データ活用度の『成熟度』診断 – 経営判断の根拠力チェック
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「数字は嘘をつかない」とはよく言われますが、その数字を経営判断に効果的に活用できている中小製造業はまだ多くありません。市場環境の激変、人材不足、競争激化という三重苦の中で、従来の「勘と経験」だけに頼った経営では限界が見えています。
本コラムでは、自社のデータ活用レベルを客観的に診断し、段階的に成熟度を向上させるための具体的な方法をご紹介します。診断チェックリストから実践的な改善策まで、データドリブン経営への転換へつながるヒントが満載です。
データ活用は「やるかやらないか」ではなく、「いつから本格的に始めるか」の問題です。競合他社に先駆けて取り組むことで、確実な競争優位性を築くことができるでしょう。
1.中小製造業のデータ活用の現状と課題
現在の中小製造業を取り巻く環境は、これまでにないほど厳しいものとなっています。しかし、この危機的状況こそが、データ活用による経営革新の絶好の機会でもあります。まずは、なぜ今データ活用が必要なのか、そして多くの企業が直面している共通の課題について詳しく見ていきましょう。
「勘と経験」から「データドリブン経営」への転換点
長年にわたり日本の製造業を支えてきた「匠の技」や「職人の勘」は、確かに貴重な財産です。しかし、急速に変化する市場環境の中では、これらの経験値だけでは対応しきれない局面が増えています。
中小製造業は長年、熟練者の「勘と経験」に基づいた経営判断で成長してきました。しかし、市場環境の急激な変化、人材不足、競争激化といった課題に直面し、従来の手法だけでは限界を感じている企業が増えています。
データドリブン経営とは、直感や経験だけでなく、収集・分析したデータを基に意思決定を行う経営手法です。製造業においては、生産データ、品質データ、コストデータなどを総合的に分析し、より精度の高い経営判断を実現できます。
重要なのは、経験を否定するのではなく、データという客観的な裏付けを得ることで、経験値の精度をさらに高めることです。ベテラン技術者の「何となく調子が悪い」という感覚を、データで定量化できれば、より確実で再現性の高い判断が可能になります。
中小製造業が直面するデータ活用の壁
データ活用の重要性は理解していても、実際に取り組もうとすると様々な壁に直面します。これらの課題を一つずつ解決していくことが、成熟度向上への第一歩となります。
多くの中小製造業では、次のような課題を抱えています。
- ■データの分散・孤立
- 各部門が個別にデータを管理し、全体最適の視点でデータを活用できていない状況です。生産現場では生産日報、品質管理部門では検査データ、営業部門では受注データを別々に管理し、これらを統合した分析ができていません。
この状況は「データサイロ」と呼ばれ、せっかく各部門が貴重なデータを収集していても、それらが有機的に結びつかないため、全社的な課題解決につながらないという問題を生み出しています。 - ■データ分析スキルの不足
- データは蓄積されているものの、それを経営判断に活用できる人材や仕組みが不足しています。ExcelやAccess程度の基本的なツールは使えても、より高度な分析や予測につながる活用ができていないケースが大半です。
特に、「データはあるが活用方法がわからない」「分析結果をどう解釈すればよいかわからない」といった悩みを抱える企業が多く見られます。 - ■システム投資の課題
- 大企業と比較して限られた予算の中で、どのようなシステムに投資すべきか判断に迷う企業が多くあります。高額なシステムを導入しても、使いこなせずに終わってしまうリスクも懸念されます。
「費用対効果が見えない」「投資しても元が取れるか不安」という声は、多くの中小企業経営者から聞かれる共通の悩みです。
なぜ今、データ活用成熟度の診断が必要なのか
闇雲にデータ活用に取り組むのではなく、まず自社の現在地を正確に把握することが成功への近道です。成熟度診断により、限られたリソースを最も効果的に活用する道筋が見えてきます。
データ活用成熟度の診断は、自社の現在地を客観的に把握し、次のステップを明確にするために不可欠です。
【データ活用成熟度の診断メリット】
・自社のデータ活用レベルの客観的把握
・改善すべき優先順位の明確化
・投資対効果の高い施策の特定
・段階的な改善計画の策定
診断なしに取り組みを開始すると、現状にそぐわない高度なシステムを導入してしまったり、基盤が整っていないのに応用的な分析を試みたりして、結果的に失敗に終わるケースが少なくありません。
競合他社との差別化要因としてのデータ活用力
データ活用は、もはや「あれば良い」技術ではなく、生き残りのための「必須」技術となりつつあります。今から取り組むことで、将来の競争優位性を確実に築くことができます。
データ活用力は、今後の競争優位性を決定する重要な要素です。同業他社がまだ本格的にデータ活用に取り組んでいない今こそ、先行者利益を獲得するチャンスといえます。
特に中小企業の場合、大企業と比べて意思決定が迅速で、変化への対応も機敏です。この機動力とデータ活用を組み合わせることで、大企業では実現困難な柔軟で精度の高い経営が可能になります。
2.データ活用成熟度とは?基本概念の理解
データ活用成熟度を正しく理解することは、効果的な改善計画を立てる上で欠かせません。ここでは、成熟度の定義から段階別の特徴まで、基本的な概念を詳しく解説します。これらの知識は、後の診断や改善活動の土台となる重要な内容です。
データ活用成熟度の定義と重要性
成熟度という概念は、単にデータを「持っている」か「持っていない」かではなく、そのデータをどれだけ経営に活かせているかを評価する指標です。量より質、そして活用度が重要なポイントとなります。
データ活用成熟度とは、組織がデータを収集・分析・活用して経営判断に活かすレベルを段階的に表現したものです。単にデータを集めるだけでなく、それを意思決定に活用し、継続的な改善につなげる能力を総合的に評価します。
この成熟度の概念が重要なのは、データ活用が一朝一夕に実現できるものではなく、段階的な発展を経て高度なレベルに到達するものだからです。現在のレベルを正確に把握することで、次に取り組むべき課題が明確になり、効率的な改善が可能になります。
製造業における「経営判断の根拠力」の意味
製造業特有の複雑な業務プロセスにおいて、データに基づいた判断がなぜ重要なのか。ここでは「根拠力」という概念を通じて、データ活用の本質的な価値を理解していきます。
製造業の経営判断において「根拠力」とは、以下の要素を含みます。
- ①客観性
