“とりあえずのIT導入”で終わらせない~中小製造業がDXで成果を出す4つの鍵
著者:ものづくりコラム運営ものづくりコラム運営チームです。
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本コラムでは、DXの推進のポイントとなる4つのフェーズについて読み解きます。DXとは単なるデジタルツールの導入ではなく、ビジネスモデルや組織そのものを変革し、新たな価値を創造する取り組みです。
そして、多くの中小製造業がDX推進に悩みを抱えながらも、少しずつデジタル化に取り組み、成果を上げています。
このコラムにて、なぜ今DXが必要なのか、自社でも取り組める小さな一歩とは何かを、事例とともにわかりやすく解説します。
特別なIT知識がなくてもご安心ください。今の業務を少しずつ効率化し、未来の不安をチャンスに変えていくヒントをお届けします。
1.なぜ今、中小製造業でもDXが必要なのか?
製造業を取り巻く環境は、ここ数年で劇的に変化しています。技術革新のスピードは加速し、顧客の要求はより複雑になり、そして何より人材確保が困難になっています。このような変化の中で、従来のやり方だけでは競争力を維持することが難しくなっているのが現実です。
変化する製造業界の現状
現代の中小製造業は、2つの大きな変化に直面しています。
・外部環境の変化: 顧客ニーズが多様化・複雑化し、従来のやり方では対応が困難に。
・内部環境の変化: 人口減少による人手不足が深刻化し、ものづくり現場の維持が困難に。
これらの課題は、企業の存続にも関わる深刻なものです。そして、この状況を打破する強力な解決策こそが「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」です。
DXに取り組むことで、企業は以下のようなメリットを得ることができます。
☑人手不足の解消と持続可能な社会への貢献
☑生産性向上による供給力の強化
☑新規事業の創出による新たな需要の獲得
DXは、守りの一手であると同時に、攻めの一手でもあります。変化をチャンスに変え、企業の価値と競争力を高めるために、今こそDXが必要です。
中小製造業が直面している課題
- 課題1:属人化による業務の非効率性
- 中小製造業では、長年の経験を持つベテラン従業員が重要な業務を担っているケースが多く見られます。しかし、そのノウハウが個人に依存している「属人化」が進むと、以下のような問題が発生します。
・担当者が不在時の業務停滞
・新人教育の困難さ
・品質のばらつき
・業務改善の阻害このような属人化された業務は、企業の成長を阻害し、リスクを高める要因となっています。 - 課題2:データ活用不足による意思決定の遅れ
- 生産実績や在庫状況、顧客情報などの重要なデータが紙ベースやバラバラのシステムで管理されている中小製造業も多いのではないでしょうか?この課題により様々な問題が生じ、結果として企業としての競争力低下にもつながってしまいます。
【データ活用不足による弊害】
・リアルタイムでの状況把握が困難
・データに基づいた迅速な意思決定ができない
・問題の発見が遅れ、対応も後手に回る
・改善活動の効果測定が困難 - 課題3:競合他社との差別化の困難
- これまでの製造業では、技術力や品質、価格が主な競争要素でした。しかし現在では、納期対応力や柔軟性、顧客とのコミュニケーション品質なども重要な差別化要因となっています。デジタル技術を活用できない企業は、これらの新しい競争軸で遅れをとる可能性があります。
DXがもたらす具体的なメリット
DXは単なる「デジタル化」ではなく、デジタル技術を活用して事業そのものを変革することです。中小製造業にとって、DXは以下のような具体的なメリットをもたらします。
- メリット1:生産性向上による競争力強化
- DXの取組は人手不足の解消や、持続可能な社会の構築に寄与することが期待されるだけでなく、生産性向上を通じた供給力強化に大きく貢献します。
例えば、
・作業時間の短縮
・ミスの削減
・設備稼働率の向上
・在庫最適化
といった改善により、限られたリソースでより多くの付加価値を生み出すことが可能になります。 - メリット2:人手不足解消への寄与
- 人手不足が深刻化する中で、DX推進により人材不足を補完できれば、少ない人数でも事業を継続・拡大できる体制を構築できます。
【人手不足解消の方法例】
・単純作業の自動化
・遠隔監視・制御による効率化
・AI活用による判断業務の支援
・働きやすい環境の整備による人材定着率向上 - メリット3:新規事業創出の可能性
