製造業におけるカーボンニュートラルとは?達成に向けてできること
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カーボンニュートラルとは、二酸化炭素(CO₂)などの温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にするという概念のことです。これは「カーボン=炭素」と「ニュートラル=中立」を組み合わせた言葉で、主に化石燃料の燃焼や工業プロセスによって排出される温室効果ガスを、植林や技術的な吸収方法で相殺することを目指します。
似た概念として「脱炭素」が挙げられますが、脱炭素は炭素の排出そのものを「削減」することを指しており、炭素の「相殺」を含む包括的な概念であるカーボンニュートラルとはアプローチが異なります。
本コラムでは、製造業におけるカーボンニュートラルの達成に向けた具体的な取り組みと、その重要性について詳しく解説します。
1.製造業におけるカーボンニュートラルとは
製造業は、経済成長を支える重要な産業でありながら、大量のエネルギーを消費し、多くの温室効果ガスを排出するという側面を持っています。そのため、カーボンニュートラルを実現するためには、製造業の役割が極めて重要です。ここでは、製造業におけるカーボンニュートラルの重要性とその背景について解説します。
カーボンニュートラルへの取り組みが求められる背景
近年、世界的に産業の成長と環境保護を両立させようという方針転換が求められています。日本政府もこの流れに沿い、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げており、2021年には「グリーン成長戦略」の策定が発表されています。「グリーン成長戦略」では、カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な取り組みが求められています。
グリーン成長戦略の概略
- 成長産業の育成
- 再生可能エネルギーや電気自動車(EV)など、カーボンニュートラルに貢献する産業を成長させる
- デジタル化の推進
- DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、生産性を向上させ、エネルギーの効率的な利用を目指す
- エネルギー供給の安定化
- 再生可能エネルギーの導入拡大やスマートグリッドの構築を通じて、エネルギー供給の安定化を図る
- 産業構造の転換
- エネルギー多消費型の産業から、エネルギー効率の高い産業への移行を促進する
- 技術革新の支援
- CO₂の回収・再利用技術や、次世代バッテリー技術など、イノベーションを支援する
- 国際的な協力
- グローバルな取り組みと連携し、日本の技術やノウハウを活用して国際的な貢献を果たす
製造業とカーボンニュートラルの関係
日本がカーボンニュートラルの達成を目指すうえで、製造業は重要な役割を担っています。製造業がもたらす環境負荷は非常に高く、日本における電気・熱配分後のCO₂排出量は、製造業を含む産業部門が35.1%で最も大きくなっています(※1)。この数値は、日本の温室効果ガス排出量において最も大きな割合を占める部門です。そのため、製造業がカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めることは、日本全体の目標達成において不可欠なのです。
※1:環境省「2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出・吸収量」P5「部門別のCO₂排出量」
2.カーボンニュートラル達成に向けて製造業が取り組むべき理由とメリット
カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みは、製造業にとって避けて通れない課題です。
とくに、上流・下流を含めたサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル推進が進む中、企業は製品あたりのCO₂排出量を見える化し、吸収量や除去量とのバランスを取ることが求められています。こうした取り組みは、環境負荷の低減にとどまらず、コスト削減や企業価値の向上といったビジネスメリットにも直結するため、製造業がカーボンニュートラルに向けて積極的に対応する必要があります。
ここでは、カーボンニュートラル達成に向けて製造業が取り組むべき理由について解説します。
■サプライチェーン排出量の発生までの一連の流れ(※2)
※2:環境省「サプライチェーン排出量算定について」を参考にイメージ図を作成しました。
データの可視化によりコスト削減が期待できる
データの可視化によって、工場や設備ごとのエネルギー使用状況を把握し、無駄なエネルギー消費を特定することが可能です。この可視化に基づいて、効果的な省エネ対策を立案・実行することができ、結果としてコスト削減が期待できます。
自社の企業価値・ブランド価値の向上を図る
カーボンニュートラルへの取り組みを通じて、社会への配慮や環境保護に対する高い意識をアピールすることで、企業の評価が向上します。この結果、取引先や採用応募者などに対してポジティブな効果が生まれやすくなります。参考データとして、中小企業庁「第2節 中小企業・小規模事業者のカーボンニュートラル」にある、カーボンニュートラルの取り組みによる業務や企業としてのブランド価値への効果に関するグラフ(※3)を紹介します。
資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業が直面する経営課題に関するアンケート調査」
(注)1.カーボンニュートラルの促進によって期待される効果について「その他」、「当てはまるものはない」と回答した企業を含む合計に対する割合を集計している。なお、「その他」、「当てはまるものはない」は表示していない。
2.複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。
※3:【出典】中小企業庁 「第2節 中小企業・小規模事業者のカーボンニュートラル」第1-2-12図
ESG投資の対象になりやすい
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視した投資のことです。世界の投資家の投資判断基準が変化しており、収益性だけでなく、環境・社会・ガバナンスの要素を重要視する傾向が強まっています。そのため、環境への取り組みを積極的に示すことで、投資家から高く評価される企業になることが可能です。また、環境意識が高い企業との取引や、環境関連商品・サービスの開発・販売の機会が増えることも期待されます。