- 〈主観的な判断ではなく、データに基づいた客観的な判断〉
感情や先入観に左右されることなく、事実に基づいた冷静な判断を行うことができます。特に厳しい経営環境では、感情的な判断が経営を危機に陥れることもあるため、客観性は極めて重要です。 - ②再現性
- 〈同じ条件下で同じ結果を得られる判断プロセス〉
優秀な管理者が異動や退職をしても、同様の品質で経営判断を継続できる仕組みを構築できます。これは、人材の流動化が進む現代において特に重要な要素です。 - ③説明可能性
- 〈判断の理由を明確に説明できること〉
社内外のステークホルダーに対して、判断の根拠を論理的に説明できることは、信頼性の向上と合意形成の促進につながります。 - ④予測可能性
- 〈過去のデータから将来の動向を予測できること〉
変化の激しい市場環境において、将来を見据えた戦略的な判断を行うためには、データに基づいた予測が不可欠です。
成熟度レベル別の特徴(5段階モデル)
成熟度は5つの段階に分かれており、各段階には明確な特徴があります。重要なのは、どの段階も価値があり、段階を飛ばして進むことは困難だということです。着実に一歩ずつ進むことが成功への近道です。
- レベル1:データ収集段階
- 特徴:「記録して保存」の段階
基本的なデータ収集は行っているが、活用は限定的。売上データや生産数量など、最低限の数値管理のみ。この段階では、データを「記録する」ことが主目的となっています。法的要求や慣習により各種データを保存しているものの、それらを経営判断に活用するという発想はまだ希薄です。
(具体例)
・月次売上レポートをExcelで手作業集計
・製造現場:生産工程の進捗状況を紙の帳票で記録
・小売業:POSデータの基本集計(日次・月次売上)のみ
・法的要求(税務、労務管理)による最低限のデータ保存
(課題)
・データはあるが「なぜこの数字なのか」が分からない
・過去データとの比較や傾向分析ができない
・部門ごとにデータがバラバラに保存されている - レベル2:基本分析段階
- 特徴:「見える化」の段階
収集したデータの基本的な分析を実施。月次・四半期レポートの作成、前年対比などの比較分析。データの「見える化」が始まる段階です。Excelなどのツールを使った基本的なグラフ作成や集計作業により、数値の変化やトレンドを把握できるようになります。
(具体例)
・売上推移グラフや前年同月比の作成
・製造業:稼働率の低い機械を特定し、基本的な改善案検討
・小売業:商品別・店舗別売上ランキングの作成
・顧客満足度調査の結果を集計・グラフ化
(活用ツール)
・Excel、Google Sheets
・基本的なBIツール(Tableau、Power BI入門レベル)
・生産管理システムなどの専門ツール
(成果)
・数値の変化や課題が「見える」ようになる
・「良い・悪い」の判断ができるようになる - レベル3:予測活用段階
- 特徴:「戦略的思考」の段階
過去のトレンドから将来予測を実施。需要予測や生産計画にデータを活用。過去から現在を分析するだけでなく、将来に向けた「戦略的思考」が加わる段階です。データに基づいた計画立案により、より精度の高い経営が可能になります。
(具体例)
・製造業:機械の稼働状況をリアルタイムで監視して突然の機械故障による生産停止を防ぐ
・小売業:季節要因を考慮した需要予測による適正在庫管理
・顧客行動分析による商品推奨システムの導入
・ABC分析による重要顧客の特定と優先的なフォロー
(活用ツール・技術)
・統計分析(回帰分析、時系列分析)
・機械学習の初歩的活用
・予測モデルの構築
(成果)
・「なぜそうなるのか」が分かるようになる
・データに基づいた将来計画が立てられる - レベル4:組織統合段階
- 特徴:「全体最適」の段階
部門横断でのデータ共有・活用を実現。全社的な視点でのデータドリブン経営を推進。個別最適から全体最適への転換が図られる段階です。各部門がバラバラに行っていたデータ活用を統合し、シナジー効果を生み出すことができます。
(具体例)
・製造業:顧客の訪問履歴や商談進捗を一元管理し、全社員がリアルタイムで情報共有
・小売業:CDPを導入することで、IDを1つにして複数のチャネルで収集した顧客データを統合
・マーケティング・営業・製造・物流部門のデータ連携による顧客体験向上
・小売の業務データ(在庫・売上・発注)と卸の業務データ(在庫・入出荷・商品毎の発注ロット)に加え、天候データやカレンダー情報を入力値として機械学習モデルを構築
(技術基盤)
・データウェアハウス・データレイク構築
・API連携による自動データ統合
・高度なBI・分析プラットフォーム
(成果)
・部門の壁を越えた最適化が可能
・顧客視点での一貫したサービス提供 - レベル5:継続改善段階
- 特徴:「自己進化」の段階
データ活用による改善効果を測定・評価し、継続的な改善サイクルを構築。データ活用自体の効果を測定し、さらなる改善につなげる「メタ分析」が可能になる最高段階です。データ活用が企業文化として定着し、継続的な競争優位性を生み出します。
(具体例)
・製造業:センサーによる製造現場データの発掘、クラウドやデータベースによるデータの収集と統合、AIを含む各種分析ツールによるデータの見える化と分析、そして分析結果を元にした価値提供という4つのステップのサイクル
・小売業:データ活用から誕生したスマートショッピングカートを導入し、人の流れや棚にある商品の読み取りを行うリテールAIカメラなどの導入
・データ活用内製化により、自社のビジネスや業務を理解している人間が分析することで、分析のための分析に留まらない高度な分析を可能にする
・A/Bテストによる施策効果の科学的検証
(組織能力)
・データサイエンティスト・分析人材の内製化
・データ品質管理・ガバナンス体制の確立
・データ活用効果の定量測定システム
(成果)
・データ活用自体の効果を測定・改善する「メタ分析」
・継続的な競争優位性の創出
・データ駆動による新事業・新サービスの創出
自社の現在地を知ることの価値
現在地を知ることは、目的地への最短ルートを見つけるために不可欠です。過大評価も過小評価も、効果的な改善計画の妨げとなります。正確な現状把握こそが、成功への第一歩なのです。
自社の成熟度レベルを正確に把握することで、以下の効果が期待できます。
- 現実的な目標設定が可能になる
- 過度に高い目標設定は挫折の原因となり、低すぎる目標は成長の機会を逸します。現状に応じた適切な目標設定により、着実な成長を実現できます。
- 必要な投資規模と期間が明確になる
- 無駄な投資を避け、本当に必要な分野に集中的にリソースを投入できます。また、成果が出るまでの期間も予測できるため、関係者の理解と協力を得やすくなります。
