投資のすすめ~
• 「現状維持は最大のリスク」 白書が中小製造業に問いかけるもの

1. 「募集をかけても、人が来ない」
現場で起きていること

中小製造業のお客様を訪問していると、最近もっとも多く伺うお悩みのひとつが「人手不足」です。求人を出しても応募が来ない、ようやく採用できても定着しない、ベテランの退職で技術が抜けていく――。多くの経営者の方が、こうした実感を口にされます。
これまで人手不足といえば「いかに採用するか」「いかに定着させるか」が中心の議論でした。しかし、2026年版の中小企業白書を読むと、その前提そのものを見直す必要があることが見えてきます。

2. 白書が突きつける構造変化 ―
「労働供給制約社会」とは

2026年4月に公表された中小企業白書が打ち出したキーワードのひとつが「労働供給制約社会」です。これは、特定の会社が採用に苦戦しているという話ではなく、日本社会全体で働き手の絶対数が減っていく、という構造的な変化を指します。言い換えれば、賃金を上げて募集をかけても、そもそも市場に働き手がいない、という状況が常態化していくということです。
白書では、一定の試算に基づけば、2040年には中小企業の雇用者数が2018年と比べて大きく減少する可能性が示されています。つまり「今は人が足りないが、いずれ景気が戻れば採れる」という性質の問題ではないということです。
そのうえで白書は、経営環境の転換期において「現状維持は最大のリスク」だと、強いメッセージを打ち出しています。これまで通りのやり方を続けること自体が、もっとも危険な選択になりつつあるのです。

3.発想の転換 ―
「採用で埋める」から「省力化投資で減らす」へ

働き手が構造的に減っていくのであれば、「足りない人手をどう埋めるか」という問いの立て方自体を変える必要があります。すなわち、「人を増やす」だけでなく、「同じ仕事を、より少ない人手でこなせるようにする」という発想です。
ここで白書が重視しているのが「省力化投資」です。業務の自動化やデジタル化によって、一人あたりが生み出す付加価値を引き上げていく取り組みを指します。なお、ここでいう「付加価値」とは、おおまかには「売上高から、材料費や外注費など外部から購入した費用を差し引いた、自社が新たに生み出した価値」のことです。給料や利益の“原資”にあたる部分、と捉えるとイメージしやすいかもしれません。つまり、採用か自動化かの二者択一ではなく、両方を並行して進めることが前提とされています。

4.データが示す、省力化投資の効果

「投資といっても、本当に効果があるのか」――そう感じられる方も多いと思います。白書は、その効果をデータで裏づけています。
省力化投資に取り組んだ企業のうち約半数(50.9%)が、「非効率的成長型」から「効率的成長型」または「効率化型」へ移行を実現できたと示されています。これは、取り組んでいない企業(46.8%)を約 4 ポイント上回る水準です。

引用:中小企業庁|中小企業白書2026 第2部第2章「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化<第2-2-84図>

引用:中小企業庁|中小企業白書2026 第2部第2章「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化<第2-2-84図>

少し聞き慣れない言葉なので、補足します。白書は、付加価値額と従業員数の増え方の関係から、企業の成長をいくつかの型に分類しています。「効率的成長型」とは、従業員を増やしても、それを上回るペースで付加価値を伸ばしている(あるいは従業員を減らしながら付加価値を伸ばしている)状態、つまり一人あたりの生産性が高まっている成長を指します。一方「非効率的成長型」とは、付加価値そのものは増えていても、それ以上のペースで従業員数が増えている状態です。会社全体では成長しているように見えても、一人あたりで見ると生産性はむしろ下がっている、という状態だと言えます。

中小企業庁|中小企業白書2026 第2部第2章「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化<第2-2-82図>労働生産性変化の類型化

引用:中小企業庁|中小企業白書2026 第2部第2章「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化<第2-2-82図>

省力化投資は、この「人手に頼った成長」から「生産性を伴った成長」へと舵を切るための、中核的な手段と位置づけられています。
また、AI活用やデジタル化に取り組んだ企業は、取り組んでいない企業に比べて付加価値額の増加率が明確に高い傾向も示されています。人手をかけずに稼ぐ力を高めている企業が、現実に存在するということです。

5.中小製造業における「省力化」の具体像

では、製造業の現場で「省力化投資」とは具体的に何を指すのでしょうか。大がかりな設備投資だけが省力化ではありません。日々の業務に埋もれた「人にしかできないと思い込んでいた作業」を見直すことから始まります。
たとえば、次のような業務です。

• 紙の作業日報や手書き伝票を、その都度パソコンに転記している
• 進捗や在庫の状況が、特定のベテランの頭の中にしかない
• 見積や納期回答のたびに、担当者が過去の資料を探し回っている

こうした「転記」「探す」「聞いて回る」といった作業は、付加価値を生まないにもかかわらず、確実に人の時間を奪っています。生産管理システムなどを活用してこれらを仕組みに置き換えることは、まさに省力化投資の第一歩といえます。

6.投資を「効果」に変える鍵は“定着”にある

ここで注意したいのは、白書が「導入率」より「定着率」に焦点を移している点です。ツールを入れただけでは効果は出ず、「導入したが効果を実感できていない」という声も少なくありません。
白書では、社内研修を実施している企業ほど「想定した効果が得られた、あるいは超えた」と回答する割合が高いことが示されています。投資の成否を分けるのは、ツールそのものよりも、現場に使ってもらうための運用設計と教育なのです。
私たちが生産管理システムの導入をご支援する際にも、稼働して終わりではなく、その後も継続的に関わらせていただくことを大切にしているのは、まさにこの「定着」こそが成果に直結すると考えているからです。

7. まとめ ―
現状維持こそ、最大のリスク

人手不足は、もはや「いつか解消する一時的な問題」ではなく、向き合い続けるべき構造的な前提です。だからこそ、「足りない人を採る」発想から、「少ない人で稼ぐ」発想への転換が求められています。
白書の言う「現状維持は最大のリスク」という言葉は、裏を返せば「変化に踏み出せば、まだ成長の余地がある」という中小製造業へのエールでもあります。まずは、自社のどの業務に「人にしかできないと思い込んでいる作業」が眠っているか、棚卸しをしてみてはいかがでしょうか。その一歩が、これからの「強い会社」への入口になるはずです。

テクノアでは、中小企業診断士・IT コーディネータによる伴走型のIT経営支援を行っています。省力化の進め方や補助金の活用について、お気軽にご相談ください。また、ユーザー様同士で学び合える「てくのわ交流会」も開催しています。ご縁のある皆様と、共に学び成長できる関係を築いていければ幸いです。

IT経営コンサルティング

この記事をシェアする

TECHS-S NOA

記事カテゴリー

よく読まれている記事

お役立ち資料ランキング

記事カテゴリーCategory

全ての記事一覧