3.カーボンニュートラル達成に向けて製造業ができること
工場や生産現場においても、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入など、持続可能な製造活動を推進することが不可欠です。これにより、温室効果ガスの削減だけでなく、コスト削減や生産性向上、企業価値の向上にもつながります。具体的な取り組みの例を見てみましょう。
消費電力の削減
工場における消費電力は、温室効果ガスの排出量に大きく影響するため、消費電力の削減が重要です。具体的な削減方法としては、使用していない機器の電源をオフにするなど、待機電力を削減することや、エアコンの設定温度を適切にするなどの省エネ運転が挙げられます。さらに、エネルギー効率を向上させるためのコジェネレーションシステムの導入も効果的です。このシステムは、発電と熱供給を同時に行うことで、エネルギーの効率的な利用が可能になります。
省エネ設備の導入
省エネ設備の導入もカーボンニュートラル達成に向けた重要な取り組みです。具体的には、高効率モーターの導入により、従来のモーターと比べて消費電力を削減できます。また、LED照明への切り替えも効果的です。LEDは、白熱灯や蛍光灯と比べて消費電力を削減でき、さらに寿命が長いため、コストの削減が可能です。これらの省エネ技術は、環境負荷の軽減と同時に、企業のコスト削減や競争力の向上にもつながります。
再生可能エネルギーの導入
再生可能エネルギーとは、資源が枯渇せず、繰り返し利用できるエネルギーを指します。例えば、太陽光発電、水力発電、風力発電などが代表的です。これらは一度使用しても比較的短期間で再生が可能であり、CO₂を排出しないため、持続可能なエネルギー供給の手段として高く評価されています。
DXやスマートファクトリー化による生産性向上
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術で「社会や生活の形を変える」ことを意味します。また、スマートファクトリーとは、AIやIoT技術などを駆使し、デジタルデータを元に業務管理を行う工場のことです。DXやスマートファクトリー化を進めることで、ミスが起こりやすい状況を事前に把握できるようになり、生産性の向上につながります。
4.カーボンニュートラル達成における製造業の課題
製造業がカーボンニュートラルを達成する過程では、多くのメリットが期待できますが、一方でさまざまな課題も克服しなければなりません。新たな技術や設備の導入には高額な費用がかかり、さらに長期間にわたる取り組みが求められます。そのため、企業のモチベーションを維持することが重要です。また、実際の効果を検証し、改善を続けるためのシステムも必要です。以下に、具体的な課題とその対策について詳しく説明します。
導入コストの負担
カーボンニュートラル化に向けた設備投資には、多額の資金が必要です。そのため、資金の調達先を確保することが不可欠です。主な対策としては、段階的に導入を進めることや、長期的な視点で投資効果を検討すること、内部留保を活用すること、金融機関からの融資を受けることも考えられます。
現在、カーボンニュートラルの実現のための後押しとして、政府による取り組み状況に応じた様々な支援策の展開や、金融機関においても先進的に取り組もうとする企業を支援・評価する取組が始まっています。カーボンニュートラルについて何に取り組むべきか分からない場合、企業の取り組み段階に応じた支援策を参考に検討してはいかがでしょうか。
STEP | 取り組み段階に応じた支援策 | |
① | 対策について知る | ・中小機構のカーボンニュートラル相談窓口 ・ハンドブックや事例集の参照 ・省エネ診断など (省エネお助け隊、省エネ最適化診断など) |
② | 自社の排出量等を把握する | ・省エネ診断など ・IT導入補助金 ・排出量算定ツール |
③ | 排出量等を削減する | ・省エネ診断など ・ものづくり補助金 ・省エネ補助金 ・CEV補助金 ・省エネ設備投資に係る利子補給金 ・カーボンニュートラル投資促進税制度 ・事業再構築補助金 ・太陽光発電導入補助金 など |
※参考:2023年版 小規模企業白書
「第2章 第2節 中小企業・小規模事業者のカーボンニュートラル」
モチベーションの維持
カーボンニュートラルの実現には、長期間にわたる継続的な取り組みが必要です。そのため、企業のモチベーションを維持することが課題となります。主な対策としては、目標達成に向けた進捗状況を社内で共有することや、カーボンニュートラル達成のための研修を行うことが有効です。特に研修では、目標の意義や重要性の学習や、他の企業や部門での成功事例を共有する等の取り組みを行うことで、自社の取り組みに対する前向きな姿勢を促します。
検証の難しさ
CO₂排出量の削減効果を定量的に検証することが難しいという課題もあります。この課題への対策として、再生可能エネルギーを効率的に利用するための「エネルギー管理システム(EMS)」を導入することが考えられます。また、専門家による検証を受けることで、効果的な施策を実施し、改善を図ることが可能となります。
5.製造業のカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みを実施しましょう
製造業がカーボンニュートラルを達成するためには、エネルギー効率の向上、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用など、多岐にわたる取り組みが求められます。しかし、これらの取り組みにはコストや技術的な課題が伴うことも事実です。『2023年版 小規模企業白書』によると、カーボンニュートラルの取組の重要性を認識し、「知る」ことに取り組んでいる企業は増加しているものの、CO2排出量の把握や削減といった、実際のカーボンニュートラルに向けた取組が進展していない企業が多いことも事実です。
資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業が直面する経営課題に関するアンケート調査」
【出典】中小企業庁 「第2節 中小企業・小規模事業者のカーボンニュートラル」第1-2-8図
それでも、企業が環境への責任を果たし、持続可能な未来を築くためには、積極的にこれらの課題に取り組むことが求められます。持続可能な経済成長と環境保護を両立させるため、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みを進めていきましょう。