- 社内のコンセンサス形成がしやすくなる
- 客観的な診断結果に基づいて議論することで、感情的な対立を避け、建設的な議論が可能になります。
- 成功確率の高い改善計画を策定できる
- 過去の成功事例と自社の現状を照らし合わせることで、実現可能性の高い改善計画を立てることができます。
3.【簡易診断ツール】データ活用成熟度チェックリスト
いよいよ実際の診断に入ります。この章では、具体的なチェックリストを使って自社のデータ活用成熟度を測定します。正直に回答することが重要です。現状を美化せず、ありのままの状態を評価することで、真に有効な改善策を見つけることができます。
基本データ収集・管理レベルの診断
すべてのデータ活用は、質の高いデータ収集から始まります。この段階での基盤がしっかりしていないと、どんなに高度な分析ツールを導入しても期待した成果は得られません。
以下の項目について、該当するものにチェックを入れてください。
- データ収集の基盤
- これらの項目は、データ活用の土台となる基本的なインフラに関するものです。どんなに高度な分析を行っても、元となるデータの品質が低ければ意味のある結果は得られません。
□ 生産データ(日報、月報)を定期的に記録している
□ 品質データ(不良率、検査結果)を体系的に管理している
□ 売上データ以外の業務データも収集している
□ データの入力ルールやフォーマットが統一されている
□ デジタル形式でのデータ保存を行っている
多くの企業では生産日報を作成していますが、その内容や形式が作業者によってバラバラというケースがよく見られます。標準化されたフォーマットで一貫したデータを収集することが、後の分析の精度を大きく左右します。 - データ品質の確保
- データの量よりも質が重要です。不正確なデータに基づいた分析は、誤った結論を導く危険性があります。データ品質の管理は、信頼性の高い分析を行うための必須条件です。
□ データの正確性をチェックする仕組みがある
□ 欠損データや異常値の処理方法が決まっている
□ データのバックアップを定期的に取っている
□ 過去データの検索・参照が容易にできる
□ データの更新履歴を管理している
特に重要なのは、異常値の処理方法です。製造現場では機械の調子や作業者の体調などにより、時として通常とは大きく異なるデータが記録されることがあります。これらを適切に処理する仕組みがあるかどうかで、分析の信頼性が大きく変わります。
分析・可視化レベルの診断項目
データを収集するだけでは意味がありません。それを分析し、理解しやすい形で可視化することで、初めて価値のある情報となります。この段階では、基本的な分析スキルと可視化技術が問われます。
- 基本分析の実施
- 分析は複雑である必要はありません。基本的な集計や比較分析でも、継続的に実施することで多くの気づきを得ることができます。重要なのは、定期的に実施し、結果を蓄積していくことです。
□ 月次・四半期での実績分析を行っている
□ 前年同期比較などのトレンド分析を実施している
□ 工程別の効率性分析を行っている
□ 不良率や歩留まりの分析を定期的に実施している
□ コスト分析(材料費、労務費、間接費)を行っている
工程別の効率性分析は、製造業において特に重要です。全体の生産性が低下している場合、どの工程がボトルネックになっているかを特定することで、効果的な改善策を立てることができます。 - 可視化・レポート作成
- 数値の羅列では、多くの人にとって理解しにくいものです。グラフや表を活用した可視化により、データの持つ意味を直感的に理解できるようになります。また、異常値の発見も容易になります。
□ グラフや表を活用した分析結果の可視化を行っている
□ 経営陣向けのダッシュボードを作成している
□ 現場向けの分析レポートを定期的に提供している
□ 異常値や問題点を自動的に検知できる仕組みがある
□ リアルタイムでの状況把握ができる
経営陣向けのダッシュボードと現場向けのレポートでは、必要な情報や表現方法が異なります。それぞれの対象者に適した形で情報を提供することが、データ活用の効果を最大化するポイントです。
予測・計画立案レベルの診断
過去と現在の分析から一歩進んで、将来を予測し、それに基づいた計画を立てることができれば、より戦略的な経営が可能になります。この段階では、統計的な手法や予測モデルの活用が重要になります。
- 将来予測の実施
- 予測は完璧である必要はありません。重要なのは、一定の精度で将来を予測し、それに基づいて計画を立てることです。予測が外れることもありますが、その経験も次の予測精度向上に活かすことができます。
□ 過去のトレンドから将来予測を立てている
□ 需要予測に基づいた生産計画を策定している
□ 季節変動や市場動向を考慮した予測を行っている
□ 予測精度を定期的に検証・改善している
□ 複数のシナリオを想定した予測を実施している
製造業では、需要の変動に応じて生産量を調整する必要があります。精度の高い需要予測により、過剰在庫や品切れのリスクを減らし、キャッシュフローの改善にもつながります。 - 計画との対比・分析
- 計画を立てるだけでなく、実績との差異を分析し、次の計画に活かすことが重要です。このPDCAサイクルにより、予測精度と計画の実効性が継続的に向上します。
□ 計画と実績の差異分析を定期的に行っている
□ 差異の原因分析と改善策の検討を実施している
□ 予測精度の向上に向けた取り組みを行っている
□ 計画の見直し・修正を適切なタイミングで実施している
差異分析では、単に「予測が外れた」で終わらせるのではなく、なぜ外れたのか、どのような要因が影響したのかを詳しく分析することが重要です。この分析結果が、次回以降の予測精度向上につながります。/dd>
組織横断・共有レベルの評価
個人や部門レベルでのデータ活用から、組織全体でのデータ活用へと発展させることで、大きなシナジー効果を生み出すことができます。ここでは、組織としてのデータ活用能力を評価します。
- 部門間連携
- 製造業では、営業、生産、品質管理、物流など、複数の部門が連携して業務を進めます。これらの部門間でデータを共有し、全体最適の視点で判断することが重要です。
□ 部門横断でのデータ共有を行っている
□ 全社的な視点でのデータ分析を実施している
□ 各部門の担当者がデータを共通理解している
□ データに基づいた部門間の調整を行っている
□ 経営会議でデータに基づいた議論を行っている
例えば、営業部門の受注予測データを生産部門が活用して生産計画を立て、その計画に基づいて購買部門が材料調達を行うといった連携が理想的です。 - 情報共有の仕組み
