多品種少量生産を行う部品加工業は、その特性ゆえに様々な生産管理の課題に直面しています。これらの課題を正確に把握し、適切に対処することが、企業の競争力を維持・向上させる上で極めて重要です。本章では、部品加工業が直面する主な生産管理の課題について詳しく解説します。
頻繁な段取り替えによる生産性低下
多品種少量生産の最大の特徴の一つが、頻繁な製品切り替えです。これに伴い、機械設備の段取り替えも頻繁に発生します。段取り替えには時間がかかり、その間は生産が止まってしまうため、全体の生産性が低下する要因となります。
時間ロス | 段取り替えに時間がかかることで、その分の生産時間が失われます。 |
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熟練工への依存 | 複雑な段取り替えは熟練工に頼らざるを得ず、人材の偏りや技術伝承の問題につながります。 |
品質のばらつき | 段取り替えの頻度が高いほど、品質のばらつきが生じやすくなります。 |
コスト増加 | 段取り替えの回数が増えるほど、それに伴う材料のロスや調整時間が増加し、コストが上昇します。 |
これらの問題に対処するためには、段取り替え時間の短縮や、段取り替えの頻度を減らすための生産計画の最適化が必要です。例えば、SMED(Single Minute Exchange of Die)のような手法を用いて段取り替え作業を分析し、効率化を図ることが有効です。また、類似した製品をまとめて生産するロット生産方式の導入も、段取り替えの回数を減らす効果があります。
複雑化する工程管理と納期遅れ
多品種少量生産では、各製品の生産工程が異なるため、工程管理が複雑になりやすいのも特徴です。また、「うちは特殊だから」と、なかなかシステム化できていない一つの原因とも言えます。これにより、以下のような問題が発生しやすくなります。
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- ① 進捗管理の困難
- 多数の異なる製品を同時に生産するため、各製品の進捗状況を把握することが難しくなります。また、製品一点ずつのリードタイムが短く、加工実績などの日報データをリアルタイムに反映できない課題もあります。
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- ② 工程間の待ち時間の増加
- 異なる製品の工程が混在することで、工程間の待ち時間が発生しやすくなります。
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- ③ 納期遅れのリスク
- 工程管理が複雑化することで、予期せぬ遅延が発生し、納期遅れにつながるリスクが高まります。納期遅延を防ぐためにも、①の進捗管理の徹底が必要です。
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- ④ 優先順位付けの難しさ
- 緊急注文(特急品)対応や納期の異なる製品が混在する中で、適切な優先順位付けが難しくなります。様々な製品を幅広く対応するため、現在の仕掛案件や負荷状況が見えないと適切な対応ができなくなるため、各部署での連携やデータ共有が必要となります。
これらの課題に対処するためには、リアルタイムで各製品の進捗状況を把握できる生産管理システムの導入が効果的です。また、工程設計の最適化や、柔軟な生産ラインの構築によって、工程間の待ち時間を最小限に抑えることが重要です。さらに、営業部門と生産部門の緊密な連携により、受注時点で適切な納期設定を行うことも、納期遅れのリスクを軽減する上で重要です。
在庫過多と在庫切れの悪循環
多品種少量生産では、各製品の需要予測が難しく、在庫管理にも頭を悩ませている企業様も多いのではないでしょうか。在庫管理の課題では、在庫過多や在庫切れ、仕掛品の増加といったものがあります。
在庫過多 | 需要予測の不確実性から、安全在庫を多めに持とうとする傾向があり、結果として過剰在庫を抱えてしまう |
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在庫切れ | 予想外の受注や需要の急増に対応できず、在庫切れを起こすリスクが高まる |
仕掛品の増加 | 多品種の製品を同時に生産することで、仕掛品の量が増加し、資金の固定化につながる |
原材料在庫の管理難 | 多種類の原材料を使用するため、適切な在庫レベルの維持が難しくなる |
これらの課題を解決するためには、在庫の入出庫管理や、適切な場所に在庫を保管するなどの環境を整えることが大切です。また、在庫管理のヒントとして、次の取組みについてもぜひ参考にしてみてください。
需要予測の精度向上 | 過去のデータ分析や顧客との密接なコミュニケーションにより、より正確な需要予測を行います |
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ジャストインタイム 生産の導入 |
必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する方式を導入し、在庫レベルを最小限に抑えます |
かんばん方式の活用 | 工程間の情報伝達を効率化し、必要最小限の在庫で生産を行う仕組みを構築します |
ABC分析の実施 | 在庫アイテムを重要度別に分類し、管理方法を最適化します |
在庫の可視化 | リアルタイムで在庫状況を把握できるシステムを導入し、迅速な意思決定を可能にします |
属人化した業務プロセス
中小規模の部品加工業では、特定の従業員の経験や勘に頼った業務プロセスが多く存在し、属人化を引き起こします。
技術やノウハウの 伝承が困難 |
熟練工の退職や異動により、重要な技術やノウハウが失われるリスクが生じる |
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業務の非効率化 | 標準化されていない作業方法により、無駄な作業や重複作業が発生しやすい |
品質のばらつき | 作業者によって作業方法が異なると、製品品質にばらつきが生じる可能ある |
柔軟性の欠如 | 特定の従業員にしか対応できない業務があると、急な欠勤や繁忙期の対応が難しくなる |
これらの課題に対処するためには、業務の標準化やITシステムの活用といった取り組みが効果的です。今までのやり方を変えるには、業務の見直しや社内調整など負担が多いのも確かです。
まずは、改善の第一歩として、現状を把握し、改善点や導入後の目標を明確化してみるのはいかがでしょうか。