製造業における省エネとは?省エネ対策が必要な理由や導入のポイント
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省エネとは、限りあるエネルギーを効率的に使うことを意味します。近年、限りあるエネルギーを効率的に使う「省エネ」の重要性が一段と高まっており、今では家庭だけではなく、ものづくりの現場を担う製造業にも省エネが求められています。エネルギー使用量が多い業界ほど、運用のしかたによってエネルギーのムダを大きく削減できる可能性があります。その結果、地球温暖化対策への貢献だけでなく、経費削減や企業イメージの向上にもつながるため、省エネ対策の導入が注目されています。本コラムでは「製造業において省エネがなぜ必要か」「主な省エネ対策の種類」「実際に導入するときのポイント」などを解説しながら、導入メリットや今後の展望についてご紹介します。
1.製造業において省エネ対策が必要な理由
製造業界で省エネ対策が必要とされる背景には、法律の改正や環境問題への対応、そしてエネルギー消費量の増加があります。これらの要因を詳しく見ていきましょう。
省エネ法が改正され2023年4月から施行されたため
日本の製造業界は、2023年4月に施行された改正省エネ法により、省エネに関する新たな義務を負うことになりました。この法改正により、一定規模以上の(原油換算で1,500kl/年以上のエネルギーを使用する)事業者は、エネルギーの使用状況等について定期的に報告することが義務付けられました。また、省エネや非化石転換等に関する取組の見直しや計画の策定等を行うことも求められています。
省エネ法は1979年のオイルショックをきっかけとして制定されました。オイルショックとは、1973年に中東戦争をきっかけに石油輸出国機構(OPEC)が原油価格を引き上げ、石油の供給を制限したことで起こった世界的な経済混乱のことです。この出来事により、エネルギーの効率的な利用の重要性が認識され、省エネ法の制定につながりました。
地球温暖化対策推進法(温対法)が成立したため
省エネ法だけでなく、地球温暖化対策推進法(温対法)も製造業に強く関係しています。温対法は、1998年に地球温暖化対策の第一歩として成立し、改正を重ねながら京都議定書の目標達成を確実にするための措置が盛り込まれてきました。
京都議定書とは、地球規模で進む温暖化を防止するため、先進国の温室効果ガス削減目標を定めた国際的な取り決めです。また温対法には、2050年までにカーボンニュートラルを実現する目標も含まれています。カーボンニュートラルとは、CO2などの温室効果ガスの排出量と吸収量が実質的にゼロになる状態を指し、製造業としても積極的に対策を行わなければ社会からの評価を損ないかねません。
エネルギー消費量が増え続けているため
生産活動の活発化や製品の高機能化に伴い、製造業が使用するエネルギー量は一層増加していると考えられます。こうした状況下では、地球温暖化の進行を食い止める取り組みとして、省エネの実施が一層重要になっているのです。加えて、電力コストの上昇が続く中、エネルギー消費量を削減することは企業のコスト削減にもつながる重要な取り組みです。
2.製造業における主な省エネ対策
具体的に製造業が取り組める省エネ対策としては、CO2削減やランニングコストの削減、機器への負担軽減などが挙げられます。そのどれもが、投資したコストを回収できる可能性のある施策であり、環境保全と企業収益の両立を目指すうえで欠かせません。ここでは、主な3つの対策について詳しく説明します。
CO2削減の対策を行う
日本では、2050年までに「カーボンニュートラル」の実現を目指しているため、製造業においてもCO2削減の対策が重要です。具体的には、CO2の排出量と吸収量の差分を実質的にゼロにすることを目標とします。この取り組みは、環境保護に貢献するだけでなく、企業イメージの向上にもつながります。顧客や取引先からの評価が高まり、ビジネスチャンスの拡大にもつながる可能性があります。
日本の製造業がCO₂削減を実現するためには、エネルギー消費量の可視化・最適化から設備投資、業務プロセスや意識改革など、多角的な取り組みが必要です。
【取り組みの一例】
- 〇エネルギー管理と可視化の強化
- ・例)エネルギー使用データの可視化システム(EMS: Energy Management System)の導入
…どの工程でどのくらいのエネルギーを消費しているかを定量的に把握し、改善ポイントを特定
・例)センサーやIoT技術を活用したリアルタイム監視
…工場や設備周辺にセンサーを設置し、温度・湿度・稼働状況などをリアルタイムで監視・分析することで、省エネ施策の効果を高める - 〇設備の高効率化・置き換え
- ・例)古い機器やボイラー、空調設備を高効率な最新鋭機種に更新
…インバータ制御やヒートポンプ技術などを積極的に採用し、大幅なエネルギー削減を狙う
・例)照明のLED化
…工場内照明をLEDに一括置き換えし、人感センサーやスケジューリングシステムと連動させることで無駄な点灯を防ぎ、消費電力を抑える - 〇排熱回収と再利用
- ・例)工場排熱の回収・熱交換システムの導入
…プロセスで発生する高温排熱を熱交換器等で回収し、他の工程の加熱や空調、給湯などに再利用する
・例)ヒートポンプの導入
…低温排熱の有効活用により、熱エネルギーの再利用率を高める - 〇再生可能エネルギーの活用
- ・例)工場屋根や敷地内への太陽光発電システム設置
…自家消費を優先しながら余剰分を売電することで、CO₂排出を抑制するだけでなく電気料金の削減も可能
・例)バイオマスボイラーの検討
…工場立地や排出物の種類によっては、木質チップや有機廃棄物を燃料とするバイオマスボイラーの導入で化石燃料の利用を減らせる
ランニングコストを削減する
省エネ対応の設備は、導入時に多少の初期費用がかかる場合もあります。しかし一旦稼働が始まれば、使用する電力を抑えられるため、長期的にはコストダウンにつながる可能性が大です。さらに補助金や助成金を活用することで、初期費用を効果的に抑えやすくなります。たとえば経済産業省 資源エネルギー庁が提供している「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金」の制度を利用すれば、高効率機器導入や工場設備の省エネ化にかかるコストを軽減できる可能性があります。