- データを活用した成果や知見を組織全体で共有することで、全社的なデータ活用レベルの向上を図ることができます。また、現場からの貴重な情報を経営判断に活かす仕組みも重要です。
□ データ分析結果を全社で共有する仕組みがある
□ 現場からのデータフィードバックを収集している
□ 改善提案にデータを活用している
□ 成功事例やベストプラクティスを共有している
現場の作業者は、データには現れない貴重な情報を持っています。これらの定性的な情報とデータを組み合わせることで、より精度の高い分析が可能になります。
改善サイクル・効果測定レベルの確認
データ活用の最終的な目的は、継続的な改善による業績向上です。改善効果を適切に測定し、次の改善につなげるサイクルを構築することが、データ活用の真価を発揮させるポイントです。
- 改善効果の測定
- 改善活動を行った際には、その効果を定量的に測定することが重要です。感覚的な評価だけでは、本当に効果があったのか、どの程度の効果があったのかを正確に把握することができません。
□ 改善施策の効果を数値で測定している
□ 改善前後の比較分析を行っている
□ ROI(投資対効果)の算出を行っている
□ 改善効果の持続性を追跡している
□ 改善効果を次の施策に活かしている
特に重要なのは、一時的な効果ではなく、持続的な効果があることを確認することです。改善後しばらくしてから元に戻ってしまうことも多いため、継続的なモニタリングが必要です。 - 継続改善の仕組み
- 単発の改善活動ではなく、継続的に改善を行う仕組みを構築することで、長期的な競争優位性を築くことができます。PDCAサイクルを回し続けることが、組織の成長エンジンとなります。
□ PDCAサイクルにデータを活用している
□ 定期的な改善活動にデータ分析を組み込んでいる
□ 改善活動の成果を定量的に評価している
□ 改善活動の優先順位をデータで決定している
□ 改善活動の成果を社内で共有している
改善活動の優先順位をデータで決定することは、限られたリソースを最も効果的に活用するために重要です。感情的な判断や声の大きい人の意見に左右されることなく、客観的なデータに基づいて判断することができます。
診断結果の読み方と活用法
診断が完了したら、結果を正しく解釈し、次のアクションにつなげることが重要です。得点の高低だけでなく、どの分野が強く、どの分野に課題があるかを分析することで、効果的な改善計画を立てることができます。
- 得点の算出方法
- 各項目を公平に評価するため、以下の配点で計算します。この配点は、各段階の重要度を考慮して設定されています。
基本データ収集・管理:10項目×2点=20点
分析・可視化:10項目×2点=20点
予測・計画立案:9項目×2点=18点
組織横断・共有:9項目×2点=18点
改善サイクル・効果測定:10項目×2点=20点
合計:96点満点
各分野の得点を個別に見ることで、自社の強みと弱みを把握することができます。すべての分野で均等に点数を取る必要はありません。まずは基盤となる分野から着実に改善していくことが重要です。 - 成熟度レベルの判定
- 総合得点に基づいて、以下のように成熟度レベルを判定します。ただし、総合点だけでなく、各分野のバランスも考慮することが重要です。
80-96点:レベル5(継続改善段階)
60-79点:レベル4(組織統合段階)
40-59点:レベル3(予測活用段階)
20-39点:レベル2(基本分析段階)
0-19点:レベル1(データ収集段階)
例えば、総合点は高くても、基本データ収集・管理の得点が低い場合は、土台が不安定な状態と判断できます。この場合は、まず基盤の強化から取り組むことが効果的です。
4.成熟度レベル別の特徴と改善ポイント
診断結果を受けて、自社のレベルに応じた具体的な改善策を理解することが重要です。段階を飛ばさず、着実にステップアップすることが成功の鍵となります。
レベル1「データ収集段階」
レベル1の企業は、データ活用の入り口に立った状態です。基本的な記録は行っているものの、それを経営に活かすという発想がまだ十分に育っていません。しかし、この段階にある企業にとって、改善の伸び代は非常に大きいといえます。
- 現状の特徴
- ・基本的な売上データや生産数量の記録はあるが、活用は限定的
・手書きの日報や帳票による管理が中心
・データの分析よりも記録・保存が主目的
・経営判断は経験と勘に依存手書きの日報も、継続的に記録されていれば貴重なデータソースとなります。問題は、それらが活用されていないことです。多くの場合、法的要求や慣習により記録を続けているものの、そこから価値を引き出すという視点が不足しています。
- 課題
- ・データの形式がバラバラで分析が困難
・過去データの検索・参照に時間がかかる
・データ入力の精度にばらつきがある
・データを活用する意識が低い特に深刻なのは、データの形式が統一されていないことです。作業者によって記録方法が異なると、後で集計や分析を行う際に大きな手間がかかります。また、データの意味や定義が曖昧な場合も多く、同じ項目でも人によって解釈が異なることがあります。
- 次のステップ
- レベル1からレベル2への移行には、以下の取り組みが効果的です。重要なのは、一度にすべてを変えようとせず、段階的に改善していくことです。
[1]データ入力の標準化とデジタル化
まず手書きの記録をデジタル化し、統一されたフォーマットでデータを収集する仕組みを構築します。ExcelやGoogleスプレッドシートなどの基本的なツールから始めることで、初期投資を抑えながら効果を実感できます。
[2]基本的な分析ツール(Excel等)の活用
収集したデータを使って、簡単な集計やグラフ作成を行います。月次の売上推移や生産数量の変化など、基本的な分析から始めることで、データの価値を実感できます。
[3]定期的なデータ分析の習慣化
月1回程度、定期的にデータを振り返る時間を設けます。この習慣により、データを見る目が養われ、異常値や傾向の変化に気づきやすくなります。
[4]データ活用の意識向上研修
経営陣から現場まで、全社的にデータ活用の重要性を理解する研修を実施します。成功事例の共有や外部講師による講演なども効果的です。
レベル2「基本分析段階」
レベル2に到達した企業は、基本的な分析を行える段階にあります。しかし、分析結果を十分に活用しきれていない、各部門でのデータ活用が分散しているなどの課題を抱えています。この段階では、分析の質の向上と活用範囲の拡大が重要になります。
- 現状の特徴
- レベル2の企業では、データ活用の基礎的な取り組みが定着しています。ただし、まだ十分な効果を発揮していない段階でもあります。
(具体例)
・月次・四半期レポートの作成が習慣化