- DXにより、新サービスの開発や新しいビジネスモデルの構築ができれば、従来の製造業の枠を超えた事業展開も視野に入ってきます。新規事業創出による需要獲得など、企業価値や競争力の向上も期待できます。
【新規事業創出につながるDXイメージ】
・蓄積されたデータを活用した新サービスの開発
・既存技術とデジタル技術の組み合わせによる新製品創出
・新しいビジネスモデルの構築
・顧客との新たな関係性の構築
2.まずは自社の現在地を知ろう:DX推進段階の理解
DXを成功させるためには、闇雲に最新技術を導入するのではなく、自社の現状を正確に把握し、適切なステップで進めることが重要です。多くの企業が失敗する理由の一つは、現状把握を怠り、身の丈に合わない取り組みを始めてしまうことです。
次の章の簡易チェックシートに進む前に、各段階について理解を深めてみましょう。
中小製造業のDX推進のための4つのフェーズ
DXの推進は、しっかりとした計画のもと段階的に進めることが成功の鍵となります。DXとは単なるデジタルツールの導入ではなく、ビジネスモデルや組織そのものを変革し、新たな価値を創造する取り組みです。 そのため、一般的に以下の4つのフェーズに分けて考えることを推奨します。
フェーズ1:DX準備・構想策定(ビジョン策定と課題の明確化)
DX推進の土台となる最も重要なフェーズです。この段階で、目的や方向性が曖昧なまま進めてしまうと、期待した効果が得られない可能性があります。
- ●企業の目指すべき姿(ビジョン)の策定
- 5年後、10年後にどのような企業になっていたいか、将来的な経営ビジョンを明確に描きます。 これは、DXが技術導入そのものを目的としてしまうことを防ぐために不可欠です。
- ●DX推進の目的と経営課題の明確化
- ビジョン実現のために「なぜDXに取り組むのか」という目的を具体的にします。例えば、「生産性向上」「リードタイム短縮」「新規顧客層の開拓」など、解決したい経営課題と結びつけます。
- ●現状の把握と課題分析
- 現在の業務プロセス、組織体制、ITシステムの利用状況などを客観的に棚卸しし、どこに非効率な点や改善すべきポイントがあるかを洗い出します。
フェーズ2:デジタイゼーション(アナログデータのデジタル化)
構想策定後、最初の実行ステップとして、紙や人の記憶といったアナログで管理されている情報をデジタルデータに変換します。 これはDXの入口であり、比較的取り組みやすく効果を実感しやすいのが特徴です。
【具体例】
・手書きの製造日報や検査記録をExcelや専用システムに入力する
・紙の図面をスキャンしてPDF化し、電子ファイルとして活用する
・電話やFAXで行っていた受発注を、メールやWebシステムに移行する
・目視と手作業で行っていた在庫数を、バーコードやQRコードを活用し、システム内で管理する
フェーズ3:デジタライゼーション(業務プロセスのデジタル化)
次のステップでは、個別の業務プロセス全体をデジタル技術で効率化・自動化し、最適化を図ります。 デジタイゼーションで蓄積したデータを活用することで、業務のやり方自体を変革していきます。
【具体例】
・生産管理システムを導入し、受注から製造、出荷までを一元管理する
・生産管理システムなどを活用し、部門を跨いだデータ共有や原価情報などの見える化を実現
・IoTセンサーを工作機械に取り付け、稼働状況をリアルタイムで監視・分析し、故障予知に繋げる
・CRM(顧客関係管理)システムを導入し、営業活動や顧客対応の情報を一元化・効率化する
・勤怠管理や経費精算などをクラウドシステムに移行し、間接業務を効率化する
フェーズ4:DX(デジタルトランスフォーメーション:事業・ビジネスモデルの変革)
最終フェーズでは、デジタル技術とデータを活用して、組織全体、さらにはビジネスモデルそのものを変革し、新たな価値を創出します。 これにより、企業の競争優位性を確立することを目指します。
【具体例】
・蓄積した生産データや顧客データを分析し、新たなサービスの開発や製品の改善に繋げる
・顧客がWeb上で製品仕様をカスタマイズして直接発注できるプラットフォームを構築する
・製品の売り切りモデルから、保守・メンテナンスを含むサブスクリプションモデルへ転換する
・サプライチェーン全体をデジタルで繋ぎ、協力会社とのデータ連携によって全体の最適化を図る
現状把握が重要な理由
DXについて調べると、「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「DX」の3つの段階については、よく目にすると思います。今回は、あえて初期段階として「DX準備・構想策定」や「現状把握」の重要なフェーズとして紹介させていただきました。では、なぜ現状把握がDX成功の鍵を握るのでしょうか。その理由を詳しく見てみましょう。