【行政支援・補助金の活用例】
- 〇省エネ診断事業や補助金制度の利用
- 経済産業省や地方自治体が提供する補助金や優遇税制、無料の省エネ診断サービスの活用
- 〇国際的認証の取得や環境報告の強化
- ISO 14001取得やCDPへの情報開示など、対外的にも環境意識や省エネへの取り組み姿勢をアピールしやすくなります。
【出典】経済産業省 資源エネルギー庁:補助金
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/support/
設備への負担を軽減する
省エネの視点で稼働状況を見直すと、設備の長寿化にもつながります。定期的なメンテナンスや、使っていない設備のスイッチをオフにするなどの簡単な取り組みでも、設備への負担を軽減することができます。これにより、設備の寿命を延ばし、長期的なコスト削減にもつながります。また、設備の稼働状況を常に把握し、最適な運転管理を行うことで、さらなる省エネ効果が期待できます。
また、製造プロセスの見直しや最適化を図ることで、マテリアルハンドリング(搬送)を削減し、必要以上にエネルギーを消費しない工程配置を検討するなど、工程間のレイアウト変更や自動化による稼働効率向上にも期待できます。
3.省エネ対策を導入する際のポイント
省エネ対策を導入して効果を生むためには、現場の状況を正確に把握し、データと向き合いながら継続的に改善を続ける姿勢が大切です。そのための具体的なステップとして、ぜひ押さえておきたい3つのポイントを以下でご紹介します。
PDCAサイクルを推進する
省エネは一度取り組めば終わりというわけではなく、継続的な改善活動が求められます。そのために有効なのがPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)です。計画を立て(Plan)、実行し(Do)、結果を確認して(Check)、改善を行う(Act)という流れを繰り返すことで、エネルギーの効率化とコスト削減が期待できます。特に「Check」の段階では、定期的なモニタリングとデータ分析を行い、対策がどの程度効果を上げているのかを数値で把握することが重要です。
エネルギー使用量を把握する
具体的な省エネ目標や担当者を定めるためには、まずエネルギー使用実態を正確に把握することが欠かせません。例えば使用量・料金単価・設備運用管理データ・図面などの資料を収集し、それらをもとに現地調査を行います。設備の稼働状況やエネルギー消費量を確認し、どこにムダが潜んでいるかを洗い出すことで、効果的な省エネ策を検討できるようになります。また、定期的にエネルギー使用量を測定・分析することで、省エネ対策の効果を定量的に評価することも可能になります。
再生可能エネルギーを導入する
CO2排出量を削減するため、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを導入することも効果的な省エネ対策の一つです。再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、自然界で繰り返し起こる現象から取り出すエネルギーのことを指します。
【再生可能エネルギーの導入のメリット】
・CO2排出量の大幅な削減
・エネルギーコストの長期的な削減
・エネルギー自給率の向上
・企業イメージの向上
ただし、再生可能エネルギーの導入には初期投資が必要となるため、事業規模や立地条件、投資回収期間などを考慮して、最適な導入方法を検討することが重要です。
4.製造業の省エネ対策:専門家のサポートで効果的な取り組みを
製造業における省エネ対策は、法改正や地球環境への配慮、コスト削減など、さまざまな要因から重要度を増しています。CO₂削減やランニングコストの低減、設備の負担軽減といった具体的な取り組みに加えて、PDCAサイクルを意識した計画的な省エネ活動やエネルギー使用量の正確な把握、再生可能エネルギーの導入など、多方面からの手法を組み合わせることが効果的です。
こうした省エネ対策をさらに後押しするのが、ものづくりの現場における「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。データ収集や可視化技術、クラウドと連携した生産管理システムを活用することで、エネルギー使用量の推移や設備稼働状況をリアルタイムで把握しやすくなります。結果として、ムダを早期に発見して改善したり、稼働状況に応じて効率的に生産ラインを見直したりと、継続的な省エネの強化につなげることが可能です。
【省エネ対策とDX推進の活用例】
STEP1:IoTセンサーによるエネルギー使用量の可視化
STEP2:AIを活用した生産設備の最適制御
STEP3:デジタルツインによる工場全体のエネルギー効率シミュレーション
STEP4:ビッグデータ解析による無駄の発見と改善
当社の提供するソリューションでは、製造現場のDXを推進するための支援を幅広く行っています。省エネに特化したコンサルティングサービスではありませんが、生産性向上や見える化を通じて、省エネ効果が期待できる取り組みを後押しすることが可能です。たとえば、生産管理システムやIoT技術を導入して現場のデータを集約し、工程ごとの稼働やエネルギー使用状況を一元管理すれば、改善の糸口を見つけやすくなります。さらに、導入後も操作簿や問い合わせ対応などのサポートを受けることで、社内のDXをスムーズに定着させることができます。
製造業における省エネの実行は、企業価値やコスト削減、生産性向上など多方面においてメリットをもたらす重要な取り組みです。DXの推進によって、その効果をさらに高められる可能性があります。まずは自社の現状を見直し、実現したい目標や課題を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。