・前年対比などの基本的な比較分析を実施
・Excelを活用した簡単なグラフ作成
・部門単位でのデータ分析
この段階の企業では、データを「見る」ことはできているものの、そこから「気づき」を得て「行動」につなげるまでには至っていないケースが多く見られます。 - 課題
- レベル2の企業が直面する課題は、主に分析結果の活用と組織的な取り組みに関するものです。
・分析結果の活用が限定的
・各部門でデータが分散している
・将来予測までは実施できていない
・改善効果の測定が不十分
「分析結果の活用が限定的」という課題は、多くのレベル2企業に共通しています。グラフや表は作成できるものの、そこから具体的な改善策を導き出し、実行に移すまでのプロセスが確立されていません。 - 次のステップ
- これらの課題を解決するためには、以下の取り組みが効果的です。
[1]分析結果を経営判断に活用する仕組み作り
定期的な経営会議において、データ分析結果を必ず議題に含めるルールを作ります。また、重要な経営判断を行う際には、根拠となるデータの提示を義務付けることも効果的です。
[2]部門横断でのデータ共有体制の構築
各部門が持つデータを統合し、全社的な視点で分析できる体制を構築します。定期的なデータ共有会議の開催や、共通のデータベースの構築などが考えられます。
[3]基本的な予測分析手法の導入
過去のデータを活用した簡単な予測分析を開始します。移動平均法や回帰分析など、基本的な手法から始めることで、将来志向の思考を育てることができます。
[4]改善効果測定の仕組み整備
改善活動を行った際の効果を定量的に測定する仕組みを構築します。改善前後の数値を比較し、効果の有無を客観的に評価できるようにします。
レベル3「予測活用段階」への到達方法
レベル3は、データ活用が戦略的な経営ツールとして機能し始める重要な段階です。過去の分析から将来の予測へと発展することで、より先手を打った経営が可能になります。この段階への到達には、技術的なスキル向上と組織的な取り組みの両方が必要です。
- 目標となる状態
- レベル3に到達すると、以下のような状態を実現できます。これらは、競合他社との差別化要因として大きな価値を持ちます。
・過去のトレンドから将来予測を実施
・需要予測に基づいた生産計画策定
・予測精度の継続的な改善
・データに基づいた意思決定の浸透
特に重要なのは、予測に基づいた意思決定が組織全体に浸透することです。単に予測を行うだけでなく、その予測を信頼し、それに基づいて行動する文化が醸成される必要があります。 - 到達方法
- レベル3への到達には、以下の3つの要素が重要になります。
[1]予測モデルの構築
統計的な手法を活用した予測モデルを構築します。最初は単純な手法から始めて、徐々に精度を向上させていきます。
・移動平均法や回帰分析などの基本的な予測手法の習得
これらの手法は、統計の専門知識がなくても理解しやすく、Excelなどの一般的なツールで実現可能です。
・季節変動や市場動向を考慮した予測モデルの作成
製造業では季節による需要変動が大きい場合があります。これらの要因を考慮したより精度の高い予測モデルを作成します。
・予測精度の検証と改善プロセスの確立
予測は外れることもあります。重要なのは、なぜ外れたかを分析し、次回の予測精度向上につなげることです。
[2]システム基盤の整備
予測分析を効率的に行うためのシステム基盤を整備します。
・データ統合のためのツール導入
各部門に分散しているデータを統合し、分析しやすい形で管理するツールを導入します。
・予測分析に適したソフトウェアの選定
Excelよりもさらに高度な分析が可能なソフトウェアの導入を検討します。R、Python、BIツールなどの選択肢があります。
・リアルタイムデータ収集システムの構築
予測精度の向上には、リアルタイムでのデータ収集が重要です。IoTセンサーなどを活用したデータ収集システムの構築を検討します。
[3]人材育成
予測分析を行うための人材育成も重要な要素です。
・データ分析スキルの向上研修
統計学の基礎知識や分析ツールの使い方など、実務に直結するスキルの研修を実施します。
・予測分析の実務経験の蓄積
研修だけでなく、実際の業務において予測分析を行う経験を積ませることが重要です。
・外部専門家との連携体制構築
社内だけでは限界がある場合は、外部のコンサルタントや大学との連携により、専門知識を補完します。
レベル4「組織統合段階」の実践ポイント
レベル4は、個別最適から全体最適への大きな転換点となる段階です。各部門がバラバラに行っていたデータ活用を統合し、組織全体のシナジー効果を生み出すことが目標となります。この段階では、技術的な側面よりも組織的な側面が重要になります。
- 実現すべき状態
- レベル4では、データ活用が組織の DNA として機能する状態を目指します。
・部門横断でのデータ共有・活用
・全社的な視点でのデータドリブン経営
・経営会議でのデータに基づいた議論
・データ活用文化の浸透
この段階では、「データがないと判断できない」という状況から、「データに基づいて判断するのが当然」という文化への転換が図られます。 - 実践ポイント
- レベル4の実現には、以下の3つの要素が重要です。
[1]データガバナンスの確立
組織全体でデータを適切に管理・活用するためのルールと体制を構築します。
・データの定義・形式の統一
同じ項目でも部門によって定義が異なることがないよう、全社統一のデータ辞書を作成します。
・データ品質管理の体制整備
データの正確性を保つための仕組みと責任体制を明確にします。
・アクセス権限の適切な管理
機密性の高いデータについては、適切なアクセス権限を設定し、セキュリティを確保します。
[2]組織体制の整備
データ活用を推進するための組織体制を構築します。
・データ活用推進チームの設置
全社的なデータ活用を推進するための専門チームを設置し、各部門との調整を行います。
・各部門のデータ責任者の任命
各部門にデータ活用の責任者を任命し、部門間の連携を強化します。
・定期的なデータ活用会議の開催
月1回程度、データ活用の成果や課題を共有する会議を開催します。
[3]システム統合
各部門のシステムを統合し、データの一元管理を実現します。
・ERP等の統合システム導入
販売管理、生産管理、財務管理などのシステムを統合し、データの連携を図ります。
・データウェアハウスの構築
各システムのデータを統合して蓄積するデータウェアハウスを構築します。
・BIツールの活用
蓄積されたデータを分析・可視化するためのBIツールを導入します。
レベル5「継続改善段階」を目指すための戦略