- ●適切なスタートポイントの設定
- 企業によってDXの出発点は異なります。すでにデジタル化が進んでいる企業もあれば、まだ紙ベースの業務が中心の企業もあります。現状を正確に把握することで自社にとって何を必要として、何をゴールにすればいいのかが明確になります。
【現状把握によるメリット】
・無駄な投資を避けることができる
・最も効果的な改善ポイントを特定できる
・現実的なスケジュールを立てることができる
・従業員の理解と協力を得やすくなる - ●多角的な観点からの評価の重要性
- DXの現状把握は、技術面だけでなく、組織、人材、プロセス、文化など多角的な観点から行う必要があります。以下のような分類別に様々な視点から総合的に評価することで、バランスの取れたDX戦略を策定できます。
【評価ポイントのイメージ】
☑ 技術的な準備状況
☑ 組織体制の整備状況
☑ 人材のスキルレベル
☑ 変革に対する意識・文化
☑ 財務的な準備状況 - 無駄な投資を避けるためのロードマップ作成
- DX推進で陥りがちな失敗が、計画性のない投資です。そうした無駄な投資を避けるための道しるべとなるのが、現状把握に基づいたロードマップの作成です。自社の現在地とゴールが明確になることで、段階的な投資計画を立てることができ、各施策のROI(投資対効果)も予測しやすくなります。結果として、投資のリスクを最小限に抑えつつ、一歩ずつ着実に成果を積み重ねていくことが可能となります。
業界動向から見る自社のポジション
自社の置かれている状況を把握する際には、少し視野を広げて、業界全体を眺めてみることも大切です。
DXを例に取ると、取り組み始めたばかりの企業は「何から手をつければ…」と悩むことが多いですが、一歩進んだ企業からは「費用がかさむ」「詳しい人材がいない」といった声が多く聞こえてきます。このように、会社のステージによって課題が変わることを知っておくだけでも、次の一手が見えやすくなります。
また、同業他社や同じくらいの規模の会社が何をしているのかを知ることは、自社の現在地を客観視し、成功のヒントを得る絶好の機会です。他社の取り組みを参考にすることで、より現実的な目標を立てられ、競争の中での自社の強みや弱みを理解することにもつながります。
【他社の取り組みを知るメリット】
・自社のポジションを客観視できる
・成功事例から学ぶことができる
・適切な目標設定ができる
・競争上の立ち位置を理解できる
もちろん、他社の真似をすることがゴールではありません。あくまで自社にとってベストな道筋を見つけるためのヒントとして、周りの動きを活用していく姿勢が重要です。
3.同規模企業の成功事例に学ぶ
理論だけでは実感が湧かないものです。実際に中小製造業でDXに取り組み、成果を上げている企業の事例を見ることで、自社での取り組みのイメージを具体化することができます。
段階別の具体的取り組み事例
DXの各フェーズにおいて、どのような取り組みが効果的なのか、具体的な事例を通じて見てみましょう。
- 【デジタイゼーション事例(アナログ・物理データのデジタルデータ化)】
- 事例A:製造指示書のデジタル化
従来の状況 ・手書きの製造指示書を現場で回覧し、作業完了時に手書きで記録を残す運用
・指示書の紛失や文字の読み間違いによるミスが頻発し、進捗状況の把握が困難改善後の状況 ・タブレット端末を各作業場に配置し、クラウド上の生産管理システムから作業内容を確認可能に
・作業完了時もタブレットで入力し、リアルタイムで進捗が更新されるようになった得られた効果 ・伝達ミスの減少
・リアルタイムでの進捗把握により納期管理の精度が大幅に向上
・過去の作業データを簡単に検索できるようになり、品質改善にも役立っている事例B:在庫管理のバーコード化
従来の状況 ・手書きの台帳で在庫を管理
・月末の棚卸作業に2日以上要していた
・在庫切れや過剰在庫が頻繁に発生し、生産計画に影響あり改善後の状況 ・全ての部品・製品にバーコードを貼付し、ハンディターミナルで入出庫を記録するシステムを導入
・システム内で簡単に在庫一覧や在庫推移を確認可能に得られた効果 ・棚卸時間が短縮され、在庫精度が向上
・適正在庫の維持により運転資金削減 - 【デジタライゼーション事例(業務プロセスのデジタル化)】
- 事例C:生産管理システムでのスケジュール管理
従来の状況 ・ホワイトボードで生産計画を管理
・急な受注変更や設備トラブル時の調整が困難
・各部門の状況把握も属人的で、全社最適化ができていない改善後の状況 ・クラウド型の生産管理システムを導入し、受注から出荷までの全工程を一元管理できるように