レベル5は、データ活用の最高段階であり、継続的な競争優位性を生み出す段階です。この段階では、データ活用自体を改善の対象とし、より高度で効果的な活用方法を追求し続けます。
- 最高レベルの特徴
- レベル5の企業では、以下のような特徴が見られます。
・データ活用による改善効果の定量的測定
・継続的な改善サイクルの確立
・データドリブン経営の完全な実現
・競合他社との明確な差別化
この段階では、データ活用が「特別な取り組み」ではなく、「当たり前の経営活動」として完全に定着しています。 - 到達戦略
- 次のステップ
- レベル5への到達には、以下の戦略的アプローチが必要です。
[1]改善効果の見える化
データ活用による改善効果を明確に可視化し、その価値を組織全体で共有します。
・KPIの設定と定期的な測定
データ活用の効果を測る具体的な指標を設定し、定期的に測定します。
・改善前後の比較分析
改善活動の前後でデータを比較し、効果を定量的に評価します。
・ROI計算の徹底
データ活用への投資に対する収益効果を正確に算出し、投資判断の根拠とします。[2]継続改善の仕組み化
改善活動を一時的なものではなく、継続的なプロセスとして定着させます。
・PDCAサイクルの完全な実行
計画-実行-検証-改善のサイクルを確実に回し続ける仕組みを構築します。
・改善活動の優先順位付け
限られたリソースを最も効果的に活用するため、データに基づいて改善活動の優先順位を決定します。
・成功事例の水平展開
一つの部門で成功した取り組みを、他の部門にも展開する仕組みを構築します。[3]イノベーションの創出
従来の枠を超えた新しい取り組みにチャレンジします。
・AIや機械学習技術の活用
人工知能や機械学習技術を活用し、より高度な分析や予測を実現します。
・新しい分析手法の導入
業界の最新動向を常にキャッチアップし、新しい分析手法を積極的に導入します。
・業界のベストプラクティス研究
他社や異業種の成功事例を研究し、自社への応用可能性を検討します。
5.実践的なデータ活用成熟度向上施策
理論的な理解から実践へと移る段階です。この章では、各成熟度レベルに応じた具体的な施策を詳しく解説します。予算や人員などの制約がある中小製造業でも実現可能な、現実的で効果的な改善策を中心にご紹介します。
段階別システム導入・整備の進め方
システム導入は、成熟度向上の重要な手段ですが、一度に高度なシステムを導入しても失敗のリスクが高まります。段階的なアプローチにより、着実に効果を実感しながら進めることが成功の秘訣です。
レベル1→2への移行施策
この段階では、デジタル化の基盤を築くことが最優先です。高額な投資は必要なく、既存のツールを活用した効率化から始めることができます。
- 基本的なデータベースシステムの導入
- AccessやExcelのデータベース機能を活用し、手書きの記録をデジタル化します。クラウドベースのサービス(Google Workspace、Microsoft 365など)を利用することで、初期費用を抑えながら複数人でのデータ共有が可能になります。
- Excel活用スキルの向上
- 多くの企業で既に導入されているExcelですが、その機能を十分に活用できていないケースが多く見られます。関数、ピボットテーブル、グラフ作成などの機能を習得することで、大幅な効率化が可能です。
- データ入力の標準化・自動化
- バーコード読み取りや入力フォームの活用により、データ入力の精度向上と効率化を図ります。最初は簡単な在庫管理などから始めて、徐々に対象を拡大していきます。
- 定期レポート作成の仕組み化
- 月次や週次でのレポート作成を習慣化し、データを見ることを当たり前にします。最初は簡単な集計から始めて、徐々にグラフや比較分析を加えていきます。
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レベル2→3への移行施策
基本的な分析ができるようになったら、次は予測や高度な分析に挑戦します。この段階では、統計的な手法の導入と分析スキルの向上が重要になります。
- 統計分析ツールの導入
- Excelのアドイン機能や、R、Pythonなどの統計ソフトウェアの導入を検討します。最初は無料のツールから始めて、必要に応じて有料版への移行を検討します。
- 予測モデル構築の支援
- 外部の専門家やコンサルタントの支援を受けながら、需要予測や設備故障予測などの基本的な予測モデルを構築します。
- データ可視化ツールの活用
- TableauやPower BIなどの可視化ツールを導入し、データを直感的に理解できるダッシュボードを作成します。
- 分析結果の経営への活用
- 分析結果を経営会議で定期的に報告し、データに基づいた意思決定を習慣化します。
レベル3→4への移行施策
この段階では、組織横断でのデータ活用を実現するためのシステム統合が重要になります。投資規模も大きくなるため、慎重な計画が必要です。
- ERP・BIツールの導入
- 販売管理、生産管理、財務管理などのシステムを統合するERPシステムの導入を検討します。中小企業向けのクラウドERPであれば、比較的少ない投資で導入が可能です。
- データウェアハウスの構築
- 各システムのデータを統合して蓄積するデータウェアハウスを構築します。最初はシンプルなデータベースから始めて、徐々に機能を拡張していきます。
- 部門横断システムの整備
- 各部門が独立して使用していたシステムを連携させ、データの一元管理を実現します。
- リアルタイム分析環境の構築
- IoTセンサーなどを活用してリアルタイムでデータを収集し、即座に分析できる環境を構築します。
レベル4→5への移行施策
最高レベルでは、AI・機械学習技術の活用や、継続的な改善システムの構築が重要になります。
- AI・機械学習プラットフォームの導入
- TensorFlowやAWSの機械学習サービスなどを活用し、より高度な分析や予測を実現します。
- 高度な分析ツールの活用
- 統計解析ソフトウェアやデータマイニングツールを活用し、従来では発見できなかった知見を抽出します。
- 自動化・最適化システムの構築
- 機械学習を活用した自動化システムや最適化システムを構築し、人間の判断を支援します。
- 継続改善システムの整備
- 改善効果を自動的に測定し、次の改善策を提案するシステムを構築します。
現場データ収集の効率化手法
製造現場でのデータ収集は、データ活用の起点となる重要な活動です。しかし、作業者の負担を増やすことなく、効率的にデータを収集することが課題となります。ここでは、現場の実情に合わせた実用的な手法をご紹介します。
- IoTセンサーの活用