・設備の稼働状況や作業者の負荷を見える化し、最適な生産計画が可能に得られた効果 ・伝達ミスの減少
・リアルタイムでの進捗把握により納期管理の精度が大幅に向上
・過去の作業データを簡単に検索できるようになり、品質改善にも役立っている事例D:顧客情報の一元管理
従来の状況 ・営業担当者がそれぞれ個人のExcelファイルで顧客情報を管理し、情報共有ができていない
・担当者不在時の顧客対応や、組織的な営業活動が困難改善後の状況 ・CRM(顧客関係管理)システムを導入し、顧客情報、商談履歴、見積情報を一元管理化
・営業活動の分析機能も活用し、効率的な営業戦略を立てられるようになった得られた効果 ・営業効率の向上
・失注要因の分析により受注率改善
・既存顧客への追加提案機会が増え、売上拡大につながっている - 【DX事例(事業・ビジネスモデルの変革)】
- 事例E:予知保全システムの構築
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従来の状況 ・設備の点検は定期的な目視・聴診によるもので、突発的な故障により生産停止が頻発
・修理費用が予想以上にかかることが多く、コスト管理が困難改善後の状況 ・主要設備にIoTセンサーを設置し、振動、温度、電流値などのデータを常時収集
・AIを活用した異常検知システムにより、故障の予兆を事前に発見し、計画的な保全を実施得られた効果 ・突発故障削減、保全コスト削減
・蓄積されたデータを活用した最適な保全計画で、設備の寿命延長を実現
成功のポイントと注意事項
多くの成功事例から学べる共通のポイントと、失敗を避けるための注意事項をまとめました。
成功企業の共通点
- ●経営者自身がITに関心を持ち、積極的に学習
- 成功している企業の経営者は、自らがITやデジタル技術について学習し、理解を深めています。完全に詳しくなる必要はありませんが、基本的な概念や可能性について理解していることが、適切な判断や投資決定につながっています。
- ●現場スタッフを巻き込んだ段階的な導入
- システムを導入する際は、現場の従業員を最初から巻き込み、意見を聞きながら段階的に進めています。一気に全てを変えるのではなく、小さな成功を積み重ねることで、従業員の理解と協力を得ています。また、全社員やスタッフにDX化の今後の方針や流れを理解してもらう必要があるため、身近な業務から徐々に取り組んでいくなど、アプローチを工夫することで、従業員の理解と協力を得ながら、着実にDXを進めることができます。
(アプローチの例)
・毎日使っている業務から始める
・従業員が困っている業務を優先する
・効果が目に見えやすい業務を選ぶ
・失敗してもリスクの少ない業務から始める - ●明確な目標設定と効果測定の実施
- 「何のためにDXを行うのか」という目標を明確に設定し、定期的に効果を測定しています。投資対効果を数値で把握することで、次の投資判断の精度も向上しています。
よくある失敗パターン
- ●高機能システムを導入したが現場が使いこなせない
- 最新の高機能システムを導入したものの、現場の従業員が使いこなせず、結局以前の方法に戻ってしまうケースがあります。システム選定の際は、機能の豊富さよりも使いやすさを重視することが重要です。
- ●一度に多くの業務を変更して現場が混乱
- DXへの意欲が高すぎて、一度に多くの業務プロセスを変更し、現場が混乱してしまうケースがあります。変化に対する人間の適応能力には限界があるため、段階的な導入が必要です。また、段階的なスケジュールを立て、プロジェクトメンバーだけでなく、社内全体で共有することが大切です。
- ●導入目的が不明確で効果測定ができない
- 「他社もやっているから」「補助金が出るから」という理由だけでシステムを導入し、具体的な効果が測定できないケースがあります。導入前に明確な目標設定と効果測定方法を決めておくことが重要です。
4.中小製造業のDXは「できること」から始めよう
DXという言葉に難しさを感じてしまうのは、「すべてを一気に変えなければならない」と思い込んでしまうからかもしれません。
しかし、多くの中小製造業の成功事例が示しているのは、“身近な課題から一つずつ”取り組むことの大切さです。
例えば、「紙の帳票をデジタルにする」「在庫の見える化をする」「工程の進捗をリアルタイムで共有する」――
どれもDXの第一歩です。
重要なのは、自社の課題を明確にし、それに合った小さな改善から始めること。そして、その成果を積み重ねていくことです。
現場が混乱せず、社員も前向きに取り組めるDXの進め方こそが、持続可能な経営への近道になります。
今の延長線上で、少しでも「できること」が見つかれば、それがDXの一歩へつながります。