- IoT(Internet of Things)技術の普及により、製造現場でのデータ収集が大幅に効率化されています。投資対効果を考慮した段階的な導入が重要です。
生産ラインにセンサーを設置し、自動的にデータを収集します。温度、湿度、振動、電力消費量などのデータをリアルタイムで取得できます。
最初は既存設備への後付けが可能な簡易センサーから始めることをお勧めします。無線通信機能付きの温度センサーや振動センサーは、比較的安価で導入でき、すぐに効果を実感できます。データはクラウド上に蓄積され、スマートフォンやパソコンから確認できるため、リモート監視も可能になります。 - バーコード・QRコードシステム
- バーコードやQRコードを活用したデータ収集は、導入コストが安く、すぐに効果を実感できる手法の一つです。
製品や部品にバーコードを付け、各工程での進捗を自動記録します。手作業による入力ミスを削減し、トレーサビリティを向上させます。
具体的には、各工程にバーコードリーダーを設置し、作業開始時と完了時にバーコードをスキャンすることで、作業時間や進捗状況を自動的に記録できます。スマートフォンアプリを活用すれば、専用のリーダーを購入する必要もありません。 - タブレット端末の活用
- 従来の紙ベースの記録をデジタル化する効果的な方法として、タブレット端末の活用があります。
現場作業者がタブレット端末を使って直接データを入力できる環境を整備します。紙の日報を削減し、リアルタイムでのデータ収集を実現します。
タブレット端末には、作業手順書も表示できるため、作業の標準化にも貢献します。また、写真や動画での記録も可能になり、品質管理や技術継承にも活用できます。防塵・防水仕様のタブレットを選ぶことで、製造現場の厳しい環境でも安心して使用できます。 - 画像認識技術の導入
- 近年、画像認識技術の精度向上とコストダウンにより、製造現場での活用が現実的になってきました。
カメラで撮影した画像から自動的に品質データを取得します。目視検査の自動化により、検査精度の向上と効率化を同時に実現できます。
例えば、製品の外観検査において、従来は作業者が目視で行っていた傷や汚れの検出を、カメラと画像認識ソフトウェアで自動化できます。最初は簡単な良否判定から始めて、徐々に複雑な検査項目に拡張していくことが可能です。
部門横断データ共有の仕組み作り
各部門が個別に管理しているデータを統合し、全社的な視点で活用することは、大きなシナジー効果を生み出します。しかし、部門間の利害関係や文化の違いを乗り越える必要があり、技術的な側面だけでなく、組織的な取り組みが重要になります。
- データ共有プラットフォームの構築
- 技術的な基盤として、各部門のデータを統合できるプラットフォームの構築が必要です。
各部門が入力したデータを一元管理し、必要に応じて他部門がアクセスできるシステムを構築します。クラウドベースのプラットフォームを活用することで、初期投資を抑えながら導入できます。
Microsoft SharePointやGoogle Workspaceなどのクラウドサービスを活用すれば、比較的簡単にデータ共有環境を構築できます。重要なのは、各部門のニーズを十分に理解し、使いやすいインタフェースを提供することです。 - データ定義の統一
- 技術的な統合だけでなく、データの意味や定義を統一することも重要です。
同じ項目でも部門によって定義が異なる場合があります。全社統一のデータ辞書を作成し、データの意味や計算方法を明確にします。例えば、「売上」という項目でも、営業部門では受注ベース、経理部門では請求ベース、製造部門では出荷ベースで管理している場合があります。これらの違いを明確にし、必要に応じて変換ルールを設定することが重要です。 - 定期的なデータ活用会議の開催
- 組織的な取り組みとして、定期的な会議体の設置が効果的です。
月1回程度、各部門の代表者が集まってデータ分析結果を共有し、課題解決に向けた議論を行います。この会議では、各部門の現状報告だけでなく、部門横断での課題についても議論します。例えば、営業部門の受注予測と生産部門の生産計画の整合性を確認し、必要に応じて調整を行います。 - データ活用成功事例の共有
- 組織の学習能力を高めるため、成功事例の共有は非常に重要です。
他部門の成功事例を全社で共有し、横展開を促進します。社内報やイントラネットを活用して情報発信を行います。また、他社の事例をもとに活用イメージをつけることもよいでしょう。成功事例の共有では、単に結果を報告するだけでなく、そのプロセスや苦労した点、学んだ教訓なども含めて共有することが重要です。これにより、他部門での応用可能性が高まります。
予測分析を経営判断に活かす方法
予測分析は、過去と現在の分析から一歩進んで、将来を見据えた戦略的な経営を可能にします。ただし、予測は不確実性を伴うため、その活用方法には注意が必要です。ここでは、製造業で特に効果的な予測分析の手法とその活用方法をご紹介します。
- 需要予測の活用
- 製造業において最も重要な予測の一つが需要予測です。精度の高い需要予測により、適切な生産計画と在庫管理が可能になります。
過去の受注データ、季節変動、市場動向を分析し、将来の需要を予測します。予測結果に基づいて生産計画を策定し、在庫の最適化を図ります。
需要予測では、過去の実績データだけでなく、外部要因(経済指標、競合動向、原材料価格など)も考慮することが重要です。また、予測期間に応じて異なる手法を用いることも効果的です。短期予測(1-3ヶ月)には移動平均法、中期予測(3-12ヶ月)には回帰分析、長期予測(1-3年)には経済モデルを活用するといった使い分けが考えられます。 - 設備故障予測
- 設備の予防保全は、製造業の生産性向上に直結する重要な取り組みです。データを活用した故障予測により、計画的なメンテナンスが可能になります。
設備の稼働データから異常を検知し、故障前にメンテナンスを実施します。予防保全により、計画外停止を削減し、生産効率を向上させます。設備故障予測では、振動、温度、電流値などの物理的なデータを継続的に監視し、正常時からの変化パターンを学習します。機械学習技術を活用することで、人間では気づきにくい微細な変化も検知できるようになります。 - 品質予測
- 製品品質の予測により、不良品の発生を事前に防ぐことができます。これは、材料費の削減だけでなく、顧客満足度の向上にもつながります。
製造条件と品質の関係を分析し、不良発生の可能性を事前に予測します。製造条件の調整により、品質の安定化と歩留まり向上を実現します。品質予測では、材料の特性、製造環境(温度、湿度など)、設備の設定値などの多様な要因を総合的に分析します。過去の不良発生パターンを学習することで、同様の条件下での不良発生リスクを予測できます。 - コスト予測
- 原材料価格の変動や人件費の上昇など、様々な要因がコストに影響を与えます。コスト予測により、適切な価格戦略と収益管理が可能になります。
材料費、労務費、エネルギーコストなどの変動要因を分析し、将来のコストを予測します。予測結果に基づいて価格戦略や原価低減活動を実施します。コスト予測では、外部要因(原材料価格、為替レート、エネルギー価格など)の影響を考慮することが重要です。これらの要因は企業がコントロールできないため、複数のシナリオを想定した予測を行うことが効果的です。
改善効果の測定・評価システム構築
データ活用の最終的な目的は、継続的な改善による業績向上です。改善効果を適切に測定・評価することで、投資の妥当性を確認し、次の改善につなげることができます。
- KPIの設定
- 改善効果を測定するための指標を明確に設定することが、効果的な評価の前提となります。
改善活動の効果を測定するための指標を明確に設定します。生産性、品質、コスト、納期など、事業に直結する指標を選定します。KPIの設定では、SMART原則(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性、Time-bound:期限設定)に従うことが重要です。例えば、「品質を向上させる」という曖昧な目標ではなく、「不良率を現在の2%から1%以下に3ヶ月以内に削減する」という具体的な目標を設定します。 - ベースライン測定
- 改善効果を正確に評価するためには、改善前の状態を正確に測定することが不可欠です。
改善前の状態を正確に測定し、改善効果を客観的に評価できる基準を設けます。測定方法や条件を統一し、公正な比較を可能にします。ベースライン測定では、一時的な変動に惑わされないよう、十分な期間(通常は3-6ヶ月)のデータを収集します。また、測定条件(時期、環境、作業者など)も記録し、改善後の測定時に同じ条件で比較できるようにします。 - 継続的モニタリング
- 改善効果が一時的なものでないことを確認するため、継続的な監視が必要です。
改善効果が一時的なものでないことを確認するため、継続的にモニタリングを行います。定期的なレビューにより、効果の持続性を検証します。
多くの改善活動では、最初の数ヶ月は効果が見られても、時間が経つにつれて元の状態に戻ってしまう「後戻り現象」が発生します。これを防ぐため、改善後も定期的に指標を監視し、必要に応じて再度改善活動を実施します。 - ROI計算
- 改善活動への投資が適切だったかを判断するため、投資対効果の計算は重要です。
改善投資に対する収益効果を定量的に算出します。投資回収期間や純現在価値などの指標を用いて、投資の妥当性を評価します。ROI計算では、直接的な効果(コスト削減、売上増加など)だけでなく、間接的な効果(品質向上による顧客満足度向上、作業環境改善による離職率低下など)も考慮することが重要です。ただし、間接的な効果は定量化が困難な場合もあるため、可能な範囲で金額換算を試みます。
社内教育・人材育成のポイント
データ活用の成功は、最終的には人材にかかっています。どんなに優れたシステムを導入しても、それを使いこなす人材がいなければ効果は期待できません。継続的な教育・人材育成により、組織全体のデータ活用能力を向上させることが重要です。
- 段階的スキル向上プログラム
- 一度にすべてのスキルを身につけることは困難です。段階的なプログラムにより、着実にスキルアップを図ることが効果的です。
現在のスキルレベルに応じて、段階的にデータ活用スキルを向上させるプログラムを実施します。基礎的なExcel操作から高度な統計分析まで、体系的な教育を行います。
初級レベルでは、Excelの基本操作(関数、ピボットテーブル、グラフ作成など)から始めます。中級レベルでは、統計の基礎知識と基本的な分析手法を学習します。上級レベルでは、機械学習やAI技術の活用方法を習得します。各レベルで実際の業務データを使った演習を行うことで、実践的なスキルを身につけます。 - 実務と連動した研修
- 座学だけでは、実際の業務でスキルを活用することは困難です。実務と連動した研修により、学習効果を最大化できます。
座学だけでなく、実際の業務データを使った実践的な研修を実施します。自社の課題解決に直結する内容とすることで、学習効果を高めます。
例えば、品質管理部門の研修では、実際の不良データを使って不良原因の分析を行います。生産管理部門では、生産データを使った効率分析を実施します。このように、各部門の実際の課題を題材とすることで、研修内容が実務に直結し、受講者のモチベーションも向上します。 - 外部専門家の活用
- 社内だけでは習得が困難な専門知識については、外部の専門家を積極的に活用することが効果的です。
データ分析の専門家を招いた研修や、外部のセミナー・研修への参加を支援します。最新の手法や事例を学ぶ機会を提供します。
大学の研究室との連携により、最新の研究成果を学ぶ機会を設けることも効果的です。また、業界団体が主催するセミナーや勉強会への参加を奨励し、他社の事例を学ぶ機会も提供します。 - 社内データ活用コンテストの開催
- 競争要素を取り入れることで、学習意欲を高め、組織全体のデータ活用レベル向上を図ることができます。
社員のデータ活用スキル向上と意識改革を促進するため、社内でデータ活用コンテストを開催します。優秀な取り組みを表彰し、全社で共有します。
コンテストでは、各部門から1つずつテーマを出し、部門横断のチームで課題解決に取り組みます。最優秀賞には賞金や表彰を設け、モチベーションを高めます。また、すべての取り組みを社内で発表し、知見の共有を図ります。
6.まとめ
データ活用成熟度の向上は、中小製造業にとって競争力強化の重要な鍵となります。本コラムでは、診断ツールによる現状把握から段階的な改善施策まで、実践的なアプローチをご紹介しました。
データ活用の最終目標は、システムの導入ではなく、組織全体にデータドリブンな意思決定文化を根付かせることです。最初は簡単な分析や可視化から始めても、継続的な取り組みにより、必ず組織の競争力向上につながります。
今日からでも始められるデータ入力の標準化や基本分析から第一歩を踏み出し、診断結果に基づいた計画的な成熟度向上により、データに基づいた強い経営基盤を築いてください。データ活用は「特別な取り組み」から「当たり前の経営活動」へと変化し、持続的な競争優位性をもたらすでしょう。
今こそ、データ活用成熟度向上への第一歩を踏み出す時です。「なんとなく蓄積しているデータ」を活用できるよう、明日からでも始められる具体的な取り組みから開始し、継続的な改善により、データに基づいた強い経営基盤を築いてください。